巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #11 TRINITYAiLE編

 どうも。IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語るお時間でございます。



11回目となる今回は、アニメのストーリーにて星見プロのアイドル達に立ち塞がるライバル(ボス)グループの一角である『TRINITYAiLE』

 

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 アニメのストーリーでは、星見プロのアイドル達(月のテンペストとサニーピース)の成長と、彼女達がスペシャル・ワンの存在にある長瀬麻奈の幻影の向こう側へ踏み出す事をマストにして描かれていたと思います。特に、麻奈との因果関係は星見プロのアイドル達だけではなく『TRINITYAiLE』にもあって、彼女達(特に瑠依)も麻奈の幻影に囚われていたとも言えると勝手ながら思っています。

そんなこんなで、これからアニメでの『TRINITYAiLE』についての考察を書いていくワケですが……ライバル(ボス)グループという立ち位置と尺の短さという制約の中、三人の詳細なパーソナリティやバックグラウンドまでは描写しきれていなかった。なので、個人寄りではなくグループ全体に寄った考察になっておりますが……暖かい目で読んで下さるとありがたく思います。

 

 

 

 三位一体の翼


 作中のアイドル業界において大手事務所のバンプロダクションに所属する、天動瑠依、鈴村優、奥山すみれの三人によるアイドルグループがTRINITYAiLE。デビューして瞬く間に新人では異例の知名度を得ていて、その当時まだデビューしていなかった(遙子は除く)星見プロのアイドル達とは一線を画した強敵=ボスとして立ち塞がる事となる。


今更書くまでもない事ではあるのだけれど……この作品はグループそれぞれに異なった特色・アイデンティティがあり楽曲にも反映されている。


 儚さと同居している凛とした佇まいが特色の月のテンペスト。陽の光の様な明るさと温かみを持つサニーピース。荒々しく力強い楽曲を軸にし、比類なきパフォーマンスを魅せるLizNoir。そして、清廉かつ王道的なアイドルの軌跡を往くTRINITYAiLE。

その清廉さの根源というか、そう感じさせたのはグループ名に冠された『AiLE』(エール)フランス語で翼の意味を持つ単語の影響が強くあったし、センターでもある瑠依の潔さと気高さというパーソナリティもあるのだと。10話にて、TRINITYAiLEと直に対面した雫が拝む所作をしていたのは、彼女達に神々しいインプレッションを雫が抱いていたからそういう所作になったのだろう。

そんな瑠依に寄り添っているのが、京言葉が特徴的で(エロ…艶っぽい)雅な佇まいを醸し出すが、腹の内(本心)を迂闊に晒さない強キャラ感もある優、天才子役として名を馳せ、アイドルに転身した明朗快活で純朴なすみれ。三人のパーソナリティは勿論それぞれに違うモノだが、個としてもグループとしてもトップアイドルを目指す事を異口同音に発している事から、メンバー間のベクトルは一致していて、三人の確固な絆へと結びついている。


 作中で、雫が言及していた様にTRINITYAiLEのパフォーマンスの質の高さと、積み上げてきた実績(ライブバトルでは無敗)は、星見プロのアイドル達と比較すると圧倒的な差が明確なモノ。

加えて、月のテンペストとサニーピースは『NEXT VENUSグランプリ』の予選を15位、16位とギリギリで通過している。(ちなみに、トリエルは2位通過)更には、TRINITYAiLEの所属しているバンプロダクションは前述でも触れたように、業界では大手のプロダクションで、万全の設備や予算にも恵まれ、自前の育成組織での過酷な練習と競争を乗り越え生き残ってきた彼女達を、つい最近まで素人だった(遙子以外)サニーピースが打ち負かすとは考えにくい。でも、結果として確かなのはTRINITYAiLEが負けたということである。

完璧に近い存在よりも、雑多な個の危うい輝きに観衆が惹かれて魅了された……という事もあるのだろうが、ただそれだけの理由が敗因でもない。


 勝者と敗者の差。一体、何が勝負を分けたのか?それは、一人の少女があるモノに囚われてしまって『翼』をもがれてしまったと……自分は考えていて、その少女=瑠依が囚われて払拭できなかったモノへの執着が敗北に結びついてしまったのではないだろうか。

 

 

 

 

 純然な“憧れ”から、ある者に“認められたい”という執念へ……


 本作で、最も多いアイドルへの志望動機でもあったアイドルへの憧れ。瑠依もまたそんな少女の一人。一刻も早く夢を叶える近道として、彼女は業界大手のバンプロダクションの門を叩いた。

そんな折、彼女の母親から、バンプロダクションの社長である朝倉さんは瑠依の父親であると打ち明けられた。瑠依からしたら家族より仕事を優先するために切り捨てられたと思っていて彼に対して良い感情は抱いていない模様。実際に、朝倉さんと顔を合わせるのだが当然ながら彼は瑠依の事は単なるアイドル候補生の一人としてしか見て無い。そんな彼に瑠依はこう言い放った。

 

 

 人々に夢を与え、眩しく輝き、常に目が離せない。

 
 そんな絶対的なアイドルに私はなります。

 

 

 知ってしまったからにはもう退く事はできない。実の父親である朝倉さんに自分の事を認めさせるという別の目標が芽生えた。それは、瑠依の高いモチベーションとなってただ直向きに努力を積み重ねていく。そんな瑠依の情熱はグループを組むことになった優とすみれにも火を点ける。

ところが……その対象である朝倉さんが理想のアイドルとして認めていたのは、スペシャル・ワンの存在にまで昇華した長瀬麻奈である事を瑠依は知り、彼に認めてもらうには麻奈が打ち立てた無敗記録を超えなきゃならないと悟る。まあ、ものの見事に瑠依は死人の魂(長瀬麻奈の幻影)に魂が囚われてしまった。

結成以降、トップアイドルへ羽ばたくと掲げた三人の目標は瑠依の個人的な執着が混在して、長瀬麻奈の打ち立てた無敗記録を更新するという形に変換されてしまった。


 瑠依は、朝倉さんと顔を合わせる度に麻奈の無敗記録に迫っている事をアピールした。徐々に伝説を超える軌跡を認めてもらいたいという想いを分かって欲しかったのでしょう。でも朝倉さんは、過去の記録に拘っているうちは麻奈には遠く及ばないと瑠依の想いを一蹴する。

朝倉さんがあえてこの事で瑠依の物言いを突き放しているのは、瑠依自身に過去の人間の記録を追うだけの無意味さを自分で気付いて欲しかったのでしょう。仮に朝倉さんがそれを懇切丁寧に説いても瑠依は聞く耳持ってくれないだろうしそれも瑠依の為にならないと思っていた。娘(瑠依)も不器用で融通利かない感じだが父親の方も不器用なんだと感じる。


 勝ち続けても、本当に認めて欲しい人には全然届いていない。それは瑠依の魂がより麻奈の幻影に囚われていく事を意味した。そこで優とすみれが瑠依をすくい上げられるアクションを起こせれば拗れなかった。だが、優は瑠依を最大に輝かせる方向にベクトルがあったし、すみれはとにかく三人でこのまま勝ち続ける事が重要だと思っていた。三人共に誰も間違っていないし悪くも無かったのだ。


 勝ちたい、認めてもらいたいという執念は駄目な事では無い。但し、それが良い方に行けばの話だ。だが、強過ぎる想いは刻と機で魂を縛る鎖にもなってしまう。TRINITYAiLEはその鎖で翼を縛られてしまい、瑠依、優、すみれはそれに気づけなかった……誰も答えを見いだせないまま、NEXT VENUSグランプリ・セミファイナルに挑む事になった。彼女達に勝ったら長瀬麻奈の無敗記録は更新される誘惑に導かれて……

対戦相手は、長瀬麻奈の歌声を継承する者である川咲さくら率いるサニーピース。
麻奈の歌声を継承する者を倒して記録を更新する。瑠依にとっては最高の舞台が整ったともいえます。サニーピースに勝って記録更新出来たら、きっと認めてもらえると信じて疑わなかった。


 ですが、それこそがTRINITYAiLEが犯してしまった最大のミスだったのです。

 

 

 

 幻影を超えた者達と超えられなかった者達との差


 TRINITYAiLEがセミファイナルで歌う楽曲は、彼女達が一番息が合って目を閉じていても互いの動きが最も分かると評している楽曲『les plumes』で挑む事に。彼女達がこの楽曲に相当の信頼と自信を持っていたからこその選択だし、最も勝率の高い楽曲でもある。



でも、この選択に大きな落とし穴があったのだ……

 


 普通のアイドルだったらこの選択で何の問題も無かっただろう。しかし、川咲さくらは普通の範疇には収まりきらない規格外のアイドルだった。瑠依たちにはそんなつもりは無かったかもしれないが、どこかでさくらとサニーピースの力を見誤っていたのかもしれない。初戦から見ていたものの…サニーピースの成長速度が異常なブーストで加速していたのもあった。

そして、真に戦う相手自体もちゃんと見据えていなかった…つまりは、今のサニーピースではなくあくまでも長瀬麻奈の無敗記録を破る事に執着してしまった。瑠依が戦い続けていたのは今の刻を生きるアイドルではなく過去(死人)に囚われていたし、結局は麻奈の幻影をまだ超えられていない。

その対極にいるのが、麻奈の幻影を超えたさくら達サニーピース。さくらが乗り越えられたのもあった。それに、怜、遙子、千紗、雫もさくらだけに頼らないで彼女達自身が輝く事をより意識して共に未知の領域へと踏み出せた。五人の覚悟の象徴が準決勝にて初披露となった『EVERYDAY! SUNNYDAY! 』というサニーピースにしか謳えない楽曲がその答えでもあった。


 ステージに立つ者の感情を観客は敏感に察知する。これは麻奈がさくらに説いた言葉。瑠依が真に向かい合わなきゃいけなかったのは、麻奈の幻影や朝倉さんではなく、直に戦うサニーピースと観客だった。

彼女達が選択した最も勝率の高い楽曲は、マイナス面で見ると安全策を取ったとも言える。まさかサニーピースが二回戦同様にまた新曲を持ち出して来るとは思いもしなかったでしょう。

けど、さくら達は短期間でそれを見事にやってしまった。TRINITYAiLEもそうだったし観客もそりゃ驚く。それは観客の魂を強烈に揺さぶったモノと言える。更にはステージ袖で見てた優とすみれも惹かれてノリノリだったし、瑠依も驚愕の表情で魅入っていた。何かを超えた者の魂の強さを痛感させられたとも言える。超えた者とそうじゃなかった者の差がどれだけなのかは分からない。紙一重でもあるし途轍もない差だったかもしれない。

 


 そんなこんなで、TRINITYAiLEは初めて負けた。
勝ち続ける事が全てだと信じて疑わなかったし、認めてくれる最善の手段だと思って邁進して来た瑠依。そんな彼女達に朝倉さんはこう言った。

 

 

 記録は、いつか破られるものだ


 アイドルに必要なのは物語だ。それは、輝かしいステージの上でしか語ることはできない。


 いいステージだった。

 

 

 

 連戦連勝を重ねても見向きもされなかった。でも、ステージはずっと観ていてくれていた。
おそらく、初めて瑠依を労い称賛し、TRINITYAiLEの紡いだ物語を認めてくれる言葉だったのではないでしょうか。彼は記録をただ追うのではなく、TRINITYAiLEにしか紡げない物語を紡げと言いたかった。

負けてしまったという事は傷でもあり最大の屈辱。しかし、それによって記録更新は叶わなくなり麻奈の幻影から魂が解放された事を意味している。同時に最も認めてもらいたい存在である父親に認められた瞬間で瑠依の目標が一つ叶った刻。ここまで張り詰めていたモノが取り払われた瑠依は、感極まって滂沱の涙を流した……

この敗北という物語は、TRINITYAiLEにとって生まれて欲しくなかった物語かもしれない。
このまま敗者でいいなんて思っちゃいないし、その程度だと蔑まれたまま終われない。敗れても尚、諦められないモノがあるのだと。瑠依の傍に寄り添ってくれる優とすみれの翼も一緒に未来の刻の大空を翔けていく……

 


 三人の真の夢でもある絶対的なアイドルへ羽ばたく物語がここから始まった。

 

 

 

 
 と、いう事で……TRINITYAiLE編独自考察でした。


『IDOLY PRIDE』という作品で自分が惹かれた一つの要因として、負けた者達の物語にもきっちりクローズアップ出来ていた事だったのです。アニメでの尺は短かったけれども、バックグラウンドでのドラマがあったのだと感じられたし、良い表現ではないがTRINITYAiLEは見事な負けっぷりを見せてもらえたと思っています。


 次回は、もう一角のボスグループである『LizNoir』編。
長瀬姉妹とは浅からぬ因縁を持つキャラクターである神崎莉央が考察の中心になってしまいそうですが……とにかく魂込めて書き殴っていこうと思います。