巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #12 LizNoir編

 『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語っていくのもいよいよクライマックス。残り2枠となってきました。

 

今回は、アニメにおいて星見プロのアイドル達に立ち塞がるもう一角のボスグループ『LizNoir』編。

 

もう一角のボスグループである『TRINITYAiLE』は、直接対決以外でほぼ星見プロとは関わりが無かった。(アニメでの描写では)その一方でLizNoirは、星見プロと因縁浅からぬ関係として描かれていきました。

 

LizNoirに関わる数多の人の因縁と、彼女達が紡いだ刻を巡る物語を紐解きながら、考察をしていこうと思っております。


 これまでの考察同様、自分の勝手な暴論&妄想に基づいたモノで恐縮ですが…是非ともお時間が許されるのならお付き合いいただければ嬉しく思います。

 

 

 

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 From grace to hatred~恩義から憎悪へ……


 アニメ版に限った話であるのだけれど…本作に登場する主要アイドル達、星見プロ(麻奈、月のテンペスト、サニーピース)とTRINITYAiLEの中で、LizNoirが一番早くにデビューしている。

ただし、添付してある画像では四人いるが中央にいる二人の人物、小美山愛(中央右側)と赤崎こころ(中央左側)はアニメの時点ではまだバンプロの育成機関の練習生でまだデビューしていなくて、最終話のEDにて彼女達が加入する描写がある。その為、本稿における考察で愛とこころについては触れないものとして進めていきます。


 本作に登場するアイドル達の志望動機が、アイドルに対しての憧れを抱き自分もそういう存在になりたいというのがほとんど。この作品がおそらく数多あるアイドルアニメで一線を画していると思われるのが、第1弾プロモーションムービーに出て来る『稼ぎたい』という言葉。

キラキラした憧れの要素を描写する傾向が強いアイドルを題材にした作品では金銭を稼ぎたいという要素はおそらくタブーまでとはいかなくても極力避けられている様に思えます。

それは、アイドルが作品でどういった立場にあるのかで変わって来ます。完全なプロの仕事=ビジネスの一つとして描いていれば、自分の培ったスキルでもって評価=報酬に反映される事を描くのは自然だろう。また、スポ根の様なテイストでアイドルを捉えれば稼ぎたいというのはあまりいいイメージでは描かれず直向きに努力して目標を叶える事にウエイトを置いて描く。この『IDOLY PRIDE』では両方の要素でアイドルを捉えている様に自分は感じられたのです。


 その『稼ぎたい』という想いを抱いてアイドルの門を叩いたのがLizNoirのメンバーとなる神崎莉央。
彼女の持つ性質である攻撃的で自他ともに厳しい姿勢で貪欲に高みを目指すハングリー精神を感じさせるのはそういう背景があったからなのでしょう。ちなみに、莉央が金銭に執着しているのは私利私欲ではなく、母親が経営している実家の店(喫茶店)を経済援助する為だったと語っている。

母親に楽をさせてあげたい想いがあっても、とにかく稼ぎたいというのは莉央にとっては不純な動機だというのは変わらなかったし、そうして培った技術はただの見せかけであり真に人の心を揺さぶるモノではないと当時の彼女は気づけなかった。


まあ、そんな頃……莉央は、三枝さんがスカウトして来た井川葵と巡り逢う。彼女との巡り逢いによって、莉央は一つの呪縛から解き放たれる事となった。


 井川葵という人物は、掴み所の無いミステリアスさに自由奔放で枠にとらわれない思想をしている。そんな彼女は莉央のパフォーマンスを『重たい』と評した。

それは莉央が抱いているしがらみや認めてもらえずデビュー出来ない現状への不満と焦燥感がパフォーマンスに憑りついてしまい、更には技量のみの薄っぺらいモノで尚且つ心の底から莉央が楽しめていないと葵は感じて、それは彼女が気の向くまま好きな時に踊りたいというスタンスからしたら異質だったから『重い』と評したのでしょう。


 そして、葵が莉央に魅せたパフォーマンスは枠にとらわれない彼女のパーソナリティが表れているかの様に自由で軽やかなモノだったと言う。ダンスに限ったら葵は紛れもない天才と称される存在。長瀬麻奈や天動瑠依も天才と称されていたが、葵は麻奈と瑠依とはまた違うタイプの天才なのだろう。本能におもむくままという点は早坂芽衣に資質が似ている。

それ故に、葵自身は上昇志向や執着という感情は薄い印象が見受けられる。好きなダンスが踊れるならば立場や機会への拘りはなく、莉央とは真逆の性質で彼女にないモノを持っている。


 なんやかんやあり、莉央と葵は『LizNoir』を結成。三枝さんのプロデュースを受けて念願のデビューを果たす事になった。高名なプロデューサーとして名を馳せていた三枝さんの下ならばトップアイドルへの軌跡を早く駆けられてより稼ぐ事が出来る希望に莉央は満ちていた。

彼女が回述(11話で)していたがデビュー後も好調で忙しい日々を送っていて人気が出てきた矢先……三枝さんは突如バンプロダクションを退社し、独立する事になってしまった。

三枝さんが独立に至った真意は不明だけれど『今更朝倉とやり合うつもりもない。』という言からすると、朝倉さんと何らかの対立が切っ掛けになったのは伺えるが、莉央からしたらそんなOTONAの事情はどうでも良くて、デビューさせてくれて恩義を感じている三枝さんのこの行動は裏切り行為であり見捨てられたと感じたでしょう。

ただ……3話で星見プロを訪れた際、三枝さんへバンプロへの復帰とそれが叶わない場合自分達が星見プロに移籍すると直訴した。世に出る機と伸び悩んでいた時期に葵を引き合わせて殻を破る切っ掛けを与えてくれた最大の恩人でもある彼をどうしても莉央は完全には憎めなかったと思います。


 そして……三枝さんがバンプロを去ってまもなく、ある一人の少女の出現がLizNoirの運命を劇的に変化させる事になっていくのであります。

 

 

 

 つけられなかった決着、止まった刻


 LizNoir、神崎莉央にとっては切っても切り離せない因縁で繋がった者である少女……長瀬麻奈が三枝さんが新たに設立した『星見プロダクション』からデビューする。


麻奈に対して『癇に障った』と莉央が吐露した様に、莉央にとって麻奈の存在というのは面白くない存在でしかなかった。莉央達を見限った(と思っている)三枝さんがスカウトしたというのもそうだろうし、自分が叶わなかったソロでのデビューもそう。

更には、東京の大規模会場でLizNoirが打ち立てた新人の動員記録まで塗り替えた。これでは麻奈を意識しない方がまあ無理というモノである。そして、元々の勝気で負けず嫌いな性格もあって、長瀬麻奈に強烈なライバルというか仇敵に近い意識を抱くのは必然であり何が何でも打ち負かさないとならない存在。

 


 自分よりも凄い子が同じアイドルにいる。コイツ(麻奈)に勝たなきゃ先へは進む事は出来ないし、未来を掴み勝ち残る事も叶わない……と、莉央の本能が悟ったのでしょう。

 

 

 後から突如現れ、並ばれたのはほんの僅かな瞬間……あっさりと抜かれ常にLizNoirの先をとんでもない速度で駆けていると莉央は感じたのでしょう。勿論、LizNoirだって無為に刻を過ごして止まっていたワケじゃない。ただ、麻奈の駆ける本気の速度が異常加速の領域まで行きついてしまったのだ。



そんな中、第14回『NEXT VENUSグランプリ』の開催が告げられる。



 当時のアイドル界の情勢と言うか勢力図的なモノは分からないので想像(妄想)の域の話ですが…若手アイドルの中での勢力図はリズノワと麻奈による二強時代だったと捉えております。麻奈とほぼ同時期にデビューした遙子やバンプロ、更には数多いる他の若手アイドル達を置き去りにしてしまうほどにリズノワと麻奈の勢いは凄まじかった…という事なのでしょう。

大方の予想では、LizNoirが優勝の本命で麻奈は対抗として予想されていた。その予想通り両者は順当にグランプリを勝ち抜き決勝で戦う事に。

前述の通り、莉央から見た麻奈の印象は仇敵としてしか見えてない。自分達の事なんて眼中に入っていないと。そんな時、麻奈の方から決勝の健闘を誓い合う握手を求められる。

麻奈からしたら、純粋な気持ちで健闘を誓おうという意志で握手を求めたが、莉央の方はその余裕から見下されていると思い込んでしまい『これから戦う相手と仲良くするつもりは無い』と更に敵愾心を滾らせて握手を拒否する。そのやり取りを見ていた葵も麻奈に対して頭に来たらしく勝ちたいという意志を見せた。莉央以外の者に感情や執着に突き動かされるというのはこれまでの葵らしからぬモノ。葵もまた麻奈に影響を受けた者だったと言える。


 それぞれの懸ける想いと負けられない理由を秘め、決戦の刻は迫って来ていた。
しかし……その結末は予想だにしないモノ。LizNoirは決勝だけではなく、未来永劫長瀬麻奈とは決着を付ける事が叶わなくなってしまった。



 長瀬麻奈の不慮の死という受け入れ難い現実を突き付けられたのである……



 倒すべき最大の敵を突如失った莉央の心情は穏やかなモノじゃなかった。麻奈に正々堂々戦って勝つ事が莉央の最大のモチベーションだったはず。ライバルは一人でも減った方が良いのだろうが負けん気が強く、競い合う事で自らを高められるタイプの彼女からしたら最大のライバルである麻奈を失ったという事は戦う意味を失い、同時にアイドルとしての存在価値までも見失い、莉央の刻は止まってしまったという事なのでしょう。

公式のキャラクター紹介ページの莉央の項に、アイドル活動を休止していた時期があったと記載されている。その時期を推測してみると……本編(アニメ2話以降)では普通に活動をしていたから、麻奈が亡くなってから~2話の間の時期と考えるのが妥当か。


 神崎莉央にとって長瀬麻奈という存在は、単純には語り尽くせない存在。
因縁、運命の巡り合せで勝敗を決しなければならない関係。麻奈がいたからこそ行きつく限界の先を超えようと踏み込む事が出来た。莉央の先には死してなお全速力で駆けている麻奈の背中…即ち、麻奈の幻影が存在しているのだと。

 

 


 

 因縁、再び。そして幻影の先へ……


 莉央と麻奈の逃れられない因縁は別の形となって新たな縁と巡り逢わせた。
麻奈の遺志を受け継ぎアイドルの軌跡を歩みだした妹・琴乃との巡り逢いである。

莉央と琴乃との絡みで印象深いのが、8話で琴乃の事を麻奈によく似ているだけの劣化コピーでしかなく、このままでは先に進む事は出来ないという酷評でしょう。


 莉央からしたら『NEXT VENUSグランプリ』の予選をギリギリで通過した当時の琴乃はまだ脅威として認識はしていないはず。にも拘らず、琴乃を罵倒するような言い方をしたのは昔の莉央自身を見ている様な感覚を抱いたからではないでしょうか。そう、余裕が無くてただ技量を追い求める事に躍起になっていて枠に囚われていた頃の莉央の姿とダブって見えた。

自他ともに厳しいとは言っても、何の感情を抱かない人間に対して罵倒に近い辛辣な言葉を浴びせたりはしない。(もっとも、本気で気に入らない奴なら別だろうが……)どちらかと言えば主要アイドルの中で最もOTONAであり常識が備わっている莉央ならそんないきなりの暴挙はしない。

だから、琴乃に敢えて酷評したのは莉央なりの激励だったのだろう。自分と同じく死者(麻奈)の魂に囚われる事はないと。琴乃の方も莉央の真意はおそらく理解出来ていたし、自分と同じく麻奈に拘っている者というシンパシーを抱いたはず。その明確な答えが莉央を呼びつけて語ったシーンに繋がる。

 

 

 長瀬麻奈が本物のアイドルなら、彼女を超える事で私は自分をアイドルとして認める事が出来る。

 だから彼女と戦うはずだったこの大会で優勝する。三年前にどちらかが見ていたはずだった景色を見る。


 その上に自分に問うわ。長瀬麻奈を超えたかどうか。

 みんなの心を揺さぶり、元気にさせるアイドルになれているかどうか。
 

 

 

 かつては憎悪に近い対抗意識を抱いていてただ打ち負かしたい存在から、麻奈の輝きに触れてアイドルの持つ真の輝きに魅せられ憧れを抱いた。麻奈は亡くなった事によって、超えられない領域の先へ麻奈は辿り着いたと莉央は思っている。拘り続けているのは超えられない壁の向こうで麻奈が駆けている幻影が見えるからだろう。それが真のアイドルが辿り着ける領域だと思っている。

そして、麻奈がかつて莉央にした様に、彼女は琴乃に対して正々堂々純粋な魂でもって全力で戦おうと健闘を誓う。琴乃も力強く莉央の想いに返事を返した。このシーンは何とも清々しく胸が熱くなるシーン。


 そうして訪れたLizNoirと月のテンペストとの決戦の刻。LizNoirは『GIRI-GIRI borderless world』で決戦に臨む。完全な妄想の域だが、おそらくは麻奈との決勝で歌う楽曲だった…と勝手に思っている。そう感じさせたのは、紡いでいる詞がLizNoirの生き様と強く結びついているからだと。

あの刻(三年前)に置き去りになってしまった忘れ物を取り戻す為、月のテンペストに勝てば『答え』に一歩近づけると信じた。詞にもある様に莉央と葵は命の音を燃やしパフォーマンスに全部懸けた。

ただし……この楽曲の歌詞は生き様を示す様な激情はあるけれど、本当に叶えたい願いと答えに関しては明確な指針が描写されていない。それは、『NEXT VENUSグランプリ』で優勝が叶わないと麻奈を超える事が出来たのか?という莉央がまだ出せていない答である様にも繋がってしまう。

一方で、月のテンペストは、自分らしく自分の道を切り拓いていく意思が込められた『The One and Only』で決戦に臨んだ。莉央と決定的に違ったのは、琴乃はもう麻奈の幻影の先を見る事が出来てそこに踏み込む覚悟が出来ているという事。勝敗を決めた差はそこにあったのだと。


 誰にも割り込めない心躍る戦いは、月のテンペストの勝利で終焉を迎える。
その事を証明したのが『楽しかった』という莉央の言ではないだろうか。琴乃も莉央と同じく楽しかったと返し手を差し伸べる。その握手を求める手は琴乃の手だが莉央の眸には麻奈の姿が見えた。


 莉央が、麻奈の魂を認識できたかどうかは分からないし、実際には認識できないのだろう…それでも、琴乃が手を差し出した姿に麻奈の姿がダブって見えたというのは一つの奇跡。気にする素振りを見せず無視されていると思い込んでいた麻奈が自分達のステージを見てくれたと思った。更には、琴乃から麻奈が莉央の事をライバルとして認識していた事も告げられる。

これらの一連の出来事は麻奈の幻影に囚われていた莉央を本当の意味で解き放たれ救われる決め手になったのではないでしょうか。

 

 

 だとしたら、私も頑張って本物のアイドルにならないとね。
 
 
 あの子(麻奈)をガッカリさせない為にも。

 

 

 『NEXT VENUSグランプリ』で優勝出来なければ麻奈を超えた証明にはならないと思い込んでしまった。求める答えはそこにしかないと。でも、麻奈の幻影を超えた先は既に見えていたけど気づけなかった様に思えるのです。誰よりも麻奈に拘り続けていたからこそ成長出来たが、想いが強過ぎて見えなかったモノもあった。

 

 『NEXT VENUSグランプリ』は、月のテンペストとサニーピースのダブル優勝という前代未聞の結果で幕を下ろした。

 

その頃LizNoirにも変化の刻が訪れた。小美山愛と赤崎こころの二人がLizNoirの新メンバーとして加入して新生・LizNoirとして生まれ変わった。生真面目だけれど猪突猛進の気のある愛と、一癖も二癖もあり口達者なこころ。彼女らもクセの強いアイドルで莉央の胃と神経に負担がよりかかりそうではあるが……新しい血を入れて生まれ変わったLizNoirは新しい刻を刻んで物語を紡ぎ出した。


 莉央、葵、愛、こころの前には、荒れ放題の荒野が広がっているのでしょう。
でも、その先にはオアシスもあり新たなステージが無限に拡がって、誰にも屈しない魂があるのでしょう。この四人なら最高の景色が見られると信じて。

 

 


 と、いう事で……LizNoir編でした。
まあ、グループ全体と言うかは神崎莉央の事ばかりになってしまった感は否めません……言い訳になってしまいますが…それだけ自分がこの作品を見た際に抱いた神崎莉央の生き様に魂が持っていかれたという事の証であるという事なのです。

 

 さて、長らく続けてきた『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語る独自考察もいよいよ次回でラスト。

 

『IDOLY PRIDE』のアイドルの中でスペシャル・ワンの存在である長瀬麻奈編。

 

彼女が関わった多くの縁と生き様。その辺りを出来得る限り考えを巡らせて書き殴れればと思いますので、是非ともお付き合いしてもらえたら幸いであります。