巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #12 LizNoir編

 『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語っていくのもいよいよクライマックス。残り2枠となってきました。

 

今回は、アニメにおいて星見プロのアイドル達に立ち塞がるもう一角のボスグループ『LizNoir』編。

 

もう一角のボスグループである『TRINITYAiLE』は、直接対決以外でほぼ星見プロとは関わりが無かった。(アニメでの描写では)その一方でLizNoirは、星見プロと因縁浅からぬ関係として描かれていきました。

 

LizNoirに関わる数多の人の因縁と、彼女達が紡いだ刻を巡る物語を紐解きながら、考察をしていこうと思っております。


 これまでの考察同様、自分の勝手な暴論&妄想に基づいたモノで恐縮ですが…是非ともお時間が許されるのならお付き合いいただければ嬉しく思います。

 

 

 

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 From grace to hatred~恩義から憎悪へ……


 アニメ版に限った話であるのだけれど…本作に登場する主要アイドル達、星見プロ(麻奈、月のテンペスト、サニーピース)とTRINITYAiLEの中で、LizNoirが一番早くにデビューしている。

ただし、添付してある画像では四人いるが中央にいる二人の人物、小美山愛(中央右側)と赤崎こころ(中央左側)はアニメの時点ではまだバンプロの育成機関の練習生でまだデビューしていなくて、最終話のEDにて彼女達が加入する描写がある。その為、本稿における考察で愛とこころについては触れないものとして進めていきます。


 本作に登場するアイドル達の志望動機が、アイドルに対しての憧れを抱き自分もそういう存在になりたいというのがほとんど。この作品がおそらく数多あるアイドルアニメで一線を画していると思われるのが、第1弾プロモーションムービーに出て来る『稼ぎたい』という言葉。

キラキラした憧れの要素を描写する傾向が強いアイドルを題材にした作品では金銭を稼ぎたいという要素はおそらくタブーまでとはいかなくても極力避けられている様に思えます。

それは、アイドルが作品でどういった立場にあるのかで変わって来ます。完全なプロの仕事=ビジネスの一つとして描いていれば、自分の培ったスキルでもって評価=報酬に反映される事を描くのは自然だろう。また、スポ根の様なテイストでアイドルを捉えれば稼ぎたいというのはあまりいいイメージでは描かれず直向きに努力して目標を叶える事にウエイトを置いて描く。この『IDOLY PRIDE』では両方の要素でアイドルを捉えている様に自分は感じられたのです。


 その『稼ぎたい』という想いを抱いてアイドルの門を叩いたのがLizNoirのメンバーとなる神崎莉央。
彼女の持つ性質である攻撃的で自他ともに厳しい姿勢で貪欲に高みを目指すハングリー精神を感じさせるのはそういう背景があったからなのでしょう。ちなみに、莉央が金銭に執着しているのは私利私欲ではなく、母親が経営している実家の店(喫茶店)を経済援助する為だったと語っている。

母親に楽をさせてあげたい想いがあっても、とにかく稼ぎたいというのは莉央にとっては不純な動機だというのは変わらなかったし、そうして培った技術はただの見せかけであり真に人の心を揺さぶるモノではないと当時の彼女は気づけなかった。


まあ、そんな頃……莉央は、三枝さんがスカウトして来た井川葵と巡り逢う。彼女との巡り逢いによって、莉央は一つの呪縛から解き放たれる事となった。


 井川葵という人物は、掴み所の無いミステリアスさに自由奔放で枠にとらわれない思想をしている。そんな彼女は莉央のパフォーマンスを『重たい』と評した。

それは莉央が抱いているしがらみや認めてもらえずデビュー出来ない現状への不満と焦燥感がパフォーマンスに憑りついてしまい、更には技量のみの薄っぺらいモノで尚且つ心の底から莉央が楽しめていないと葵は感じて、それは彼女が気の向くまま好きな時に踊りたいというスタンスからしたら異質だったから『重い』と評したのでしょう。


 そして、葵が莉央に魅せたパフォーマンスは枠にとらわれない彼女のパーソナリティが表れているかの様に自由で軽やかなモノだったと言う。ダンスに限ったら葵は紛れもない天才と称される存在。長瀬麻奈や天動瑠依も天才と称されていたが、葵は麻奈と瑠依とはまた違うタイプの天才なのだろう。本能におもむくままという点は早坂芽衣に資質が似ている。

それ故に、葵自身は上昇志向や執着という感情は薄い印象が見受けられる。好きなダンスが踊れるならば立場や機会への拘りはなく、莉央とは真逆の性質で彼女にないモノを持っている。


 なんやかんやあり、莉央と葵は『LizNoir』を結成。三枝さんのプロデュースを受けて念願のデビューを果たす事になった。高名なプロデューサーとして名を馳せていた三枝さんの下ならばトップアイドルへの軌跡を早く駆けられてより稼ぐ事が出来る希望に莉央は満ちていた。

彼女が回述(11話で)していたがデビュー後も好調で忙しい日々を送っていて人気が出てきた矢先……三枝さんは突如バンプロダクションを退社し、独立する事になってしまった。

三枝さんが独立に至った真意は不明だけれど『今更朝倉とやり合うつもりもない。』という言からすると、朝倉さんと何らかの対立が切っ掛けになったのは伺えるが、莉央からしたらそんなOTONAの事情はどうでも良くて、デビューさせてくれて恩義を感じている三枝さんのこの行動は裏切り行為であり見捨てられたと感じたでしょう。

ただ……3話で星見プロを訪れた際、三枝さんへバンプロへの復帰とそれが叶わない場合自分達が星見プロに移籍すると直訴した。世に出る機と伸び悩んでいた時期に葵を引き合わせて殻を破る切っ掛けを与えてくれた最大の恩人でもある彼をどうしても莉央は完全には憎めなかったと思います。


 そして……三枝さんがバンプロを去ってまもなく、ある一人の少女の出現がLizNoirの運命を劇的に変化させる事になっていくのであります。

 

 

 

 つけられなかった決着、止まった刻


 LizNoir、神崎莉央にとっては切っても切り離せない因縁で繋がった者である少女……長瀬麻奈が三枝さんが新たに設立した『星見プロダクション』からデビューする。


麻奈に対して『癇に障った』と莉央が吐露した様に、莉央にとって麻奈の存在というのは面白くない存在でしかなかった。莉央達を見限った(と思っている)三枝さんがスカウトしたというのもそうだろうし、自分が叶わなかったソロでのデビューもそう。

更には、東京の大規模会場でLizNoirが打ち立てた新人の動員記録まで塗り替えた。これでは麻奈を意識しない方がまあ無理というモノである。そして、元々の勝気で負けず嫌いな性格もあって、長瀬麻奈に強烈なライバルというか仇敵に近い意識を抱くのは必然であり何が何でも打ち負かさないとならない存在。

 


 自分よりも凄い子が同じアイドルにいる。コイツ(麻奈)に勝たなきゃ先へは進む事は出来ないし、未来を掴み勝ち残る事も叶わない……と、莉央の本能が悟ったのでしょう。

 

 

 後から突如現れ、並ばれたのはほんの僅かな瞬間……あっさりと抜かれ常にLizNoirの先をとんでもない速度で駆けていると莉央は感じたのでしょう。勿論、LizNoirだって無為に刻を過ごして止まっていたワケじゃない。ただ、麻奈の駆ける本気の速度が異常加速の領域まで行きついてしまったのだ。



そんな中、第14回『NEXT VENUSグランプリ』の開催が告げられる。



 当時のアイドル界の情勢と言うか勢力図的なモノは分からないので想像(妄想)の域の話ですが…若手アイドルの中での勢力図はリズノワと麻奈による二強時代だったと捉えております。麻奈とほぼ同時期にデビューした遙子やバンプロ、更には数多いる他の若手アイドル達を置き去りにしてしまうほどにリズノワと麻奈の勢いは凄まじかった…という事なのでしょう。

大方の予想では、LizNoirが優勝の本命で麻奈は対抗として予想されていた。その予想通り両者は順当にグランプリを勝ち抜き決勝で戦う事に。

前述の通り、莉央から見た麻奈の印象は仇敵としてしか見えてない。自分達の事なんて眼中に入っていないと。そんな時、麻奈の方から決勝の健闘を誓い合う握手を求められる。

麻奈からしたら、純粋な気持ちで健闘を誓おうという意志で握手を求めたが、莉央の方はその余裕から見下されていると思い込んでしまい『これから戦う相手と仲良くするつもりは無い』と更に敵愾心を滾らせて握手を拒否する。そのやり取りを見ていた葵も麻奈に対して頭に来たらしく勝ちたいという意志を見せた。莉央以外の者に感情や執着に突き動かされるというのはこれまでの葵らしからぬモノ。葵もまた麻奈に影響を受けた者だったと言える。


 それぞれの懸ける想いと負けられない理由を秘め、決戦の刻は迫って来ていた。
しかし……その結末は予想だにしないモノ。LizNoirは決勝だけではなく、未来永劫長瀬麻奈とは決着を付ける事が叶わなくなってしまった。



 長瀬麻奈の不慮の死という受け入れ難い現実を突き付けられたのである……



 倒すべき最大の敵を突如失った莉央の心情は穏やかなモノじゃなかった。麻奈に正々堂々戦って勝つ事が莉央の最大のモチベーションだったはず。ライバルは一人でも減った方が良いのだろうが負けん気が強く、競い合う事で自らを高められるタイプの彼女からしたら最大のライバルである麻奈を失ったという事は戦う意味を失い、同時にアイドルとしての存在価値までも見失い、莉央の刻は止まってしまったという事なのでしょう。

公式のキャラクター紹介ページの莉央の項に、アイドル活動を休止していた時期があったと記載されている。その時期を推測してみると……本編(アニメ2話以降)では普通に活動をしていたから、麻奈が亡くなってから~2話の間の時期と考えるのが妥当か。


 神崎莉央にとって長瀬麻奈という存在は、単純には語り尽くせない存在。
因縁、運命の巡り合せで勝敗を決しなければならない関係。麻奈がいたからこそ行きつく限界の先を超えようと踏み込む事が出来た。莉央の先には死してなお全速力で駆けている麻奈の背中…即ち、麻奈の幻影が存在しているのだと。

 

 


 

 因縁、再び。そして幻影の先へ……


 莉央と麻奈の逃れられない因縁は別の形となって新たな縁と巡り逢わせた。
麻奈の遺志を受け継ぎアイドルの軌跡を歩みだした妹・琴乃との巡り逢いである。

莉央と琴乃との絡みで印象深いのが、8話で琴乃の事を麻奈によく似ているだけの劣化コピーでしかなく、このままでは先に進む事は出来ないという酷評でしょう。


 莉央からしたら『NEXT VENUSグランプリ』の予選をギリギリで通過した当時の琴乃はまだ脅威として認識はしていないはず。にも拘らず、琴乃を罵倒するような言い方をしたのは昔の莉央自身を見ている様な感覚を抱いたからではないでしょうか。そう、余裕が無くてただ技量を追い求める事に躍起になっていて枠に囚われていた頃の莉央の姿とダブって見えた。

自他ともに厳しいとは言っても、何の感情を抱かない人間に対して罵倒に近い辛辣な言葉を浴びせたりはしない。(もっとも、本気で気に入らない奴なら別だろうが……)どちらかと言えば主要アイドルの中で最もOTONAであり常識が備わっている莉央ならそんないきなりの暴挙はしない。

だから、琴乃に敢えて酷評したのは莉央なりの激励だったのだろう。自分と同じく死者(麻奈)の魂に囚われる事はないと。琴乃の方も莉央の真意はおそらく理解出来ていたし、自分と同じく麻奈に拘っている者というシンパシーを抱いたはず。その明確な答えが莉央を呼びつけて語ったシーンに繋がる。

 

 

 長瀬麻奈が本物のアイドルなら、彼女を超える事で私は自分をアイドルとして認める事が出来る。

 だから彼女と戦うはずだったこの大会で優勝する。三年前にどちらかが見ていたはずだった景色を見る。


 その上に自分に問うわ。長瀬麻奈を超えたかどうか。

 みんなの心を揺さぶり、元気にさせるアイドルになれているかどうか。
 

 

 

 かつては憎悪に近い対抗意識を抱いていてただ打ち負かしたい存在から、麻奈の輝きに触れてアイドルの持つ真の輝きに魅せられ憧れを抱いた。麻奈は亡くなった事によって、超えられない領域の先へ麻奈は辿り着いたと莉央は思っている。拘り続けているのは超えられない壁の向こうで麻奈が駆けている幻影が見えるからだろう。それが真のアイドルが辿り着ける領域だと思っている。

そして、麻奈がかつて莉央にした様に、彼女は琴乃に対して正々堂々純粋な魂でもって全力で戦おうと健闘を誓う。琴乃も力強く莉央の想いに返事を返した。このシーンは何とも清々しく胸が熱くなるシーン。


 そうして訪れたLizNoirと月のテンペストとの決戦の刻。LizNoirは『GIRI-GIRI borderless world』で決戦に臨む。完全な妄想の域だが、おそらくは麻奈との決勝で歌う楽曲だった…と勝手に思っている。そう感じさせたのは、紡いでいる詞がLizNoirの生き様と強く結びついているからだと。

あの刻(三年前)に置き去りになってしまった忘れ物を取り戻す為、月のテンペストに勝てば『答え』に一歩近づけると信じた。詞にもある様に莉央と葵は命の音を燃やしパフォーマンスに全部懸けた。

ただし……この楽曲の歌詞は生き様を示す様な激情はあるけれど、本当に叶えたい願いと答えに関しては明確な指針が描写されていない。それは、『NEXT VENUSグランプリ』で優勝が叶わないと麻奈を超える事が出来たのか?という莉央がまだ出せていない答である様にも繋がってしまう。

一方で、月のテンペストは、自分らしく自分の道を切り拓いていく意思が込められた『The One and Only』で決戦に臨んだ。莉央と決定的に違ったのは、琴乃はもう麻奈の幻影の先を見る事が出来てそこに踏み込む覚悟が出来ているという事。勝敗を決めた差はそこにあったのだと。


 誰にも割り込めない心躍る戦いは、月のテンペストの勝利で終焉を迎える。
その事を証明したのが『楽しかった』という莉央の言ではないだろうか。琴乃も莉央と同じく楽しかったと返し手を差し伸べる。その握手を求める手は琴乃の手だが莉央の眸には麻奈の姿が見えた。


 莉央が、麻奈の魂を認識できたかどうかは分からないし、実際には認識できないのだろう…それでも、琴乃が手を差し出した姿に麻奈の姿がダブって見えたというのは一つの奇跡。気にする素振りを見せず無視されていると思い込んでいた麻奈が自分達のステージを見てくれたと思った。更には、琴乃から麻奈が莉央の事をライバルとして認識していた事も告げられる。

これらの一連の出来事は麻奈の幻影に囚われていた莉央を本当の意味で解き放たれ救われる決め手になったのではないでしょうか。

 

 

 だとしたら、私も頑張って本物のアイドルにならないとね。
 
 
 あの子(麻奈)をガッカリさせない為にも。

 

 

 『NEXT VENUSグランプリ』で優勝出来なければ麻奈を超えた証明にはならないと思い込んでしまった。求める答えはそこにしかないと。でも、麻奈の幻影を超えた先は既に見えていたけど気づけなかった様に思えるのです。誰よりも麻奈に拘り続けていたからこそ成長出来たが、想いが強過ぎて見えなかったモノもあった。

 

 『NEXT VENUSグランプリ』は、月のテンペストとサニーピースのダブル優勝という前代未聞の結果で幕を下ろした。

 

その頃LizNoirにも変化の刻が訪れた。小美山愛と赤崎こころの二人がLizNoirの新メンバーとして加入して新生・LizNoirとして生まれ変わった。生真面目だけれど猪突猛進の気のある愛と、一癖も二癖もあり口達者なこころ。彼女らもクセの強いアイドルで莉央の胃と神経に負担がよりかかりそうではあるが……新しい血を入れて生まれ変わったLizNoirは新しい刻を刻んで物語を紡ぎ出した。


 莉央、葵、愛、こころの前には、荒れ放題の荒野が広がっているのでしょう。
でも、その先にはオアシスもあり新たなステージが無限に拡がって、誰にも屈しない魂があるのでしょう。この四人なら最高の景色が見られると信じて。

 

 


 と、いう事で……LizNoir編でした。
まあ、グループ全体と言うかは神崎莉央の事ばかりになってしまった感は否めません……言い訳になってしまいますが…それだけ自分がこの作品を見た際に抱いた神崎莉央の生き様に魂が持っていかれたという事の証であるという事なのです。

 

 さて、長らく続けてきた『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語る独自考察もいよいよ次回でラスト。

 

『IDOLY PRIDE』のアイドルの中でスペシャル・ワンの存在である長瀬麻奈編。

 

彼女が関わった多くの縁と生き様。その辺りを出来得る限り考えを巡らせて書き殴れればと思いますので、是非ともお付き合いしてもらえたら幸いであります。

 

 

 

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #11 TRINITYAiLE編

 どうも。IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語るお時間でございます。



11回目となる今回は、アニメのストーリーにて星見プロのアイドル達に立ち塞がるライバル(ボス)グループの一角である『TRINITYAiLE』

 

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 アニメのストーリーでは、星見プロのアイドル達(月のテンペストとサニーピース)の成長と、彼女達がスペシャル・ワンの存在にある長瀬麻奈の幻影の向こう側へ踏み出す事をマストにして描かれていたと思います。特に、麻奈との因果関係は星見プロのアイドル達だけではなく『TRINITYAiLE』にもあって、彼女達(特に瑠依)も麻奈の幻影に囚われていたとも言えると勝手ながら思っています。

そんなこんなで、これからアニメでの『TRINITYAiLE』についての考察を書いていくワケですが……ライバル(ボス)グループという立ち位置と尺の短さという制約の中、三人の詳細なパーソナリティやバックグラウンドまでは描写しきれていなかった。なので、個人寄りではなくグループ全体に寄った考察になっておりますが……暖かい目で読んで下さるとありがたく思います。

 

 

 

 三位一体の翼


 作中のアイドル業界において大手事務所のバンプロダクションに所属する、天動瑠依、鈴村優、奥山すみれの三人によるアイドルグループがTRINITYAiLE。デビューして瞬く間に新人では異例の知名度を得ていて、その当時まだデビューしていなかった(遙子は除く)星見プロのアイドル達とは一線を画した強敵=ボスとして立ち塞がる事となる。


今更書くまでもない事ではあるのだけれど……この作品はグループそれぞれに異なった特色・アイデンティティがあり楽曲にも反映されている。


 儚さと同居している凛とした佇まいが特色の月のテンペスト。陽の光の様な明るさと温かみを持つサニーピース。荒々しく力強い楽曲を軸にし、比類なきパフォーマンスを魅せるLizNoir。そして、清廉かつ王道的なアイドルの軌跡を往くTRINITYAiLE。

その清廉さの根源というか、そう感じさせたのはグループ名に冠された『AiLE』(エール)フランス語で翼の意味を持つ単語の影響が強くあったし、センターでもある瑠依の潔さと気高さというパーソナリティもあるのだと。10話にて、TRINITYAiLEと直に対面した雫が拝む所作をしていたのは、彼女達に神々しいインプレッションを雫が抱いていたからそういう所作になったのだろう。

そんな瑠依に寄り添っているのが、京言葉が特徴的で(エロ…艶っぽい)雅な佇まいを醸し出すが、腹の内(本心)を迂闊に晒さない強キャラ感もある優、天才子役として名を馳せ、アイドルに転身した明朗快活で純朴なすみれ。三人のパーソナリティは勿論それぞれに違うモノだが、個としてもグループとしてもトップアイドルを目指す事を異口同音に発している事から、メンバー間のベクトルは一致していて、三人の確固な絆へと結びついている。


 作中で、雫が言及していた様にTRINITYAiLEのパフォーマンスの質の高さと、積み上げてきた実績(ライブバトルでは無敗)は、星見プロのアイドル達と比較すると圧倒的な差が明確なモノ。

加えて、月のテンペストとサニーピースは『NEXT VENUSグランプリ』の予選を15位、16位とギリギリで通過している。(ちなみに、トリエルは2位通過)更には、TRINITYAiLEの所属しているバンプロダクションは前述でも触れたように、業界では大手のプロダクションで、万全の設備や予算にも恵まれ、自前の育成組織での過酷な練習と競争を乗り越え生き残ってきた彼女達を、つい最近まで素人だった(遙子以外)サニーピースが打ち負かすとは考えにくい。でも、結果として確かなのはTRINITYAiLEが負けたということである。

完璧に近い存在よりも、雑多な個の危うい輝きに観衆が惹かれて魅了された……という事もあるのだろうが、ただそれだけの理由が敗因でもない。


 勝者と敗者の差。一体、何が勝負を分けたのか?それは、一人の少女があるモノに囚われてしまって『翼』をもがれてしまったと……自分は考えていて、その少女=瑠依が囚われて払拭できなかったモノへの執着が敗北に結びついてしまったのではないだろうか。

 

 

 

 

 純然な“憧れ”から、ある者に“認められたい”という執念へ……


 本作で、最も多いアイドルへの志望動機でもあったアイドルへの憧れ。瑠依もまたそんな少女の一人。一刻も早く夢を叶える近道として、彼女は業界大手のバンプロダクションの門を叩いた。

そんな折、彼女の母親から、バンプロダクションの社長である朝倉さんは瑠依の父親であると打ち明けられた。瑠依からしたら家族より仕事を優先するために切り捨てられたと思っていて彼に対して良い感情は抱いていない模様。実際に、朝倉さんと顔を合わせるのだが当然ながら彼は瑠依の事は単なるアイドル候補生の一人としてしか見て無い。そんな彼に瑠依はこう言い放った。

 

 

 人々に夢を与え、眩しく輝き、常に目が離せない。

 
 そんな絶対的なアイドルに私はなります。

 

 

 知ってしまったからにはもう退く事はできない。実の父親である朝倉さんに自分の事を認めさせるという別の目標が芽生えた。それは、瑠依の高いモチベーションとなってただ直向きに努力を積み重ねていく。そんな瑠依の情熱はグループを組むことになった優とすみれにも火を点ける。

ところが……その対象である朝倉さんが理想のアイドルとして認めていたのは、スペシャル・ワンの存在にまで昇華した長瀬麻奈である事を瑠依は知り、彼に認めてもらうには麻奈が打ち立てた無敗記録を超えなきゃならないと悟る。まあ、ものの見事に瑠依は死人の魂(長瀬麻奈の幻影)に魂が囚われてしまった。

結成以降、トップアイドルへ羽ばたくと掲げた三人の目標は瑠依の個人的な執着が混在して、長瀬麻奈の打ち立てた無敗記録を更新するという形に変換されてしまった。


 瑠依は、朝倉さんと顔を合わせる度に麻奈の無敗記録に迫っている事をアピールした。徐々に伝説を超える軌跡を認めてもらいたいという想いを分かって欲しかったのでしょう。でも朝倉さんは、過去の記録に拘っているうちは麻奈には遠く及ばないと瑠依の想いを一蹴する。

朝倉さんがあえてこの事で瑠依の物言いを突き放しているのは、瑠依自身に過去の人間の記録を追うだけの無意味さを自分で気付いて欲しかったのでしょう。仮に朝倉さんがそれを懇切丁寧に説いても瑠依は聞く耳持ってくれないだろうしそれも瑠依の為にならないと思っていた。娘(瑠依)も不器用で融通利かない感じだが父親の方も不器用なんだと感じる。


 勝ち続けても、本当に認めて欲しい人には全然届いていない。それは瑠依の魂がより麻奈の幻影に囚われていく事を意味した。そこで優とすみれが瑠依をすくい上げられるアクションを起こせれば拗れなかった。だが、優は瑠依を最大に輝かせる方向にベクトルがあったし、すみれはとにかく三人でこのまま勝ち続ける事が重要だと思っていた。三人共に誰も間違っていないし悪くも無かったのだ。


 勝ちたい、認めてもらいたいという執念は駄目な事では無い。但し、それが良い方に行けばの話だ。だが、強過ぎる想いは刻と機で魂を縛る鎖にもなってしまう。TRINITYAiLEはその鎖で翼を縛られてしまい、瑠依、優、すみれはそれに気づけなかった……誰も答えを見いだせないまま、NEXT VENUSグランプリ・セミファイナルに挑む事になった。彼女達に勝ったら長瀬麻奈の無敗記録は更新される誘惑に導かれて……

対戦相手は、長瀬麻奈の歌声を継承する者である川咲さくら率いるサニーピース。
麻奈の歌声を継承する者を倒して記録を更新する。瑠依にとっては最高の舞台が整ったともいえます。サニーピースに勝って記録更新出来たら、きっと認めてもらえると信じて疑わなかった。


 ですが、それこそがTRINITYAiLEが犯してしまった最大のミスだったのです。

 

 

 

 幻影を超えた者達と超えられなかった者達との差


 TRINITYAiLEがセミファイナルで歌う楽曲は、彼女達が一番息が合って目を閉じていても互いの動きが最も分かると評している楽曲『les plumes』で挑む事に。彼女達がこの楽曲に相当の信頼と自信を持っていたからこその選択だし、最も勝率の高い楽曲でもある。



でも、この選択に大きな落とし穴があったのだ……

 


 普通のアイドルだったらこの選択で何の問題も無かっただろう。しかし、川咲さくらは普通の範疇には収まりきらない規格外のアイドルだった。瑠依たちにはそんなつもりは無かったかもしれないが、どこかでさくらとサニーピースの力を見誤っていたのかもしれない。初戦から見ていたものの…サニーピースの成長速度が異常なブーストで加速していたのもあった。

そして、真に戦う相手自体もちゃんと見据えていなかった…つまりは、今のサニーピースではなくあくまでも長瀬麻奈の無敗記録を破る事に執着してしまった。瑠依が戦い続けていたのは今の刻を生きるアイドルではなく過去(死人)に囚われていたし、結局は麻奈の幻影をまだ超えられていない。

その対極にいるのが、麻奈の幻影を超えたさくら達サニーピース。さくらが乗り越えられたのもあった。それに、怜、遙子、千紗、雫もさくらだけに頼らないで彼女達自身が輝く事をより意識して共に未知の領域へと踏み出せた。五人の覚悟の象徴が準決勝にて初披露となった『EVERYDAY! SUNNYDAY! 』というサニーピースにしか謳えない楽曲がその答えでもあった。


 ステージに立つ者の感情を観客は敏感に察知する。これは麻奈がさくらに説いた言葉。瑠依が真に向かい合わなきゃいけなかったのは、麻奈の幻影や朝倉さんではなく、直に戦うサニーピースと観客だった。

彼女達が選択した最も勝率の高い楽曲は、マイナス面で見ると安全策を取ったとも言える。まさかサニーピースが二回戦同様にまた新曲を持ち出して来るとは思いもしなかったでしょう。

けど、さくら達は短期間でそれを見事にやってしまった。TRINITYAiLEもそうだったし観客もそりゃ驚く。それは観客の魂を強烈に揺さぶったモノと言える。更にはステージ袖で見てた優とすみれも惹かれてノリノリだったし、瑠依も驚愕の表情で魅入っていた。何かを超えた者の魂の強さを痛感させられたとも言える。超えた者とそうじゃなかった者の差がどれだけなのかは分からない。紙一重でもあるし途轍もない差だったかもしれない。

 


 そんなこんなで、TRINITYAiLEは初めて負けた。
勝ち続ける事が全てだと信じて疑わなかったし、認めてくれる最善の手段だと思って邁進して来た瑠依。そんな彼女達に朝倉さんはこう言った。

 

 

 記録は、いつか破られるものだ


 アイドルに必要なのは物語だ。それは、輝かしいステージの上でしか語ることはできない。


 いいステージだった。

 

 

 

 連戦連勝を重ねても見向きもされなかった。でも、ステージはずっと観ていてくれていた。
おそらく、初めて瑠依を労い称賛し、TRINITYAiLEの紡いだ物語を認めてくれる言葉だったのではないでしょうか。彼は記録をただ追うのではなく、TRINITYAiLEにしか紡げない物語を紡げと言いたかった。

負けてしまったという事は傷でもあり最大の屈辱。しかし、それによって記録更新は叶わなくなり麻奈の幻影から魂が解放された事を意味している。同時に最も認めてもらいたい存在である父親に認められた瞬間で瑠依の目標が一つ叶った刻。ここまで張り詰めていたモノが取り払われた瑠依は、感極まって滂沱の涙を流した……

この敗北という物語は、TRINITYAiLEにとって生まれて欲しくなかった物語かもしれない。
このまま敗者でいいなんて思っちゃいないし、その程度だと蔑まれたまま終われない。敗れても尚、諦められないモノがあるのだと。瑠依の傍に寄り添ってくれる優とすみれの翼も一緒に未来の刻の大空を翔けていく……

 


 三人の真の夢でもある絶対的なアイドルへ羽ばたく物語がここから始まった。

 

 

 

 
 と、いう事で……TRINITYAiLE編独自考察でした。


『IDOLY PRIDE』という作品で自分が惹かれた一つの要因として、負けた者達の物語にもきっちりクローズアップ出来ていた事だったのです。アニメでの尺は短かったけれども、バックグラウンドでのドラマがあったのだと感じられたし、良い表現ではないがTRINITYAiLEは見事な負けっぷりを見せてもらえたと思っています。


 次回は、もう一角のボスグループである『LizNoir』編。
長瀬姉妹とは浅からぬ因縁を持つキャラクターである神崎莉央が考察の中心になってしまいそうですが……とにかく魂込めて書き殴っていこうと思います。

 

 

 

 

 

 

再び、拳を高く掲げる刻~ガールズフィスト!!!!活動再開&新メンバーお披露目に寄せて。

 2022年1月8日。Youtubeのガールズフィスト!!!!【公式】配信チャンネルにて、活動再開記念と題し、その発表をする為の特番が配信された。

 

 

 

この特番で主軸となっていたのは、昨年の四月末をもって作品とバンドを卒業された藤森月役と南松本高校パンクロック同好会のベースを担当されていた古川由利奈さんの後任になる新メンバーのお披露目。そして、新メンバー加入に伴うバンド自体の活動再開報告もあった。


 公式のチャンネルで番組が配信されるのもほぼ一年ぶりだったし……なおかつ、この数年での情勢下(コロナ過)&古川さんの卒業もあって、バンドの活動も休止状態となっていた。

こういう話は、『ガールズフィスト!!!!』だけに限ったモノではなく、アイドル系コンテンツが等しく時勢の波に吞み込まれた格好になっている。緊急事態宣言下では、何かとライブハウスが目の敵の様な扱いをされて、実際に潰れて閉鎖となったり様々なグループやらコンテンツも活動が困難になって畳んでしまうという話は少なくなかった。その波に『ガールズフィスト!!!!』もいずれ呑まれてしまうのでは…と不安に苛まれた人はおそらく少なくはないと思う。


でも、そんな鬱積しがちな状況にあっても…再動への刻は緩やかでもちゃんと刻んでいたのだ。


 このコンテンツの主軸になるコミック作品の新展開となる『ガールズフィスト!!!! GT』の連載が始まり、どれ程前なのかは分からないが、古川さんの後任になる新メンバーの発掘と育成もしていたのだろう。いろんな所に散りばめられたピースが徐々に組み合わさっていってようやく形になり公の声として世にとき放たれたのだと。


で……藤森月役&新ベーシストとなったのは、井上杏奈さん


井上さんのファーストインプレッションは、初々しさからこういう番組慣れしてなく垢抜けてない感じから、おそらくはデビューしたての新人さんなのかなというインプレッション。ただ、三人の雰囲気の呑まれて萎縮した感じではなかったので結構度胸はあるのかもしれない。まあ、これからどういうキャラクターなりパーソナリティを築いていって魅せていけるのかは楽しみな所だと思う。ひいてはそれが、演技だったり演奏にも形となって表れるだろうから。


 そして番組の内容は、新メンバー発表&お披露目や活動再開の報だけではなかったという事。


まずは、現在連載中のコミック作品『ガールズフィスト!!!!GT』のコミックス1巻が春頃に発売される。とにかく、原作ありきのコンテンツではそのコミック作品が売れる事は非常に大切な事。それはコンテンツの発展に今後繋がっていく事でもある。


 で、新体制による活動再開後初となる楽曲&MVリリースの報。(いつ頃かはまだ未定)
単純に持ち曲が増えるというのは本当に嬉しい報だ。これまでの系譜を汲んだポップで溌剌とした楽曲なのか?一変して『Full of Lies』の様なしっとりした聴かせていく系譜なのか?といろんな興味が尽きない。これはちょっと脱線するが……藤森月がメインボーカルの楽曲『孤独の月』で、井上さんのボーカルで先代の古川さんとは違った楽曲の表情を魅せてくれるのかというのも興味深い。


 それと……これも新体制になって初というか、復活案件と言っても過言ではない定期イベントである公開練習復活の準備。この報は、番組観ててマジで驚いた。自分が『ガールズフィスト!!!!』に惹かれた時は、このイベントは例のアイツの影響で中止を余儀なくされた。これもいつ頃に前向きな報がもたらされるのか現時点では不明で、世情の影響もあるから難しいけども……めでたく復活出来たら是非とも現地参戦してみたいものである。


 更に、2022年……ワンマンライブ開催も計画されているという。それに伴って所属のレーベルであるインペリアルレコードがライブイベントの出演依頼を募集している。(これは前からやっていたみたいだが)

 

www.teichiku.co.jp


 まだ計画段階ではあるけれども、ワンマンライブを前向きに計画しているという報は本当に喜ばしい事だし、出演依頼を経て実戦経験をより積ませる事で彼女達の成長になるし外へのアピールにもなる。言い方がアレだが…こういうドサ周り的なプロモーションもなんか泥臭くていいなとも思うしアリではないだろうか。いずれは作品の舞台にもなっている長野・松本でのライブという話も出てくるかもしれない。

自分も配信で彼女達のライブを観てこれは現地参戦して生でサウンドを浴びたいと思わさてくれたバンドでもある。言い換えれば、自分の金と時間を費やす価値のあるバンドのライブを直で観られる機会がいずれやって来るのはただ単純に嬉しさしかない。その頃には情勢がひとまず落ち着いてくれてる事を願うしかない。そして、現地参戦して拳を高々と振り上げたいものである。



 一旦は、その振り上げた拳を下ろさざるを得なかった。でも、いずれはまた…その拳を再び振り上げられる刻を信じて待ちつつ機を伺った。それがようやく2022年1月8日に叶った。

バンド名も『ガールズフィスト!!!!GT』南松本パンクロック同好会に変わって、Re:スタート(再スタート)を切った。今後に向けていろいろ前向きな報が続々ともたらされたのは未来への希望でもある。

 


 『ガールズフィスト!!!!GT』の今後の動向から目が離せなく楽しみである。

 

 

 

 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #10 兵藤雫編

 『IDOLY PRIDE』キャラクターの独自考察記事も、早いモノで10回目を迎えました。
実感があまり湧きませんが……ここまでこの妄想&暴論で書き殴った独自考察を読んで下さっている皆様には心から感謝致します。


 そんな10回目に考察していく人物は、星見プロに所属する最後のアイドルとなった兵藤雫。
他の人物の考察でも触れてるが、アニメ版におけるストーリー進行のウエイトは雫も所属している『サニーピース』サイドに偏っている。ストーリー的にダブル主人公の一角となった川咲さくら。外部からの“異物”として刺激を与えて変化を促す役割を担った一ノ瀬怜。持たざる者の意地と執念を描写した佐伯遙子。姉離れを主軸とした白石千紗の変わりたい想い。


と、まあ……メンバーそれぞれに濃い物語があったワケで、雫はどういう物語があったのか?それについての考察をいろいろと書き殴ってみようと思う。

 

 

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  “静”の貌と“動”の滾る感情



 兵藤雫という人物は根暗で寡黙なアイドルオタク。アイドルについて語る時は熱い語り口で饒舌だが、基本的には表向きの感情表現がちょっと苦手で積極的にはコミュニケーションを取らない感じ。ただ、意図して人を完全に避けているのではなく、人付き合いは初期の琴乃とは違って悪くはなくて意外と表情豊かな部分もある。

物語の中で彼女が見せた表情で自分が良いと感じたのは、5話の寮にてレッスンでグロッキー状態になってる所に怜が持って来た数多のダンス教則本の山を見て慄く表情と、10話で『TRINITYAiLE』と初めて対面した時に、テンション振り切れて目を見開いて拝みだすシーンが個人的に印象深く面白い。


 前述でも触れたが彼女は筋金入りのアイドルオタクである。しかも、年季の入ったファンからも一目置かれる程でアイドルオタク界隈では有名だとか。そんな彼女は、アイドルを深く知るが故に表向きの華やかな面だけではなく、アイドルがより輝く為に向き合っている過酷な現実が生半可なモノではない事も承知している。

で、アイドルへの深い知識を持つ雫がその知識を活かし、アニメ版の物語において与えられた重要な役割が、他に登場して来るアイドルについての解説役。特に、『NEXT VENUSグランプリ』で10人と競い合う事になる二組のボスユニットのレベルの高さについて語る場面が目立った。余談だが、おそらく本戦に進出した他のグループについても雫の知識にはあるのだろう。

 

 

 多分、出来る。『LizNoir』は本物……

 麻奈さんとずっと、競い合っていたアイドルだから…

 

 

 
 3話で描かれた『LizNoir』と星見プロの合同レッスンは、どう考えてもその時点では絶対倒せない相手に成す術無くやられるのが当然な所謂『負けイベント』ってヤツ。

琴乃達に与えられた課題曲を踊っていたのをたった一度見ただけで、莉央と葵は琴乃たち以上に完璧なパフォーマンスを魅せ付ける。ほとんどのメンバーが本物のアイドルとの圧倒的な差に打ちのめされた格好になっていたが、『LizNoir』の実力もよく知る雫は、今の自分達と彼女達との圧倒的な差は当然な結果として冷静に受け入れてた様に見える。

彼女の『LizNoir』評は、この作品の中において最高・最強のアイドルだった長瀬麻奈を引き合いに出し、『LizNoir』が麻奈に匹敵する存在である事を印象付けさせた。

 

 

 立てる、かな…… 次の相手は『TRINITYAiLE』

 デビューからずっと無敗の超人気アイドル。

 三人のパフォーマンスは完全無欠ッ!まさに最強ッ!!!

 それに、『TRINITYAiLE』のステージからは、絶対に負けないって、強い想い感じる。


 

 

 『LizNoir』とは違って『TRINITYAiLE』に対し、雫はファン目線で見ている節が強くある。
それは実際に10話で『TRINITYAiLE』と対面した時や彼女達の事についての語り口が普段の雫らしからぬちょっとした好意的な感情が激情になってダダ洩れしているからだろう。


 だが、ここで注目したいのは、アイドルとして本格的なレッスンを受けだした頃(3話)と、あれから刻が経って『NEXT VENUSグランプリ』の準決勝(10話)で変化した雫の力のある言葉ではないかと。

彼女の言う『立てるかな』というのは、雫の中においておそらく最も実力的に評価の高いアイドルである『TRINITYAiLE』の凄さをちゃんと踏まえつつ……でも、そういう相手に勝ち、決勝のステージに立つという事をイメージ出来ている事に繋がった様に思える。


 好きや憧れの気持ちだけではなく、そうなる為に負わなくてはならない苦難と現実が待ち受けている事も覚悟の上で、雫はアイドルへの軌跡に一歩踏み出している。琴乃とはまた違った意味で腹括っているキャラクターだと感じられた。

アニメでのストーリーにおいて、『サニーピース』への描写の割合は高い。但し、雫にスポットが当たっていた割合は他の四人(さくら、怜、遙子、千紗)に比べると少ないのだけれども…でも、影が薄いとは感じられずに(アニメの)最後まで描かれていたのは見事な塩梅だった。

 

 

 

 輝きたい未来の空へ…… 

 

 この作品に登場するアイドル達に最も多い志望動機は、アイドルという存在が放つ輝きに憧れを抱いて自分もそうなりたいと願う者が多い。それは変わりたいという想いの究極の形と称してもいい。雫もまた、アイドルの輝きに魅了されて憧れを抱く数多の少女達の一人だった。

メディアで活躍するアイドルに憧れ、自分もそうなりたいと願う。でも、雫の周りの人は彼女の根暗で寡黙な性格ではアイドルなんてなれるモノじゃないと決めつけて嗤ったのでしょう。ただ、雫自身も自分の性質は痛い程理解している。無理だという否定的で消極的な思考に脳ミソが支配されそうになる。でも、雫のアイドルに対する強く純然な想いが諦めないという前向きな思考へと進化していく。

雫の外見は、派手目なヘアスタイルと出で立ち。彼女がいつ頃からこういう格好をしていたのかは分からないが、彼女なりの変わろうとする覚悟を表現しているのかと思わせる。派手な外見というのは雫にとってはアイドルの輝きを表現したモノであり、それは彼女の『なりたい自分』の理想の姿なのでしょう。

 

 キラキラしてる……かわいい 私も、アイドルになりたい。

 周りの人は何て言うんだろう ちょっとだけやってみようかな……


 笑顔、難しい……私がアイドルなんて無理なんだ……

 どうしたら笑えるのかな 笑顔、難しい……


 ―【MV】サニーピース『EVERYDAY! SUNNYDAY! 』より引用



 この『EVERYDAY! SUNNYDAY! 』という楽曲、作中では『サニーピース』の五人によって作詞とダンスの振付が成された『サニーピース』による『サニーピース』だけのOne off的な楽曲。

この楽曲のMVでは、メンバーがそれぞれ抱えている『負』の要素にスポットを当てた描写がある。
上記は、雫が抱いているアイドルへの憧れと笑顔が思う様に作れない苦悩を描いている。


 雫の内に潜むアイドルへの想いと情熱は、現実を突き付けてもその場に留まって変わらない事を許してくれなかった。その想いと情熱が無尽蔵のエネルギーとなって雫をアイドルへの軌跡へと駆り立てて星見プロの門を叩いた。人というのは必ず門を叩かなきゃいけない刻が来る。叩くのもそうだし、門を開けた未知の領域へ一歩踏み出すのも勇気が要る。


 オーディションに合格し、晴れてアイドルへの軌跡を歩む事になった雫。
ライバルではあるのだけれども、志を共有する仲間でもある他の9人と関わっていく事で、自然とコミュニケーションが増えていく事になる。

でも、アイドルのオーディションに晴れて合格しても、なった瞬間に上手く笑顔が作れるモノではない。更には厳しくて楽しくない状況下にアイドルがあっても笑顔を見せないとならない。アイドルオタクである彼女はその事を痛感しているからこそ余計に上手く笑おうとしてしまうのかもしれない。ただ、裏を返せば、受け取り側の事をちゃんと考えられることだったりする。

6話で、デビューライブが決まって何かの撮影をしている時、アイドルらしいポーズは出来てるが表情は笑顔ではなかったし、インタビューもどこかぎこちなかった。でも、デビューライブのステージではちゃんと笑顔でパフォーマンスが出来ていた……いや、出来るようになったと称すのか。

普段の彼女では苦手にしている事が、歌とダンスという依り代を纏えば自然と笑顔になれた。
それは、過去の雫の魂を現在の雫がアイドルとして救えた『魂の再生』という物語の始まりでもあった。

 

 

 

 もらう勇気、背中を押す勇気

 

 雫のアイドルの軌跡を語っていく上で、欠く事の出来ない人物の縁がある。
その人物は、彼女と同じグループ『サニーピース』に所属している白石千紗。両者共に心の中で親友と思っている人物として互いの名を挙げている。

彼女達がストーリーのどの辺りで接点が交わり絆を育んで親友にまで至ったのかはアニメ版では分からないが、可能性として最も高いと思われるのは『サニーピース』を結成した頃を境に距離がグッと近づいたと考えられる。


 人との繋がりに関して、互いに似ている共通項があると惹かれやすいと一般的に言われる。
その観点で雫と千紗を見ていくと、この二人は内向的で自分に自信が持てない性格をしていてそれがコンプレックスになっている。それと、基礎体力がなくダンスレッスンで苦戦している所も共通点。

似たコンプレックスや悩みを抱いているからこそ、心情を察しやすくそっと寄り添えて励まし合って来たのだろう。それに、彼女達が他者の想いを慮れる思慮深い性格も影響しているのかもしれない。
千紗がいたから雫は頑張れる。千紗にとっての雫も支え合って背中を押す存在。
 
二人は否定するだろうが彼女達の関係性は『ライバル』でもある。『敵』と称される事もあるが雫と千紗はそういう関係性じゃなく助け合う関係性のライバルなのだと勝手ながら思っている。


 コレは余談なんだけども……今後もおそらく新曲がリリースされると思う。
その際には、雫と千紗によるデュエット楽曲のリリースを是非期待したいモノである。

 

 

 

 

 

 と、いう事で…兵藤雫編の独自考察でした。

 


我ながら、よく10人ものキャラクターの独自考察記事を書き切ったと思います。でもここで終わりではなく一つの通過点でしかありません。単なる勝手な考察でしかありませんが、読まれた方には本当にありがたくて感謝しかありません。

 

まだ残っているキャラクターの考察も引き続き書き殴っていきますので、また読んで下さると嬉しく思います。

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #9 早坂芽衣編

 新年、明けましておめでとうございます。今年もこのBlogをどうか宜しくお願い致します。

 


 と、いうワケで今回が新年一本目となる怪文書記事となるワケですが、ここはやっぱりドカンと勢いの良い記事にしていきたい。


そう考えた時ふと脳ミソに浮かんだ。『熱』を持って書き殴っていける題材は、『IDOLY PRIDE』に関してだろうと。そんなワケで、しばらく間が空きましたが『IDOLY PRIDE』キャラクターの独自考察を再開させてもらう。

まあ、勝手にやってろという声が聞こえそうなので勝手にやっていきますがwww


 で……第9回目の人物は、アニメ版の物語において他のアイドル達と一線を画した方向で重要な役割を担った早坂芽衣。彼女の存在と物語への関わりはストーリー序盤での大きな転換点になり、彼女にしか出来なかった役割で物語を牽引していった……というのが、自分の早坂芽衣評である。

全体の物語の流れを追っていくと共に、その中で早坂芽衣というアイドルがどういったアプローチで物語に絡み、また彼女が抱いていた想いについて勝手に考えを巡らせていこうと思う。


 毎度の事ですが…著者の独断や偏見と暴論が多分に含まれていると思います。
その点は、予めご了承いただけますと幸いであります。

 

 

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The girl who calls the tempest~大嵐を呼ぶ少女



 彼女…芽衣がストーリーに関わり出すタイミングは4話から。


その頃は、ボスユニットの一角である『LizNoir(リズノワール)』が星見プロにカチコミ…ではなく、ちょいと立ち寄った際に、琴乃達と合同レッスンをする流れに。そこで、圧倒的な差を魅せ付けられた琴乃達が打ちのめされてた……という具合。ちなみに、この時点ではまだ芽衣は星見プロには加入していない。そんな折、牧野(と麻奈)は、高い塀の上で野良猫と戯れている少女に目が行く。

その人懐っこく無邪気な少女が早坂芽衣。彼女は牧野に気付くと塀の上からいきなり飛び降りる。無事に牧野が芽衣を受け止めて互いに名乗り合い、なおかつ彼の隣にいたそっちの子……見えないはずの麻奈の存在にも気付き走り去っていった。


それが、牧野(麻奈)と早坂芽衣とのファーストコンタクトであった。


 琴乃やさくら達がこれから成長していく為に足りない要素を埋めていく為に悩み考えていく。同時に、牧野も彼女達に足りない要素をどういう形で埋めるのか?を悩み考える。彼が一つの答として導き出したのが新メンバーを加える事だった。グループとしてのバランスは悪いワケではないが、現状ではあまりにもそつが無さすぎる事がその答えに行きついたのだろう。そして、今の琴乃達を見ていた麻奈もこう語っている。

 

 あの子達(琴乃達)を見てても、あまり不安は感じない。それはいい事なんだけど……

 私の知っている売れたアイドル達は、どこかハラハラする子達ばっかりだった。

 

 

 ハラハラ=危なかっしさという要素を取り入れる事でグループは変化を余儀なくされる。その危うい要素を牧野が最も強烈に感じている存在が、つい最近出逢った早坂芽衣という存在だった。
良い方へと変化すれば喜ばしい事だが、異物の投入による状態変化に周りが適合出来ない悪い方向になってしまえばグループは崩壊してしまう。風穴を開けて旋風を巻き起こす者を投入するというのは賭けなのだ。

何やかんやあり、芽衣は星見プロ加入を果たした。当初は芽衣の加入を快く思わなかった琴乃も、日を追う毎に芽衣が加入してもたらされた明らかな変化を認める。同時に、琴乃が張り詰めた緊張感を漲らせていた事も。


 姉の遺志を受け継いでトップアイドルになるという琴乃は、彼女の考察の項でも触れているが、ガチガチの強固な枠と幻影に囚われて、記録をただ伸ばそうとするアスリートの様に正確無比なパフォーマンスを求めて突き詰める。

一方で、芽衣はアイドルに対しての憧れや夢への執着の類が一切ない。何ものにも縛られない自由自在、天衣無縫。享楽的な思考。彼女がアイドル活動をする際に一番大切にしている事は、ただただ楽しむ事だと言っている。『遊び心』をどんな時であっても忘れていない。
というかは、実際に遊んでいるのだろう。遊びの中だからこそ枠にハマらない柔軟な発想が出来ていろんなアイディアが出てくる。芽衣が提案したアイディアを取り入れる事で、他のメンバー達もパフォーマンスする事の楽しさを新たに発見していった。

 

 ダンスは本来楽しいモノだから!♪

 

 

 知らず知らずのうちに琴乃達は『枠』にハマってしまっていた。それが、そつが無さすぎるという事なのだろう。枠が見えないうちは自分達で壊す事は出来ない。だが、芽衣の加入によって風穴を開けて変化という大嵐を巻き起こすに至った。

その変化をより象徴しているのは、6話にて東京でレッスンを受けた後に『上手くなっていくのが楽しい』という琴乃の言葉。アイドル活動において『楽しい』というのはそれまでの琴乃からは出て来なかった言葉だったが故に、その意外性は皆を驚かせる事になる。


 芽衣と琴乃が所属するグループ『月のテンペスト』。月は琴乃が持つイメージから付けられたのだと思える。そして、テンペスト』(大嵐、もしくは動乱)は変化をもたらす者としてスカウトされた芽衣のイメージだと自分は考えている。

 

 

 

 境界を超えた先が見える眸と感性


 冒頭でも書いたが、芽衣にしか出来ない役割で琴乃やさくらとは違うアプローチで物語を牽引した。
それは、他のアイドルには無い唯一無二の特殊能力であり、アニメの物語において彼女の影響力が琴乃とさくらに匹敵するモノとなる。


 先の項にて、こんな事を書いた。牧野と初めて逢った際の別れ際に、芽衣は彼だけではなく彼の隣にいたある者に対しても『そっちの子もじゃーねー!!』と声を掛けている。牧野の隣にいて常人には普通見えない者……長瀬麻奈の幽霊が彼の傍にはいるのだ。芽衣はその存在を見えている。

 

 

 麻奈:パリッとした皮と柔らかな肉の歯ごたえ…噛むと溢れ出す肉汁……

 芽衣:それそれ~!!早く食べたいね~♪

 麻奈:ねー!!……えっ???

 牧野:へっ??

 麻奈:もしかして…私の事見えてる??

 芽衣:うん。見えるよ。

 

 

 ……食い意地の張った幽霊がいるのかとか、渚の作った鶏の唐揚げの量が運動部の寮で出す晩飯の様だとか突っ込むポイントはいろいろあるがwwここで最も重要なのが、幽霊の麻奈を認識出来て会話でのコミュニケーションを成立させられる者が牧野以外にもいる人間が確定した事。


そう、彼女は幽霊となった長瀬麻奈を認識出来て対話出来るのだ。芽衣のこの特殊能力は血筋に依るモノとの事。彼女曰く牧野が麻奈を認識可能なのは霊感があるとか血筋から来ているモノではないらしい。


 牧野は、麻奈の幽霊が見えるという事を誰にも口外しない様芽衣にお願いする。芽衣も彼の願いを快く受け入れた。それは、普通には無い特殊な力を持ってしまった者の宿命を彼女は痛感している。『嘘つき』という言葉が芽衣の口から出てきたのは、その見える能力が原因で過去に言われた言葉なのだろう。

 芽衣は麻奈に友達になろうと言う。で、麻奈も満面の笑みで芽衣の願いに応えた。
牧野以外に自分を認識出来る者が現れた嬉しさもあったのだろう。でも、それ以上にアイドル・長瀬麻奈ではなく、一人の少女である長瀬麻奈として見てくれて友達になろうと言われたのが本当に嬉しかったと思える。

芽衣は異質な能力を持ち傷ついた経験を持つが故に、他者を思いやり、寄り添う優しさが強いのだと。生者であっても霊魂であっても差別せずに誰とでも平等に自然体で接する事が出来る。芽衣の方も、アイドルの長瀬麻奈ではなく、琴乃の姉である長瀬麻奈と友達になりたかったのだ。

 

 

 

 一つの奇跡が終わる刻~直に言えなかった“サヨナラ”を謳う者


 麻奈が幽霊となって現世にいるのは様々な要因がある。琴乃に対する想い、麻奈が作詞した楽曲『song for you』を観衆の前で歌う事が叶わなかった未練、麻奈の心臓を移植された川咲さくらとの繋がり、そして牧野への想い……etc

この作品のテーマの一つが、長瀬麻奈という存在を越えていくという事。刻の止まった彼女がこのまま現世に留まって、今の刻を生きている者達と関わり合っているのは自然の理に反する事。それは、生者は勿論、霊魂もその理から逃れる事は出来ない。前述の麻奈が現世にいる要因がストーリーの進行によって一つずつ埋まっていき、それに伴って麻奈の魂にさまざまな影響が現れていって、魂を現世に留めておく事が困難になっていき、牧野や芽衣にも視認出来ない程にまで……


 麻奈に残されている刻はもう僅かしかない。だからこそ麻奈にちゃんと『さよなら』を言いたいが、彼女の気配を感じ取ることが出来ない……芽衣に残された本気の想いを伝える方法はステージで最高のパフォーマンスを魅せるという一つの方法しかなかった。星見プロの10人で歌う楽曲に『サヨナラから始まる物語』という楽曲がある。NEXT VENUS グランプリの優勝者が立てるウイニングステージで10人はこの楽曲を歌った。

この楽曲を解釈していくポイントの一つとして自分が思っているのは、長瀬麻奈の死と成仏を『サヨナラ』という言葉で例えている事だと考える。詞にある『君』は麻奈を指していて、『わたし』は星見プロの誰かを指していて誰かというのは特定の存在に限定されない。だから、芽衣はこの楽曲で麻奈に直に言えなかった『サヨナラ』を伝える。芽衣の視点で歌詞を読み解いていくと、彼女と麻奈の縁の繋がりと築き上がる関係性が面白い程にそっていっている。



 と、まあ…芽衣は、麻奈を想ってこの楽曲をステージで歌ったと考えているが、麻奈の方はどうだったのかなという話になるが…自分はこういう解釈をした。
 
琴乃がウイニングステージで『song for you』を歌い終わった時、『まだまだ道を遠いよ』と激励の言葉を送り、果たせなかった夢を妹に託す。故に、この時点ではまだ麻奈は成仏していなかったのだろうし、ウイニングステージで歌う10人の謳に惹かれて麻奈の魂が惹き寄せられた……と解釈している。

特に、アイドル・長瀬麻奈ではなく、一人の少女である長瀬麻奈として見てくれて友達になってくれた芽衣の謳を聴く為でもあった。芽衣も麻奈がきっと傍で聴いてくれていると信じて謳う。

容赦なく訪れる二人の別れの刻。でも、この楽曲が二人の想いを刻み続けて、いつでも思い出せる切っ掛けになる。境界を超えて巡り逢えた奇跡に感謝して……直に逢って別れの言葉は交わせなかったが、芽衣は麻奈への想いを歌に込めて伝えた。そして麻奈は芽衣の想いを受け取れた。


 この作品は、死人(長瀬麻奈)に魂を引っ張られた者達の自立が大きなテーマの一つになっている。けど、芽衣はその逆で麻奈の魂に寄り添っていったのではないだろうか。ここが彼女と他の人物とは一線を画した特殊な立ち位置になり評価にも繋がった。最強・最高のアイドルという見方ではなくどこにもいる普通の少女として麻奈と友情を深めていけたのは、麻奈にとって幸せな事だった様に思える。

さくらや遙子、そして神崎莉央が麻奈の魂を認識出来て対話出来ていたら、アイドル・長瀬麻奈として接して来るだろうから大なり小なり壁がある。壁が無いのが妹の琴乃なんだけど、麻奈も不器用かつ素直になれない部分があるので琴乃とは距離を置きたい。

そんな中で、対等な目線で何のしがらみなく話せる同性の友達みたいな人間って麻奈には貴重な存在だったと思う。芽衣はおそらくアイドルとしての長瀬麻奈の事はよく知らない。だから構えずフラットに接する事が出来て友情を深めていけたのだと思う。



 麻奈の魂が天に還って本来あるべき理に納まっても麻奈は生きている。芽衣の想い出の中でずっと……それを魂に刻んで芽衣はアイドルの軌跡を駆ける。

 

 

 

 と、いう感じで……早坂芽衣編の考察でした。
次回、星見プロ編の最後となる兵藤雫編。(このシリーズはまだまだ続くんぢゃ……)『サニーピース』側のブラックボックス的な存在である彼女を、どこまで踏み込めて考えを巡らせてそれを文章化できるかは未知数ですが……何とかやってみようと思っております。


 
 今回も、最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

 

 

 

2021年 魂に響いた楽曲10選。

 どうも。あかとんぼ弐号です。


早いモノで2021年も残す所あと数時間で終わりですな。今年はオリンピックが開催されたり、コロナのアホたれに翻弄されたり、感情の起伏がいろいろ忙しなかった一年でもありました。

そんな日々の生活の一部に寄り添い、心に彩りと潤いをもたらしてくれたのが、世に出ている数多の素晴らしき楽曲でした。今年も、本当に多くの良き楽曲との巡り逢いに恵まれた。

で、今年最後の投稿という事で……2021年に聴いて良かったと感じた楽曲について、10曲選んでみました。


*自分が今年初めて聴いた、または購入した楽曲を挙げますので2021年リリースではない楽曲もあります。

 

 

 

 

 

 

 

Never Ending Story/クレプス(CV.牧野由依)

 

youtu.be

 

 Z/X -Zillions of enemy X- Character Song Album 「All of You」に収録されている楽曲。ちなみにこのアルバムは2017年リリースとの事……


この楽曲との出逢いは突然だった。『Z/X』のアニメ版の楽曲を、自分がよく利用している音楽配信サービス『mora』をガサ入れ検索した際に、この楽曲が収録されたアルバムを発見して楽曲をいろいろ試聴してところ、この楽曲が一番突き刺さった。

曲調は、オーソドックスで奇を衒わない感じの打ち込み系のサウンドが特徴的。そこに牧野由依さんの透き通る様な可憐で凛としたボーカルが見事にハマっていて聴き心地の良さもありつつ、内に秘めた熱さも感じられた。牧野さんが演じていたこのキャラクターの事は全く分からないが…キャラクターソングとしても、また単なる一つの楽曲としても高いクオリティを持つ楽曲。

 

 

Never Ever Give Up !/ブリード加賀(CV:関 俊彦)

 

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 まさか、この令和の刻に、『サイバーフォーミュラ』の新しい楽曲が…そして、ブリード加賀のキャラソンがリリースされるなんて夢にも思わなかった。(号泣)

ブリード加賀の生き様をなぞっている様に、ハードロックテイストのメロディと関さんのボーカルがOTONAの艶っぽさと格好良さが溢れ出していて、本当に昔と変わらないインプレッションに魂が揺さぶられたという所か。

 

 

salvage the future/DIAGRAM

 

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 TVアニメ『WIXOSS DIVA(A)LIVE』第6話のED楽曲。90年代に多く見られ、なおかつ自分もその当時結構聴いて来たavexサウンドを彷彿させるオーソドックスなダンスミュージックにデジタルロックのテイストが自分の琴線を激しく掻き鳴らした。

 

(どんな表現やwww)

 

 

無限大ランナー/Run Girls, Run!

 

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 声優ユニットRun Girls, Run!』の楽曲。当Blogでもこの楽曲の紹介と考察をしている。

 

akatonbo02.hatenablog.jp


疾走感溢れる軽妙でハードなバンドサウンドが特徴的。そして、三人のエネルギッシュな歌声は形振り構わない爆ぜる感情をぶちまける様な攻めの姿勢をビシビシと感じさせる激熱な楽曲。

その様は、最高速で駆け続けつつ、その速度がコントロールし切れていないピーキーな危うさをも感じさせる。でも、その振り切った潔さが何とも面白くて心地いいインプレッションを抱いてしまう。

 今年の『Run Girls, Run!』の新曲はこの楽曲が収録されたシングルのみのリリースだけだったので物足りない印象になってしまったが、来年はミニアルバムのリリースが決定しているので楽しみなところであります。

 

 

One Heart/ミラクル☆スター (CV:林 鼓子、久保田未夢厚木那奈美、芹澤 優、若井友希森嶋優花)

 

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 TVアニメ『キラッとプリ☆チャン』のED楽曲。作中の主人公ユニット『Miracle☆Kiratts』とライバルユニット筆頭の『Meltic StAr』が組んだ混成ユニットによる楽曲。

ノスタルジックで過ぎ行く季節を懐かしむ叙情感にちょいとセンチメンタルな淋しさもあって、ただ、その友達と過ごした刻は色褪せる事はなくそれが未来の刻を生きる為の糧となる希望にも溢れた謳。

作品の集大成としてグランドフィナーレを感じさせる見事な塩梅で、これぞThe エンディング楽曲と評するに相応しい楽曲。

 

 


Phase 21/水樹奈々

 

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 シングル『Get up! Shout!』のカップリング楽曲。自分の中ではこの人の楽曲は外すワケにはいかない。
タイトルのPhaseは段階という訳で、21とは2021年のリリースという意味でもあり、水樹さんがCDデビューして21周年の年という二つの意味でもあるとの事。

水樹さんはこの楽曲に、不安や壁にぶつかることもあるけれど、今だからこそできることを探して、新しいフェーズに適応できるように更新していこうという気持ちと、どんな状況でも自分自身と向き合って高めていけるように頑張っていきたいという思いを込めたと語られている。


 『Wo-oh,oh-oh-oh-』と何か思いの丈をぶちまける様な雄たけびは、鬱積とした今の世情に対して抗うようであり、サビでの最高潮に達した爆ぜる感情を一気に解き放つ水樹奈々血の流れる魂の絶唱は自分の魂を震わせた。

 


Shine Purity~輝きの純度~/星見プロダクション

 

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 今年で最も大きな出来事の一つに間違いなく『IDOLY PRIDE』との出会いが挙げられます。
惹かれて知って各楽曲のクオリティの高さに慄き、続々とリリースされた楽曲達も、どれも素晴らしい楽曲揃いで毎回驚かされている。

 この楽曲のファーストインプレッションは、『Wake Up, Girls!』の楽曲『タチアガレ!』を初めて聴いた時と同様な“魂を鷲掴み”された感覚に陥った。もうそれほどまでに強烈だったのよ。

単に明るくキラキラした面を表現しているのではなく、シリアスな曲調が各キャラクターの内面に潜む『陰』を表していてそいつを払拭して真の輝きを求める……歌っているキャスト陣もこの作品がデビューだったり、若手だったりで、キャラとキャストの魂がリンクしていって…そんな生々しい叩き上げの魂を歌に乗せたという要素を強烈に感じて惹かれたといってもいい。

 

 

恋と花火/月のテンペスト

 

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 『IDOLY PRIDE』に登場するアイドルユニットの一つ『月のテンペスト』の楽曲。
現在配信されているアプリゲームでリリースされている楽曲で、アルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [奇跡]』にも収録されている。

夏の恋をテーマにした楽曲で、意中の彼氏と行ける事になった花火大会に想いを馳せる少女の恋慕の情を、疾走感ある爽やかな雰囲気と儚げでアンニュイな雰囲気が絶妙で、メロディの変態的(褒め言葉)な進行がまた見事としか言い様がなかった。


初めてフルで聴いた時は、ただただ…ヤバい……何、この変態楽曲(褒めてる)と頭抱えて畳の上を転がり回った。

 

 

 

EVERYDAY! SUNNYDAY!/サニーピース

 

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 もう一組の主人公ユニットである『サニーピース』の楽曲。
この楽曲は、アニメで描かれた五人(さくら、怜、遙子、千紗、雫)の物語と、MVで描写されている五人の陰の物語が合わさらないとちゃんと完成しない楽曲。この二つのピースが揃ってハマった時、この楽曲は涙腺を容赦無く刺激する『泣き曲』へ昇華する。

存在を認められたい者(怜、遙子)、自らの力で輝きたい者(千紗、雫)、自分の声と魂で謳いたい者(さくら)……誰の代わりもいないし、なれない五人だからこそ謳う事の出来るサニーピースだけの謳であり『アンセム』だという事を思い知らされる楽曲。

 

 

song for you/長瀬麻奈 (CV:神田沙也加)

 

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 最後を飾るのはこの楽曲しかない。初めて聴いた瞬間から“魂を鷲掴み”にされるインプレッションを抱き、ああ、もう今年はこの楽曲より凄ぇ楽曲は出て来ないとまで打ちのめされた楽曲。

アニメ『IDOLY PRIDE』の作中では、長瀬麻奈が作詞した楽曲だが彼女の死によって幻の楽曲となったいわく付きな楽曲であり後半の物語の要となっていく。


 麻奈(神田さん)が歌うバージョンとはまた別に、妹の琴乃が歌うバージョンと、サニーピース(サビ以外はさくらの独唱)バージョンがあってどれも甲乙つけ難くいいモノなんだが、やっぱり麻奈が歌っているオリジナルバージョンがより響いて来るのだ。


経験や培ってきた技術が備わっている事は当然な話だが、この楽曲を歌っている時の神田さんは経験や技術を凌駕した『ゾーン』の領域に入って謳っているんじゃないかと思わせる程の凄みを感じさせた。特に、ラスサビの転調でまたブーストが爆ぜて跳ね上がる様に神田さんの歌声が、血の流れる絶唱の域へ昇華していく……


 圧倒的な説得力とPRIDEはこの人にしか出せないのだと思い知らされる。そんな楽曲だった。
神田さんが歌うこのバージョンは、アルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [奇跡]』に収録されている。

 

 

 

 

 以上、2021年魂に響いた楽曲10選でした。


まあ、ちょいと挙げた楽曲に偏りがありましたが……惜しくも、本当に僅かの差で10曲の枠に入らなかった楽曲も多々あったし、それだけ多くの素晴らしい楽曲に巡り逢えた事でもありました。


2022年も、一つでも多くの素晴らしい楽曲に出逢える事を楽しみにして筆を置きたいと思います。

 

 それでは、良いお年を。

 

 


 


 

Run Girls, Run!のアンセムの系譜を斯く語る。

 RGR楽曲も、多種多様な楽曲が増えてきた。それこそ、同じような要素やコンセプトのもとで制作された『系譜』として繋がり、それが一つの大きな楽曲・作品としても成立している。


季節シリーズや、プリチャンOP楽曲がまさしくその『系譜』に連なっているモノである。


 そして……その括りの中に存在する季節シリーズの系譜とプリチャンOP楽曲の系譜とはまた違うコンセプトのもと作られたもう一つの『系譜』。そのコンセプトはRun Girls, Run!が掲げているアイデンティティである『止まらず駆け続ける』事と、彼女達のみならず『誰かの背中を押す』というモノだ。テーマといってもいいのかもしれない。

その三曲は、RGRとして原初の楽曲である『カケル×カケル』、闘いの謳である『ランガリング・シンガソング』、叩き上げの魂を謳う『無限大ランナー』。これらの楽曲のコンセプトは一貫しているモノで、彼女達がその都度公のインタビュー等で語られている事も確認されている。この三曲は、軸となる大まかなメロディ(疾走感あるバンドサウンド)や各楽曲の歌詞や繋がりを感じさせる世界観を見ても、このコンセプトの息吹を随所に感じ取る事が出来る。


 この記事では、その『駆け続ける事』というグループのアイデンティティと『誰かの背中を押す』というコンセプトに着目している。それは、RGRの『アンセムと称しても何ら不思議ではないし自分はそう思っている『系譜』にこの三曲が連なっていると思う。この系譜が何故『アンセム』であるのか?どうして心が戦いで、魂が爆ぜるインプレッションについてかく語っていくのが記事の内容だ。

RGR楽曲の魅力は他にもいっぱいあるが、自分はこの『アンセム』の系譜に連なる楽曲が持つ叩き上げの魂と剥き出しの本気の想いがとても好きなのである。


 RGR楽曲の事を熟知されている人には、こういう捉え方もあって魅力を再確認する機会に、まだあまり知らないという人には『こういう違ったテイストの楽曲もあるのか』と興味を抱く切っ掛けになると嬉しい。

 

 

 

 Chapter1/誰かの背中を押す『アンセム』としての“系譜”

 

 そもそも、『アンセム』とは何ぞや?という事から説明していこう。


 元々の意味とされているのは、聖歌、讃美歌、頌歌、祝歌という意味。元々教会音楽の聖歌や賛美歌のことを指した楽曲を指す言葉。そこから応援歌や祝いの歌として使われるようになり、日本でも『誰もが知ってる歌』というニュアンスで使われ、現在はアーティストの代表曲や定番として盛り上がれる楽曲という意味合いで使われ広まった言葉だとされていて、そちらの解釈がポピュラーというのが共通認識だと感じる。

『カケル×カケル』 『ランガリング・シンガソング』 『無限大ランナー』。この三曲はRGR楽曲において、彼女達の心情や生き様をストレートかつダイレクトに詞と歌に乗っけて謳われている。リスナーはその生き様を感じられて、共感して最も盛り上がれるというインプレッションを抱く。だからこそ、この三曲がRGRの『アンセム』の系譜と成り得ると自分は思うのである。


 で、改めて『止まらず駆け続ける』事『誰かの背中を押す』というコンセプトについて考えてみたい。
『止まらず駆け続ける』と『誰かの背中を押す』とは何を意味しているのか。文字通り見れば止まらないで走り続ける事だし背中を押してやる事で双方は前に進む事が出来る。

前に進む事と、前に進む為の手助けだったりその切っ掛けを作る事が『止まらず駆け続ける』と『誰かの背中を押す』事の意味であり、それがRun Girls, Run!の『アンセム』が目指す音楽の一つの形だと考えられる。

 
 では、その『誰か』とはどういう存在なのか?これは様々な解釈が可能だ。
彼女達の変わりたいという想いが彼女達の背を押す事でもあり、RGRがリスナーの背を押す、あるいはリスナーがRGRの背を押すという具合に、持ちつ持たれつというか双方向に影響を及ぼしている様に感じられる。

変わりたいという想いとは、現在進行形でそれに向かって駆け出している場合もあれば、挑戦する前に半ば諦めてしまったモノを指す場合がある。夢や目的に向かって駆け出している人もいれば、その一歩がまだ踏み出せない人もいる。これらのフェイズは楽曲ごとに異なるが、背中を押すという行為には、立ち上がって前を向かせるのと、自分の内面にある未知の軌跡に向き合わせるという意味合いがあると思える。


 いずれにしても、『カケル×カケル』、『ランガリング・シンガソング』、『無限大ランナー』で構成されたRGRアンセムの系譜は、そういった彼女達三人とリスナーの変わりたいという想いを抱く人の背を押す。夢を持つというのは大袈裟な響きだが、何か新しい事を始めたいという漠然とした想いや何らかのアクションを起こしたいという渇望と疼きにも当てはまる。未来の刻の可能性に懸ける人の背中をRGRの三人は後押しする。それは行動を起こしている人も、行動を起こせていない人であっても同様ではないだろうか。

 

 


 Chapter2/痛みと傷跡に向き合う

 

 勝手な持論ではあるのだけれども、アンセムとしてより魂に響いて来る不可欠な要素と考えているのは、変化と向き合った際に訪れる不安や挫折といったネガティブな感情を忌憚なく織り込んでいる点である。それはRGRアンセムの系譜において、どの楽曲にも通じる共通項でもある。

目標に近づくには行動する事が必要。努力というのが最も当てはまるのだろう。ポジティブな言葉として努力というのは知れ渡っている。だが、地道で単純な作業の連続であったり、挫折や苦労の連続を指している負の側面があったりするし、してきた努力が全て報われる保証もない。

最初から行動を起こせない、そうした心情にどうしてもならないという場合もあるだろう。未来への不安から一歩踏み出す勇気が湧いて来ない場合だってあり得る。それらの負の感情をひっくるめて諦めや挫折という言葉で括るのは乱暴かもしれないが、スタートラインに立てないという状況はある。


 夢や目標に近づく為には、大なり小なり辛い刻を乗り越える必要がある。
弛まぬ努力で流した汗、耐え忍んだ痛み、諦観しつつも夢を横目に見続けた刻、RGRアンセムの系譜では、そういった彼女達の生き急がんとする焦燥感が生々しく剥き出されている。

Run Girls, Run!の楽曲の真骨頂と説得力はコレにあると思っている。頑張っている人にもっと頑張れというのはタブーとされている。未来の刻への希望を謳っても、絶望の淵に在って燻ぶっている人の魂には響かない場合がある。Run Girls, Run!のアンセムは現実にきっちり向き合って寄り添う。陽の目を見ない陰の努力。手を伸ばしてもなかなか届かず諦めかけた苦悩の刻、そんな痛みと傷跡を一切隠さずに、剥き出しの本気の想いと魂でもって謳う。


RGRのアンセムの系譜は、陰で涙を流す人の背中を押してくれる。

 

 


 Chapter3/楽曲別に見るRun Girls, Run!のメッセージ

 

 前の項にて、『駆け続ける』事や『誰かの背中を押す』。そして、ネガティブな感情を曝け出すことについて長々書き殴ったが……ここからが本題。

このコンセプトが、Run Girls, Run!アンセムの系譜に連なる楽曲にどういう形で落とし込まれているかを一曲ごとに取り上げて見ていく。もし、Run Girls, Run!をあまり知らないという方がこの怪文書記事を読んで下さった場合、これらの楽曲に興味を抱いてくれて、それ以外の楽曲にも興味をもってくれたら嬉しく思う。(ここまでに脱落していない事を祈りつつ……)

 

 

 

 カケル×カケル

 

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 RGRにとっての原初の楽曲。元々は、彼女達の声優デビュー作品となった『Wake Up, Girls!新章』で、現実の彼女達と同じく『Run Girls, Run!』のキャラクター達が歌う所謂キャラクターソングというもう一つの面がある楽曲。

RGRアンセムの系譜に共通している疾走感たっぷりなバンドサウンドが特徴である。

 
 『小さな存在だって ここから始める 自分なりに決めたんだ ダッシュすることを』という歌詞がある。自分がまだ何者にもなっていない小さな存在である事を自覚し、そこから目を背けず闘う為にアクションを起こす。無邪気に夢を描けた刻と、現実に順応しつつある現在。刻の経過と共に後者に染まっていく中でもう一度夢見た場所へ向かう力をくれる。夢を諦めかけていた人に、もう一度前を向かせてくれる応援歌のテイストを持つ楽曲。

RGRの三人にとって始まりの楽曲であり、無くてはならない掛け替えない“戦友という面のある楽曲。

 

 

 

  ランガリング・シンガソング

 

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 1stアルバム『Run Girls, World!』のリードトラックとして収録された楽曲。


“これまでの成長とこれからの夢”を歌った楽曲となっており、RGRアンセムの特徴である疾走感にあふれるメロディを継承して、夢に向かって走り続ける彼女たちの想いが歌われており、ミュージックビデオ内でも『目指せ武道館!』という夢が語られている。


 『走るために生まれてきた でもまだ たりない たりない』という歌い出しから、この先駆け続けられる為には足りないモノだらけという事を痛感させられ、それを一刻も早く手に入れたいという渇望の念が垣間見える。『ランガリング・シンガソング』はそういうネガティブな感情の極致を忌憚なく歌に乗せている楽曲だと言える。

サビの『夢へのバトンを つなぎきった時 ゴールでぎゅっとしてね』という歌詞が印象深い。
今のこの瞬間、現状、流して来た涙。その全てに意味があった。全ては偶然ではなく必然である。何度も躓いて転んでも前に進む事は止めなかった。そんな彼女達をすべてにおいて肯定する。

リリース当時にメンバーが受けたインタビューにて、林さんは、この楽曲は今の自分達に共感できるポイントがすごく多い楽曲。森嶋さんは、胸がグッと熱くなる楽曲。、厚木さんは、暗いかと思うが、いつもは見せないありのままの三人を表現している楽曲であると語られた。


この曲は躓いて転んでも恐れずに立ち上がって前に進むことを決める曲。決意と闘いの謳であると。


 『ランガリング・シンガソング』というタイトルも印象的だ。『リング』が意味しているのは指輪の意味ではなく円形の意味の輪。つまりはRGRとリスナーとの手を取り合う繋がりを指しているのだと考える。そして、『シンガソング』はオーディエンスとアーティストが一体となって歌う『シンガロング』から取って付けたのだろう。双方の絆の証という願いが込められているのだと。
 

 この楽曲のMVでは、過去のメンバーが現在の刻のメンバーとすれ違う場面がある。過去のRGRから託された夢へのバトンを現在のRGRが受け取ってまた駆け出す。

個々がそれぞれの未知の軌跡を見つけて駆け出す行動が、誰かの未知の軌跡へと波及していくイメージがあると思える。

 

 

 

  無限大ランナー

 

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 現時点(2021年12月時点)での最新シングル『ドリーミング☆チャンネル』のカップリング楽曲。

『カケル×カケル』が決意をもって駆け出すスタートを切る楽曲。『ランガリング・シンガソング』が、駆けている最中において、何かに躓き転んでも諦めず再び前を向いてより速く駆けようとする楽曲だとすれば、こちらの楽曲は、さらに加速してまっしぐらに突き進もうとする気迫に満ちている。

壁に当たろうが、躓こうがお構いなしに前のめりで駆けていて、鼓舞する様に力強く背中を押してくれるド直球な応援ソング。


 『きっと立ち向かってみたいんだ 見つめたいモノ 胸にひしめいている』という詞が好きだ。
挑戦する事を諦めたいと思わないのは、まだやりきっていないからでもある。それは、まだ余力があって出し尽くせてない。甘えている事にも繋がる。ある意味自分の至らない点と対峙している事になる。『突き抜けたい』という様に、自分で自分の限界を決めてブレーキをかけてはならないのだ。

『キミと走る Wonder!』、『キミと走る Runner!』。『キミ』と『Runner!』(RGRファンの愛称)はRGRからリスナーへ、リスナーからRGRへ…あらゆる意味を持つ互いの背中を押す存在と言えるのだろう。


 RGRが持つバトンがリスナーへ手渡され、リスナーもまた誰かの背中を押す。
躓いても立ち上がり、逆風に負けず駆けるその背中がまた別の誰かに未来を見せる。


その連鎖が続く事が『無限大ランナー』の意味するところだと思う。

 

 

 
 終わりに。

 

 と、いう事で…Run Girls, Run!アンセムの系譜という観点から、アンセムに連なる楽曲を取り上げてみた。歌詞を自分がどう解釈しているのかという考察の様な部分も多くなってしまったが、アンセムの系譜と、構成している各楽曲の魅力が断片的に伝わってくれたら嬉しい。来年にリリースが決定されているミニアルバムには原点回帰ともいえるバンドサウンドの楽曲が収録されるという。その楽曲がアンセムの系譜に連なるのかというのは非常に興味深く楽しみな所である。


 ここまで書き殴って来た事の大部分は、個人の主観的な歌詞と世界観の解釈によるモノ。
解釈の至らない部分や見当違いの解釈になっている部分も多くある。自分がここに書いたモノが唯一無二の正解なんて事は言えない。この系譜についてや各楽曲について考察出来る要素はまだまだあると思うし、聴いた人の数だけ別の解釈がある。あと、系譜という括りを無視して楽しむのも一つの楽しむ方法としてはアリだと思う。


 楽曲の聴き方に関しても同様。客観的に聴くのもいいし、詞の内容と自分の現状とを向かい合わせて当事者として、背中を押してもらう様に聴くのもいい。それを可能にする汎用性や普遍さと力強さが各楽曲にはある様に思う。


Run Girls, Run!と楽曲の魅力は他にも沢山ある。自分がまだ気づいていない、見えていない魅力もある。アンセムの系譜だけじゃなく、他の系譜に連なる楽曲も魅力的だし、三人の個性、ライブステージ等もそれぞれ魅力的である。


 当たり前の話だが、ここに書き殴ったモノが全てではない。あくまでも一人のおっさんの視点で捉えたモノだと思っていただけると幸いであります。