巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #4 伊吹渚編

 どうも。『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語るお時間です。


 4回目にして、早くもヤマ場を迎えてしまいました……と、言うのも、今回扱う伊吹渚は、星見プロのアイドルの中でもブラックボックス的な存在と評してもいい存在だと思うからです。

それを開けて中身を解明する為には、妄想と暴論をフル活用していくしか道はありません。


(まあ、当Blogでは通常運転だったりするがwww)


ですから、これから書き殴っていくモノは、考察の名を借りた妄想と暴論にまみれた怪文書。異論・反論は大いにあるかと思いますが……良ければ最後まで読んで下さると嬉しく思います。

 

 

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 強かな『鎹』(かすがい)としての顔

 

 渚のパーソナリティを評するならば、他者の想いを慮って寄り添える人物。彼女と最も縁の深い長瀬琴乃とは真逆の特性を持っているという事になる。その特性は、アニメ版の物語において遺憾なく描写されていた様に感じた。口下手で誤解されやすい琴乃をフォローする言を度々見せている。

尺の都合という割りを食ったという事もあるが……大きなトラブルや悩みの種を抱える事無く、一歩引いた立ち位置だったり、時には一歩踏み込んだ立ち位置で、その時々に適したポジションで琴乃や『月のテンペスト』の活動を支えてきた。それは、渚の特性でもある絶妙な俯瞰の目とバランサー能力の高さ、コミュニケーション能力の高さが成し得るモノ。

我を調整しながら周囲の子達に上手く溶け込むのは、この世代の女子にとって大切なコミュニケーションスキルだと思う。勝手な持論だが、グループを上手い方向に持っていく為にはこういった縁の下の力持ちや『鎹』的な特性を持つ人物は必要な人材。沙季の様に生真面目でちょいと融通が利かないワケでもなく、芽衣が牧野の部屋に入り浸っている様子を隠れて喜々として見ていた時の様なゴシップ好き的ノリの良さもある。


 特に、顕著に表れたのが3話で星見プロに加入して他のメンバーと初めて対面した際、さくらに琴乃がさくらの事を色々話していた事を伝えた。そうしたのは琴乃がさくらにきちんと抱いている印象を話していないだろうと見越した上で。彼女の推察通り、琴乃はさくらに対して話しておらず想いをきっちり伝えないのは駄目だと琴乃を諫める。

渚にとって、突如現れ彼女と琴乃の間に割って入った存在であるさくらはハッキリ言ってしまえば親友の関心を奪った面白くない異物。おそらく大映ドラマだったら、嫉妬の炎を滾らせた渚はさくらをいきなり引っ叩いただろうwww

ただ、さくらに対して渚が嫉妬の念を抱かず好意的に接していったのは、彼女自身が川咲さくらという人物に興味があった事と、彼女の中に確固な琴乃への共に過ごした刻で築かれた信頼と情愛があって依存しきっていないという自負があったのと、彼女が持つ社交的で懐の深い性格があってなのだろう。


 自分の一時の感情に流される事無く、過度に出しゃばらずに人が衝突しない様上手く引き立てて盛り上げる事。そんな彼女は人と人との縁と関わりを繋げる『鎹』という人との関わりを繋ぐ存在なのかと感じてしまうのだ。

 

 

 

 

 引力に魂を惹かれ“我”を出す

 

 (クソ)真面目で、前向いたらそこへ真っ向勝負しかできない不器用でどこか危なっかしい琴乃。そんな彼女が直向きに頑張る姿を見て、他者の想いを汲み取れる能力が高く、尊重出来る渚は琴乃の力になりたいと感じて寄り添う。


やがて、琴乃の不器用で真っ直ぐな想いが渚をアイドルへの軌跡へと導く事になる。


 自分の近くで本気の魂懸けて頑張っている人間がいれば、自分も刺激される。渚もそうだったのだろう。琴乃に感づかれない様に、秘かに努力を重ねていきオーディションを受けて合格している。

アイドルになるというのを琴乃に話さなかったのは、単に琴乃を驚かせたかったのは勿論あった。でも、打ち明けてそれ以上に余計な気遣いをさせたくなかったというのもあっただろう。琴乃の性格を慮れば言ってしまう事は得策ではないと。


 渚がアイドルを志した動機は、琴乃の夢を親友として一緒に叶えたい、その為の力になりたいという想いからだ。そんな動機で?と首を傾げる人は少なくないだろう。

特に、この作品のアイドル達の志望動機は幅広く、しかもキレイなモノだけではない。
怜の様に誰かを見返して認めさせるというモノだったり、莉央はとにかく有名になって富を稼ぐ事だったり。ただ、それも立派な動機である。

その人にしか描けない、思い描く理想に向かって動く事が大事だとこの物語は伝えたいのだろう。


 渚にとっては琴乃の存在そのものが一般的にいわれる輝きと憧れの象徴である“アイドル”だった。そして、琴乃との出逢いこそが、大袈裟な話だが渚の人生を変える程の転機で、大切な親友でもあり自分の中の理想のアイドルになっていった。

琴乃が認めてくれて近くにいてくれる事。そんな存在が未来を見据えてどんどん遠くへ行こうと本気で駆け出した。それは渚にとって嬉しい事でもあり不安でもある。その不安を打ち消す事と喜びを共に近くで分かち合いたい、どこまでも遠くに行くのなら一緒に肩を並べて軌跡を駆けていきたいと願って渚は踏み出した。


 辿り着きたい景色は違うが、渚と琴乃は似た者同士なのかもしれない。二人共、自分の為というかは、他人の為にアイドルを志した部分が重なり合う。
姉・麻奈の為にアイドルを志した琴乃、そんな琴乃を応援して支えたい一心でアイドルを志した渚。口には出していないが、琴乃は他者との関わりを断ってまでも、ずっと変わらずに傍にいてくれて応援して支えてくれた渚には多大な感謝を抱いているはず。渚がもし傍に寄り添っていなかったら、琴乃はもしかしたら潰れてしまっていたかもしれない。


だからこそ渚は許せなかったのだろう。彼女…神崎莉央が琴乃に放った『麻奈の劣化コピーでしかない』という言葉が。(8話)

 

 
 琴乃ちゃんの何を知っているんですか?


 琴乃ちゃんがどんな気持ちでアイドルをやっているか、貴女に分かるんですか?!!

 

 

 親友を単に愚弄された事もそうだが、何にも知らない奴が好き勝手言う事への怒りも当然あった。それと同時に渚自身の全ても理不尽に否定された事への怒りも湧いて来たのではないだろうか。他のメンバー達が場の雰囲気に萎縮している中で、朗らかで優しい性格の渚がここまで感情を荒げ、敵意を剥き出して怒る場面はここの場面だけ。

だが、彼女の莉央に食ってかかる行動は、感情に流される事無く場の空気や他者の心情を尊重して立ち回ってきた彼女らしからぬバランサーとしてのプライドから反する行動。でも、理屈で抑えられない爆ぜようとする感情と血が沸き滾る様な怒りが莉央の言葉の刃によってもたらされた。

 おそらく、アイドルをやっていなかった頃の渚は、ここまで激しい怒りの感情…即ち、強烈な『我』を出す事は無かったのかもしれない。そこには、アイドルをやった事によって明確に渚の成長が描写されていた様に感じられたのである。

 

 

 

 

 君だけの心の光

 

 予選での激闘を勝ち抜き、月のテンペストとサニーピースはNEXT VENUSグランプリ本選への切符を手にした。当然ながら彼女達の知名度や認知度もデビュー当初とは異なってきた。


そして、世間の声は彼女達に決して優しいだけのモノではなかった。


それが影響して、琴乃とさくらとの関係が微妙な歪みへと変わってしまう。ただ、どうにかしたいという想いは琴乃とさくらにはあって話し合うがどうにも上手くは収まらなかった。


 そんな悩める琴乃の心をすくい上げたのは、親友である渚だった。
明らかに琴乃とさくらの様子はおかしいが、問題が問題なだけに迂闊に踏み込む事も難しい。唯一踏み込めるとしたら、人に対して絶妙な踏み込みと距離感を持つ渚しかいない。


彼女も自覚していたのだろう。ここは自分が動く刻だと。
 

 麻奈の遺志を継ぎ、トップアイドルになる事が琴乃の夢。でも、どう頑張っても麻奈の様に歌う事は出来ないと痛感している。そして、麻奈の歌声を継ぐさくらの出現によって琴乃のアイドルとしての存在価値と理由を見失ったと吐露する琴乃。

そんな琴乃の言に『琴乃のしたい様にすればいい』と渚は琴乃自身を肯定する言葉をかけた。琴乃の心情は渚だけではなく皆が充分理解していると。そこで皆が心配しているという事も巻き込むように伝えて、琴乃の孤独感を和らげようという気遣いもあったのでしょう。で、偶然居合わせ陰で聞き耳立ててた感じになっていた沙季、すず、芽衣はおそらく渚の策で彼女が呼んでいたと思っている。

 

 みんなね、琴乃ちゃんの歌声が好きなんだよ。

 
 麻奈さんの事は関係なく、琴乃ちゃんと一緒に歌いたい。

 

 

 物言いは優し気で琴乃に気遣ったモノであるが、渚の本心は、過去(麻奈)に囚われず、未来に怯えず、今の刻を全力で生きろと伝えたかった。麻奈の幻影に囚われその先を見る事が出来ない琴乃の手を渚が取って引いて導く様な想いに溢れている。


長瀬麻奈の替わりじゃない、お前……長瀬琴乃が必要なんだと。


彼女が琴乃の頑張る姿に刺激を受けてアイドルを志した様に、今度は目的を見失った琴乃を渚が励ます。彼女の人生を変えた大切な親友が本当に願っている事を叶えたいと感じたからこそ渚は動いたのだと。


 そんなこんなで結束を深めた月のテンペストはグランプリ本戦の初陣に挑む。
この時に歌った楽曲についての描写が一切ないので、ここからは妄想で書き殴ってしまうが……自分は、8話のED楽曲で月のテンペストの楽曲でもある『Daytime Moon』を歌ったと考えている。


そして、この楽曲の作詞をしたのが渚、もしくは月のテンペスト全員だとも思っている。


 作中において、アイドル達が作詞を担当したという描写は存在していて、麻奈の『song for you』やサニーピースの『EVERYDAY! SUNNYDAY!』がそれにあたる。故に、月のテンペストのメンバー達が作詞を担当した楽曲があっても何らおかしいモノではない。

『Daytime Moon』の詞の内容に目を通すと、その内容が渚と琴乃の関係性と非常に合致しているという事。渚の琴乃への親愛の情や深い想いが詞に込められている様に思えてならない。勿論、この説は根拠の全くない暴論まみれのモノだが……渚作詞説を有力なモノとして考えられるのだ。

 

 

 


 と、いう事で、伊吹渚編でした。


予想していた通り難産でした。正直、コレ読んで面白いと思えないが……現時点で彼女に抱いているインプレッションは出し尽くして書き殴ったつもりです。

冒頭でも書いてますが、コレは妄想&暴論100%による独自考察。読んで下さった方達の違った意見も伺ってみたいものです。

 

 

 今回も最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 


 


 
 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #3 一ノ瀬怜編

 『IDOLY PRIDE』キャラクター独自考察シリーズ。3回目にしてもう書くのが厳しくなって来た模様……

と、言うのも、アニメ版の物語全体が短い尺だった事もあり、その中で描写できる人物にはどうしても限りがあり、割りを食って描写に差が出るキャラが出てしまうのはどうにもならない。

なので…これ以降の独自考察は、前の2回以上に妄想と暴論が跋扈したモノになるという事を、予めご理解の上読んで下さるとありがたく思います。



それでは第3回目、一ノ瀬怜編を書き殴っていきます。

 

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 外からの”異分子”がもたらした『変化』



 外からの異分子と称した様に、一ノ瀬怜はオーディション加入組ではなく、牧野のスカウトによって星見プロに加入した経緯を持ち10人中最も遅い加入となった。(出逢い方はアレだったが……)

怜は、高校生のダンス全国大会で優勝したという実績があって次の目標を探していた頃に丁度牧野がスカウトに来て自ら加入を志願した。上昇志向が強く、ストイックで自他に厳しい所謂『意識高い系』の人物。アイドルに対しては憧れからではなく、自分が見据えている未来の姿(ダンスで糧を得る者として一人前になる)を目指す為と存在を世に認めさせる事が目的という人物。

ダンス経験者で技量があるのは勿論、知識も持ち合わせている事から彼女が所属する事になった『サニーピース』のメンバー達に容赦ないコーチングをしつつレッスンを行い、レッスンを終えた遙子以外のメンバーは怜の的確で容赦無い徹底したコーチングでグロッキー状態に。


 さくら、千紗、雫は、アイドルの軌跡へと駆け出したばかり。言い換えるなら、まだ何も成し遂げられていない者達。遙子は、さくら達とは違ってソロデビューを既に果たすも全く芽が出なかった雌伏の刻が続いている。彼女もさくら達同様に何も成し遂げられていない者だ。
当人たちはそんなつもりはないだろうが、極端な刺激の無いぬるま湯につかっている様な関係性と言えなくもない状況。

そこに、実績を持つ一ノ瀬怜という異物=石が投げ込まれた。そして、この『石』はただの石じゃなくてとんでもなく熱せられた焼け石。そんなモノが投げ込まれればぬるま湯は一気に煮滾る熱湯と急激に変化…即ち、環境が変わる事。

人と集団を活性化させるのに環境の変化は必要な事でもある。だが、このメンバー達は未来の期待よりは不安を抱く子達の方が多い。そこでもたらされた急激な環境の変化はストレスになってしまった。

特に、姉・沙季と離れ離れのグループに分けられた千紗の不安から来るストレスは徐々に大きな歪みとなって来る。

 

 ステージでも同じ事を言うんですか? 

 
 他のアイドル達は初心者の私達に優しくしてくれるんですか?


 デビューすれば同じプロなのに。

 

 

 

 ド正論で鋭利な言葉の刃。怜と同系統なキャラである琴乃でもここまで熾烈な言葉は浴びせないだろう。


(琴乃の場合、人と関わるのが面倒という理由で放置しそうだが…)


 確かに怜の言う通りプロの世界はデビューすればキャリアの差というのは全くもって意味を成さなくて結果のみでしか評価されない。
特に、この物語の世界はアイドルに対してAIであらゆる要素を数値化してジャッジを容赦なく下してハッキリと勝者と敗者を分ける過酷な世界。


 怜が厳しい物言いになるのは、大好きなダンスでは絶対に妥協したくないという想いが根底にあるからだろう。一方で、全ての人間が自分の様に直向きに頑張る事が出来ない事も彼女は理解出来てる。

ただ、理屈で分かっているが感情の面でどうしても譲れないモノというのが人それぞれにあって、好きな事に対して全力で出し尽くしていない、覚悟が決まっていない者を見ると許せないという感情が怜の中で湧いてくるのだろう。

好きだからこそ、ストイックにパフォーマンスの向上を求める。
今後もダンスに関わっていく為に、今のアイドル活動においても甘えや妥協を許さない。

それこそが、一ノ瀬怜が『輝き』を手に入れる為の唯一の手段であり、彼女の在り方が象徴されている。

 

 

 

 強いから闘うのではなく、闘うからこそ強くなれる

 

 レッスンでの怜の容赦ない指摘に対して、耐性の限界を超えてしまった千紗の火種が遂に爆発した。
以前より厳しさを増したレッスンについていけず取り残されてしまっている事への焦りと不安。
更には、心の拠り所でもある、姉・沙季と離れ離れの別グループに編成されてしまった環境の急激な変化もその要因。

ダンスがきっちり踊れる怜に、前向きな物言いが出来て、出来ない自分の気持ちが分かるわけがない!と、憤りの感情を千紗は爆ぜさせた。


 だが、千紗の感情の爆発を見ても、怜のリアクションは冷淡なモノだ。
区分けしてしまえば、ダンスの全国制覇という成果を成し遂げた怜は『強者』の部類。一方、アイドルの軌跡を駆けだして間もなく、まだ何者にもなれず能力の無さを嘆く千紗は『弱者』の部類になる。



 

 諦めない事、練習を重ねる事、始めたなら立ち止まらない事。


 まだ、何もしてないのに?本当にアイドルが好きなんですか?!


 

 

 怜は、千紗の弱気な性質自体を駄目な面として非難したワケではない。その弱さに甘んじて逃げ道にして闘わない事と、本当に好きなモノに懸ける覚悟の薄さに対して許せないという感情を抱いたのだろう。

怜も最初から強かったワケでは無かった。弱いと自覚しているのなら、きっちり認めて向き合いそこから逃げず尚の事闘えと。怜自身もそうやって立ち止まらず闘って来たから実績を勝ち取るに至った。勿論、積み重ねて来た努力が全て報われ叶うとは言い切れない。でも、叶えた者は必ず弛まぬ努力を積み重ねているモノ。

何もせずただ黙って見てる者をすくい上げてくれるそんな世界はどこにもない。心に蓋をしないで闘う意志を示し、今の刻を闘わないと雄飛の刻はやって来ない事を怜は頑なに信じている。


自らの在り方を自分の意志で決めて、闘い続ける事。


それが、一ノ瀬怜が貫き通したいプライドであり、アイデンティティでもあるのだと思える。

 

 

 

 踏み込まなければ触れられない



 『LizNoir』のパフォーマンスを動画で観て、彼女が想像していた以上のモノだったと感じ、トップアイドルへ辿り着く為には『LizNoir』以上のパフォーマンスを身に付けなければならない現実を突き付けられ、自分より格上の者達に勝つ為には、強敵よりも努力を重ね続ける刻を多くする……

怜はダンス経験が長い事から、経験者である彼女が率先し引っ張ってグループ全体のレベルを上げなければならないという義務感、危機感、責任感を同時に抱いてしまった。良くも悪くも彼女は直向きであり生真面目な性質なのだろう。


やがて、怜の純然な上昇志向は『焦り』へと変換されてしまう。


当人は焦りを悟らせない、もしくは自覚がないが『サニーピース』のリーダーである川咲さくらは怜が危うさを潜ませた焦燥感を抱き、それが苛烈なまでの物言いや意識の高さに繋がっていると感じ取る。それは、さくらが琴乃に抱いたファーストインプレッションと酷似していた。

これまで、メンバー達が怜に抱いたインプレッションは、ダンス経験や知識があって全国大会で優勝した実績があるという怜の強い面しか見えていなかった。そういう人間からあれこれ言われた事は額面通り受け取りずらいものがある。ましてや出逢って間もなく信頼関係が充分に築けていない状態ならなおさらの事。

さくら達の中では、最初から怜は特別で違う存在と認識してしまったからこそ、怜とメンバー達(特に千紗)の間に意識の差という壁が出来てしまったのでしょう。


 そんな折、レッスン後に寮の近所のスーパーに買い物に訪れたさくら達は、そこでバイトしている怜に遭遇する。怜が夜に外出している用事はスーパーでのアルバイトだという事が判明した。レジ打ちしている姿が見つかり慌ててミスを連発するというレッスン中の厳しさとはまるで違った『弱み』を見せてしまう。でも、その弱み=怜の人間性を見せた事で近づいて寄り添う切っ掛けが出来たと思える。


 ダンスが好きでたまらなくて、将来はダンスに関わる仕事に就きたいと夢抱くが……怜の両親はダンスに対して良いインプレッションは抱いていなくて、両親が敷くレールにあるモノではない為、怜の思い描く夢を否定して、全国大会で優勝した結果で証明しても認めてはくれない。

そんな厳格に枠に嵌めようとする両親(おそらく父親が反対しているだろうと予想)が、アイドルになる為に家を飛び出すという事を素直に了承するとは思えないから、大喧嘩した末に彼女を追い出したか、または何も告げない家出同然の身で怜はアイドルへの軌跡を駆けだした様に思える。バイトを始めたのは、家族から経済的な援助は望めないしそんなつもりもないという完全に退路を断った本気の表れなのだ。

怜が話している最中、整列されたショッピングカートと、列から離れて放置された一個のカートが怜の心情及び状況とリンクしている様な描写がこれまた面白くていい。

 トップアイドルになれば世間の多くの注目を浴びる。そうすれば嫌でも怜の事を両親は認めざるを得ない。彼女が最も悔しいと感じているのが、認めて欲しい相手が認めてくれなかった時だと言う。それは怜の最強で最大の敵でもある両親なのだろう。

そんな相手に勝つ=認めさせるには立ち止まらない事。それは怜の魂に滾るエネルギーが彼女の身体を突き動かし、闘い続けられる理由にも繋がっているのでしょう。

 

 きっと、怜ちゃんも不安だと思うよ。成功できるかなんて分からない。

 
 だから、いっぱい練習するんじゃないかな。不安を消すために何度も繰り返して。

 

 

 怜がアイドルに懸けている想いと闘い続けられる理由をサニーピース全員が知った。そして、今の彼女の心情に一番寄り添えている遙子の言は重い。それは彼女も不安を抱えながら雌伏の刻を過ごして直向きに努力してきたから、報われない事と認められない事の辛さが遙子の境遇とも重なるからこそ分かったのだろう。

怜は強い特別な存在でも何でもなく、メンバー達と同じく不安を抱えながら今を生きている等身大の変わりたいと願う一人の少女だった。その事実は、怜に対し枠を作って閉じこもってしまった千紗の枠を壊して一歩踏み出す勇気が湧きだした。同時にそれは千紗の成長へと繋がる為の始まりの一歩でもあった。

そして、怜もさくらの敬語禁止という提案にはにかみながらその提案に乗っかる。
それは、怜が変わろうとしていく想いと、メンバーに寄り添おうと一歩踏み込んだ事の証明ではないだろうか。

 

 

 と、言う事で、一ノ瀬怜の独自考察でした。


正直、物語全体通しての彼女の考察というよりは、クローズアップされた5話で描かれた彼女のパーソナリティしか書けてません……それにつきましては、自分の物語を読み解く範囲の狭さという不甲斐ないモノで何の言い訳もございません。

本文中にて、一ノ瀬怜のパーソナリティを『闘い続けられる者』と評していたのはあくまでも自分の勝手な解釈です。


 毎度ながらの取っ散らかった怪文書ですが、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
次回以降の独自考察もこんな感じの散らかりまくった怪文書になると思いますが……読んで下さると嬉しく思います。

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #2 川咲さくら編

 完全な見切り発車で始めた『IDOLY PRIDE』キャラクター独自考察。
2回目は、もう一人の主人公と称しても差し支えない人物、川咲さくら編。

 

長瀬琴乃と同様に、アニメ版の物語において重要な役割を果たしていたさくら。
彼女に関わる様々な要素と紐付ながら、さくらの物語について考えを巡らせていこうと思う。

 

 

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 持つ者と持たざる者~相反する縁の巡り逢い

 

 

 この作品では、アイドル達の成長譚を描く物語であると同時に、相反する要素を持つ者がそれぞれの持ち場にて、その者にしか発揮できない要素で魅せる描写が多いのが特徴的だと感じた。

長瀬麻奈と琴乃、白石沙季と千紗の姉妹の絆と自立(…書いておいてなんだが、相反するモノなのかは分からん)。麻奈と牧野航平の関係性、麻奈の幻影を追う者達。


そして……琴乃とさくらとの関係性。


 琴乃の項でも触れたが、彼女は姉・麻奈の遺志を継ぎトップアイドルになる目標を抱いてアイドルへの軌跡へと踏み出した。だが、麻奈の様に歌う事が出来ず苦悩し足掻き続けている。そんな時に、ふと現れたのが川咲さくらだ。
 
飛び入りでオーディションに参加したさくらは麻奈にそっくりな歌声と雰囲気で、その場にいた、琴乃、牧野、アイドルとして在りし頃の麻奈を知る佐伯遙子、三枝社長を唸らせた。特に、麻奈の様に歌えないと絶望していた琴乃にとっては衝撃的なインプレッションだっただろう。どう足掻いても彼女が手に入れられなかったモノを持った者が突然現れたのだから。

そんなさくらだが、アイドルを志してここ(星見プロ)に来たのではなく、漠然で突拍子もない理由だった。

 

 私、自分にとって大切な事とか必要な事とか分かるんです。


 この胸が教えてくれるんです。ここに行けとかこれをやれとか…


 それで上手くいかなかったことがなくって。

 

 

 さくら曰く、心臓の鼓動の高鳴りに導かれた結果が星見プロのビルに辿り着いた事になった。その鼓動に従って行動する事でこれまでいい結果しか出ない事から、彼女はその鼓動がもたらす事については絶対的な信頼を持っている。この件もそうなのだと。


別の言い方すれば良い未来を頑なに信じる純粋な魂をもっているとも言える。
その背景には彼女の過去が多分に影響していた。


 さくらは、心臓に病を抱えていた過去があった。しかも、心臓移植をしないと生命に関わってしまうほど重い症状で当たり前に生活する事が困難だったと。でも、そんな境遇でも彼女は生きる事を諦めなかった。結果として、適合する心臓が見つかり、さくらは病を克服する事が叶った。生と死の狭間を経験したからこそ、さくらは当たり前に生きている今の刻の尊さを実感している。

 姉・麻奈がアイドル活動していたのを間近で見て育った琴乃とは違って、さくらはアイドルに対しての先入観が希薄だから、活動における様々な事に新鮮なインプレッションを抱く。

特に印象的に感じたのが、3話で星見プロに来ていた『LizNoir』の神崎莉央と井川葵がレッスンの際に魅せたパフォーマンスを見て、さくらは理屈抜きで魅了されつつ圧倒的な凄みを感じてアイドルの持つ真の輝きに心揺さぶられる。圧倒的な差を魅せ付けられて打ちのめされただけの琴乃とは対照的な描写だ。

それを経て、自分も『LizNoir』の様なアイドルになりたいとさくらは力強く吠えた。これもまた、彼女が良い未来が訪れるだろうという事を信じているから出て来た言葉だろう。
さくらの前向きな決意表明を受けて、琴乃も変わっていく切っ掛けに(他者との関わり合い)踏み出し、レッスンの模様を撮影していた雫に呼びかけて反省会を開こうと提案する。

さくら(太陽)の輝きを受けて、琴乃(月)も輝こうとする…というよりは、さくらがいたから琴乃は変わろうとする覚悟と勇気が持てたのではないだろうか。


 姉の様なアイドルにならねばならないと思い込み、本来の自分を認める事から避け続けた琴乃。それは、未来と可能性を信じたいが未来と弱さを受けいれる事に対して臆病である事にも繋がっている。

さくらは、降りかかる全てを受け入れて認める。さくらにとってはそれも『当たり前の事』の括りにある。


 さくらと琴乃は相反する要素を持ち、相容れない存在である様に見えてしまう。
でも、彼女達が巡り逢い関係を構築していくのは避けられない必然の縁だった。
琴乃はさくらが持つ自分に無い要素に惹かれていった。そして、さくらも琴乃が持つ自分に無い要素に惹かれた。


 さくらが引っ張っていっている様に思えてしまうが、彼女も琴乃に引っ張ってもらっていた。
この両者の関係性は『IDOLY PRIDE』の『要』となる大きな要素だったのではないだろうか。

 

 

 

 Heart&Soul~川咲さくらの心臓と魂。そして自我の覚醒

 

 川咲さくらの物語を紐解くに欠かせない重要なピースと言えば…前述でも触れている彼女の心臓の事にまつわる数多のエピソードである。彼女の心臓の謎もまたこの物語において要となる要素。


 彼女は、心臓移植手術を受けて病を克服し、今の刻を生きている。
そのさくらの胸に在るのは不慮の事故にてこの世を去ってしまった長瀬麻奈の心臓であり、移植手術もその頃(本編の三年前)に行われた。ただし、いろいろな法の制約があってさくらが誰の心臓を移植されたのかはさくら自身も分からない。

でも、麻奈が生前所属していた星見プロのビルの前で心臓の鼓動が高まったり、移植されて以降自分の歌声が変わって歌う事が得意になったこと等を鑑みて、さくらは自分の胸に在る心臓が麻奈から提供されたものと情報は無いが確信した。

麻奈によって生命を繋ぎ止めたさくらは、心臓というピースによって麻奈の魂はさくらを依り代にして生きていると言ってもいいのだろう。それはさくらにしか理解できないモノ。コレは完全な妄想の域だが、麻奈が幽霊になっている要因の一つはさくらの心臓が影響しているのだろう。だとすると、さくらの確信は信憑性が高いモノに思えるし、長瀬麻奈の幻影に囚われた者の一人でもあった。


 『胸がドキドキしたから』という不可思議で漠然とし過ぎたアイドルの志望動機だったが、琴乃や他のアイドル達が頑張る姿を目の当たりにした事と、様々な経験を経た事が刺激となってさくらの心情も変化していく。それは、与えられたモノ(麻奈の歌声)に依存するだけではなく、川咲さくらというアイドルとして自立する事への始まりでもあり彼女自身が気が付けなかった本当に叶えたい夢。


そして……さくらは、長瀬麻奈の幻影と決着を付ける刻を決意する。

 

 

 

 感謝と決別の『song for you』

 

 

 琴乃と同様に、さくらにとってもこの『song for you』という楽曲は重要で切り離せない縁で結ばれて、アニメ版の物語の後半における重要なシーンが続々と展開されていく。

さくらから幽霊となってしまった麻奈を認識する事は不可能な為、認識可能な牧野と芽衣を通訳代わりとしてさくらと麻奈は対話する。麻奈が遺したこの楽曲をさくらが歌う事の無意味さを説く為に。だが、さくらは頑として麻奈の言葉を受け取ろうとはしない。
勿論、さくらにだって誰が歌うのが最も相応しくて多くの人の魂に響く事なのは理解している。

あの楽曲は自分だけのものであり、どんなに凄い技術や経験を持つ者や、仮に自分と同じ質の歌声を持つ者だとしても上手く歌う事は絶対出来ないと麻奈は吠える。それは、アイドル・長瀬麻奈が死してもなお貫き通す確固たるプライド。

それと同時に、自分の歌なんか歌わなくてもトップアイドルになれる素質を琴乃とさくらに感じていると激励の言を贈る。
 


譲れない想いと魂が麻奈にもある。当然、さくらにも譲れない想いと魂がある。

 

 
 私、ずっと悩んでました。麻奈さんの歌を私が歌っていいのか?


 でも、この心臓が麻奈さんのものだと知ってハッキリわかりました。


 あの歌は私が歌わなきゃって。


 麻奈さんほど上手く歌えるか分かりませんけど、琴乃ちゃんにも伝えます。


 この心臓は麻奈さんのものだから私が責任もってちゃんと歌うって。

 

 

 
 『NEXT VENUSグランプリ』でただ勝つための手段で歌うのではない。そんな単純なことじゃなかった。生命を救ってくれた麻奈への感謝、本当に目指す夢への軌跡を拓く切っ掛けになってくれた琴乃、サニーピース、月のテンペストとの絆への感謝、牧野と三枝への感謝。そして、当たり前という奇跡への感謝。

さくらを取り巻く全ての縁への感謝を持って歌う事で、麻奈の幻影との決着が付くとさくらは頑なに信じた。だから、麻奈の想いを知っても決意は揺るがなかったのだろう。それは、死線を彷徨った経験者にしか得られない意地の様なモノ。

 

 

 私ね、麻奈さんの歌声で歌うのは次のステージで最後にしようと思う。

 

 

 さくらは『song for you』という楽曲を、全ての縁の記憶と感謝を謳う楽曲だと解釈した。
特に、麻奈に対しての感謝を歌う事で決着が付いて本当に目指す軌跡への一歩が踏み出せる。偶然手に入れたモノ(麻奈の歌声)に依存してきたこれまでの自分から自立する事。即ち、自分が望んだ未来へ踏み出す事へ繋がり、誰にも屈しないさくらの魂の輝きが拡がっていったと思えてならない。

 

 

 

 自分達にしか歌えない『謳』とネモフィラの花

 

 

 10話で描かれた『NEXT VENUSグランプリ』セミファイナル。さくら率いる『サニーピース』の相手は、新人では異例の知名度とデビューからのライブバトルでは無敗の実力を持つ(ボスユニット)『TRINITYAiLE』。

そんな強敵に対し、さくら達は『サニーピース』にしか謳う事が出来ない楽曲で闘う事を決意する。歌詞やダンスの振付は彼女達が全部考えた楽曲『EVERYDAY! SUNNYDAY!』で勝負を懸ける。失うモノは何もない挑戦者魂でさくらにとってもリスタートの意味を持つセカンドステージの始まりとなる闘いに挑む。

麻奈の歌声ではなく、今のさくらの歌声が好きだとメンバー達は肯定してくれる。
ありのままの自分を肯定して認めてくれる仲間が寄り添ってくれる。これもさくらが得た答え。

そして、彼女達がセミファイナルで着ていた衣裳もこれまでのモノとは違うモノ。衣装で最も特徴的なのは、首元にネモフィラの花を模したアクセサリーが着いている事だ。


ネモフィラ花言葉『どこでも成功』『可憐』『あなたを許す』。


『どこでも成功』とは、場所自体を指す言葉ではなく、麻奈の歌声ではない川咲さくらの歌声でもって、サニーピースの五人にしか謳えない楽曲で成功を目指すという意味になり、『可憐』はアイドルらしく在ることでもあり……『あなたを許す』は、誰かが何かをやらかした負の要素を許すのではなくて、それぞれの個性を認めて許容するという意味へと繋がる。

かつて結成当初に、事務所の近所で咲き誇っていたネモフィラの花畑にて、正論と厳しさを突き付けた怜の言動をグループが成長していく為に必要なモノとして受け入れて、メンバー間にあった見えない壁を壊す切っ掛けになった事。

前述にもある、さくら自身の歌声と彼女が歩む新たな軌跡を共に往く事を受け入れる意味での『許容』という意味があるのだろう。そして、出陣前の円陣で五人がピースした指を寄せて星型を作るのは、単に輝く星を目指す意味もありつつ、星に形が似ているネモフィラの花という意味もあるのかもしれない。だから……

 


このネモフィラの花は、サニーピースにとっては絆の象徴と称すべき花でもある。

 

 

 さくら、怜、遙子、千紗、雫が選んだアイドルの軌跡が間違いではなかった事を証明する為に。ぶつかりながらも試す事=(アイドルとして)生きる事を諦めなかった刻に未来への必然としての意味を持たせる為に『NEXT VENUSグランプリ』優勝を勝ち取ると誓う。

 

 私は、私たちの歌でサニーピースの歌で頂点を目指します。

 

 

 胸の鼓動の高鳴りではなく、麻奈の幻影を超えて、その先へたどり着いた今の刻の川咲さくらの『答え』。この台詞から、彼女の成長の全てが詰め込まれている様に思える。

全ての縁と時間軸に意味があった。本当の意味での始まりと決戦の楽曲『EVERYDAY! SUNNYDAY!』にも通じる世界観。



 Everyday いつもいつまでも Sunnyday 一緒に歌おう


 今が最高のハーモニー


 ―サニーピース 『EVERYDAY! SUNNYDAY!』より引用

 


 楽曲や衣裳に込めたメッセージと、物語においてのさくらの進化は無関係なモノではないと思っている。

 

 

 

 
 と、いう事で、キャラクター独自考察第2回目・川咲さくら編でした。
正直な所、考察とは名ばかりな妄言塗れとなってしまったので、異論・反論がある事だと思います。

何度もこの場で言っておりますが、コレが正解などと言うおこがましい事は言えません。
その辺りは、コメントやTwitter等で当方にぶつけてもらえたらと思います。

 

最後まで読んで下さりありがとうございました。
 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #1 長瀬琴乃編

 需要があるかどうかはさておき……(まあ、無いだろうwww)

今回から、『IDOLY PRIDE』キャラクターの独自考察記事を書き殴っていこうと思う。


ちなみに、このキャラクター考察はあくまでもアニメ版での物語に準拠したモノになっており、自分の主観と偏見混じりで書いていきますので、読まれた人それぞれのキャラクター観とは大いに異なる可能性があり、当然ながら書いたモノが正解だと言うつもりはありません。


 という事で、記念すべき第一回目はこの人物。
アニメ版において、ストーリーの主軸を担った長瀬琴乃についての考察を書き殴っていく。



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 長瀬麻奈の幻影という”因縁”



 元々、アイドルに興味があったワケではなく、むしろ、大好きな姉との刻を割かれてしまった事で琴乃の中でアイドルは最も忌み嫌う存在になってしまった。

そんな彼女がアイドルになると言うのは、遺された麻奈の日記に綴られていた、忙しくて関わる刻が減っても琴乃への変わらない想いと愛情があった事を知ったのが大きな要因だったのではないでしょうか。

姉の果たせなかった夢を自分が叶える事、そして、酷い言葉を麻奈に対して放った事への贖罪もあったのでしょう。勿論、姉と比較される事も織り込み済み。その覚悟や背負うモノは決して小さいモノではない。ある記事でも書いたが、琴乃が昔は短かった髪を伸ばして少しでも麻奈の面影に近づけているのも、彼女なりの覚悟の証明なのかもしれない。

どういうアイドルを目指すかではなく、彼女は長瀬麻奈の替わりに自分がならなければいけないと思い込んでいた様に思える。だからこそ、あらゆる手段を尽くしてもアイドルになるという執念染みた言が彼女の口から放たれたのでしょう。


 ただ、その覚悟の重さは、琴乃を縛る『呪縛』になっていた。


一人の人間でありアイドルでもある長瀬琴乃自身がまだ無価値で小さな存在に過ぎないという現実は、琴乃にとって最大の弱点であり認めたくないモノ。姉の遺志を継ぐ者という強固な鎧でその現実から身を守る。いない者からの自立=姉離れが彼女に与えられた物語のテーマでもあった。

 

 

 

 変わろうとする想いと誓い

 

 良く言えば、クールで凛としたストイックな佇まい。悪く言ってしまうと、不器用でクソ面倒くさい…というのが、自分の中における琴乃のインプレッション。物語の序盤はどちらかというと扱いづらいクソ面倒な部分が強く出ていた様に思う。

彼女は、他人や状況のせいにしたり、決断や厄介事から逃避する傾向が強く、他者との関わり合いが上手い方ではない。その辺りを、牧野や親友の伊吹渚は指摘して直せと忠告するが加えて頑固な性質と彼女の境遇もありつつ、琴乃はちょっと迂闊には触れづらい浮いた存在になってしまっていた。


しかし、その微妙な関係性は意外な所から石が投げられて壊され、新たな関係が築かれる。


 石を投げた(あくまでも例えです)のは、星見プロにカチコミ立ち寄ったボスユニット・『LizNoir』の神崎莉央と井川葵。三枝さんは彼女達に星見プロの新人たちにレッスンをつけてくれと頼み、圧倒的な存在感と実力を見せつけ、琴乃たちは徹底的にきっちりと打ちのめされた。

琴乃は、『LizNoir』に勝つためにどうしたら良いのか?と牧野に問う。
けど、彼はその答えは既に伝えてあると言う。その答えとして、琴乃は兵藤雫が撮っていたレッスン動画を皆で観ながら反省会を開く事を提案した。今まで決断する事や積極的に人との関わりを避けて来た琴乃が変わろうとする為に一歩踏み出す勇気を出したのではないでしょうか。


 そして、変わると言えば、琴乃はグループ『月のテンペスト』のリーダーという立場に就きました。奔放な芽衣やすずに手を焼きつつ(5話でさくらに愚痴ってたが)も目標に向かって直向きにアイドルとしての軌跡を行く。

さくらとの関係が少々ギクシャクし、なおかつ歌う理由も見失いかけた頃、琴乃を支えてくれたのがメンバー達でもあった。


 未だに麻奈の幻影に囚われていた琴乃の心をほぐしたのは、渚、沙季、すず、芽衣が、これまで一緒に過ごして来た刻で、長瀬麻奈の妹で遺志を継ぐ者という存在ではなく、長瀬琴乃という一人の人間を認めてくれたという信頼。麻奈の遺志を継いで歌う事が、琴乃がアイドルとして生きる為の指針。だが、その道を見失いかけてしまった……


でも、今の琴乃は独りじゃない。共に道を照らし傍らを駆ける仲間がいる。


渚、沙季、すず、芽衣の信頼に応えたい。『月のテンペスト』でグランプリに優勝する。それは、『月のテンペスト』にしか描けない物語であり彼女達だけの夢。

そして、その夢は、長瀬麻奈の替わりでは叶える事は出来ない。長瀬琴乃でなければならない。

姉の様に歌えないのなら、アイドルとして存在する価値は無いと思っていた琴乃の考えをメンバーは真っ向から否定し、『月のテンペスト』のリーダーであり、一人のアイドルでもある長瀬琴乃の存在を肯定する。それは、長瀬琴乃にしか出せない唯一無二の輝きがあるから。


彼女達の肯定によって、琴乃は麻奈の幻影の先を見る事が出来て、一つの答に辿り着くのです。

 

 私はもう、お姉ちゃんの後を追いかけない。


 お姉ちゃんの代わりにステージに立ちたいとも思わない


 私は、お姉ちゃんと同じ様に、もっともっとアイドルの事を好きになって


 もっともっとたくさんの人に楽しんでもらう。


 自分がなりたいアイドルを自分で見つけて自分で歩いていく。

 

 

 不器用で真っ向勝負しか出来ない琴乃が、突き付けられた現実と必死に向き合い、諦めずに抗い続けたからこそその答えを導き出せた。

麻奈の替わりではなく、長瀬琴乃として輝く事を目指すと。残念ながら、琴乃から麻奈の魂を認識する事は出来ない。故に、麻奈の魂に対して伝える必要は無いのかもしれない。それでも、琴乃自身の決着と自立の為として麻奈の魂へ誓ったのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 『姉』ではない一人の『アイドル』として知り、踏み込んで触れる事。


 『姉』としての長瀬麻奈は大好きだが、『アイドル』としての長瀬麻奈は大嫌いな琴乃。
素直にアイドルとしての麻奈を応援するというかは、いろいろな思惑を持って近寄って来る人達の応対に本気でウンザリしている愚痴を麻奈に洩らしていた。1話で麻奈が学校で卒業ライブをしていた所を観ていた琴乃の無関心で冷淡な表情は、アイドルである長瀬麻奈は嫌いである事の証明の様に感じられたし、11話で神崎莉央と対話した際、妹なのに麻奈がどういうアイドルだったかという事をよく知らなかったのか?という莉央の物言いがその証明になってしまっていた。

それ故に、身内がアイドルであったがアイドル自体に興味を抱かず、むしろ忌み嫌う様なスタンスであったから当然姉のアイドル活動にも全く興味も抱かなかった。前述でも触れているが、その思考は麻奈の突然の死と遺した日記に記された想いを知って変化していった。


 話はちょいと遡り……本編の前日譚にあたるコミック作品『IDOLY PRIDE Beginning of Lodestar』に少し触れておかなくてはならない。このコミック作品では、Beginning(始まり)とある様に、1話で断片的にしか描かれなかった麻奈のアイドル活動時代を重点にして描かれている。

瞬く間にスター街道を駆けあがった様に見える麻奈だったが、決して全部が順風満帆ではなかった。ライブ会場で事故(照明が落下したが牧野が庇った)に遭いかけたり、激務による過労が原因で病院に担ぎ込まれたりと……身内である琴乃からしたら心配で気が気でなかった。


麻奈の台詞に『命を懸けて』というのがあったが、まさしく命懸けでアイドルに懸けていた。


麻奈は気遣う琴乃の想いを知りながらもアイドルとしてステージに立ち続ける事を辞めようとはしなかった。琴乃からしたら、どうしてそこまでアイドルに魂を懸けられ、身を削れる程に価値があって打ち込められるのかは、その当時やアイドルの軌跡を駆けだした頃の琴乃には到底理解出来る事ではなかったし、認めたくはなかったのだろう。

アイドルを忌み嫌ったのは、姉と一緒にいられる刻を奪われただけじゃなく、いずれは最悪の事態(麻奈の死)に遭ってしまうのではないかという恐怖もあったのだと。(結果的に最悪の事態は起こってしまったワケだが……)


 すずに、アイドル(麻奈)の資料を見せて欲しいと頼んだのは、アイドルが放つ輝きがもっと知りたいというモノでもあったが、それ以上にアイドルのパフォーマンスの質の高さを知る事が目的だったのではないだろうか。意志を受け継いで志を高く持ち、徹底して歌やダンスの質を磨き上げれば、きっと麻奈の様なアイドルになれると信じて疑わなかった。

しかし、ただ単純にパフォーマンスの質を鍛えて向上させただけではアイドルとして成立出来ないという事も痛感させられた。でも、その痛みを知って本当にアイドルとして必要な資質に琴乃は気付かされた……というよりは向き合う覚悟が芽生えたのだ。そして、アイドル・長瀬麻奈の生き様を知るべく為に踏み込む覚悟も。


 そして琴乃は、自分と同じく麻奈の幻影を追う者である『LizNoir』の神崎莉央に、アイドルとしての長瀬麻奈がどんなアイドルだったかを聞く。麻奈の劣化コピーでしかないと酷評した相手にコンタクトを取って話を聞くなんて事は、以前の琴乃だったら絶対にしなかったはず。

ただ、莉央からの酷評に琴乃も真っ向からの否定や噛みつく様な反論をしなかった事を見ると、琴乃も自覚はあっただろうし、彼女に琴乃自身と重なる麻奈の幻影を追う者として通じ合える部分があってシンパシーを抱いた。だからこそ莉央に麻奈の事を聞かなきゃならないと感じて動いた。

莉央の方も、おそらく琴乃と同じ感覚を抱いていた。だからこそ琴乃に、アイドル・長瀬麻奈がどういう存在だったのかを話す気になったのだろう。

 

 

 悔しいけど、彼女(麻奈)の歌を聴いて心が揺さぶられたの。


 見てると元気になれるステージ。気持ちが明るくなって笑顔になっていた。


 ずっと見ていたい。いつの間にかこの人の事が好きなんだと思える…そんなステージだった。

 

 

 莉央にとっても、単なるライバルの枠には収まりきらない存在で理想のアイドル像でもあった麻奈。そして、その存在を超えようと闘い続けて誰よりも拘り続けている。麻奈が亡くなってもそれは変わらないしその想いは強いモノなのだ。莉央の答えは琴乃の想像通りで、おぼろげだった本当の答えに辿り着けた瞬間でもあった。

そして、グランプリのセミファイナルにて『LizNoir』との決戦に臨んだ『月のテンペスト』は未披露の楽曲『The One and Only』で勝負を挑む。この楽曲は自分らしく自分の道を切り拓いていく意思が込められているという。で、完全な妄想の域だが作詞はメンバーがしたと自分は思い込んでいる。



 誰かの真似じゃなく 自分の場所探せ


 つまずいても 立ち止まっても


 『追いかける』じゃなくて自分の道歩め

 

 ―月のテンペスト 『The One and Only』より引用



 前述の通り、仮の話(妄想)としてこの楽曲が月のテンペストのメンバーによる作詞だとするならば、この詞を書いたのは琴乃ではないだろうかと思っておる。

麻奈の遺志を受け継ぐ者として長瀬麻奈になろうと……しかし、それは間違いというつまずきであった。でも、諦めないでもがき、人との出逢いや話に耳を傾けて聞いて学んで悩んで考え抜いて答えを導き出した。言わばコレは、アイドル・長瀬琴乃としての生き様を詞に込めたと言っても過言ではない。


 踏み込まなければ触れる事は出来ない。知らなきゃならない事から向き合わないのは確かに簡単。だが、それを知らなければ掴めない事もある。琴乃が麻奈の幻影から自立する為に最も必要だったのは、麻奈が生命懸けてまでアイドルに夢中になった刻と理由を痛みを負いながら知る事。それも琴乃の自立に必要なファクターだった様に思えてならない。 

 

 

 

 

 

 刻と境界を超えて繋がる絆

 

 アニメ版の物語で欠く事が出来ないのが、麻奈が遺した楽曲『song for you』の存在。
琴乃は、この楽曲を姉の様に歌う事で、麻奈が果たす事の出来なかった夢を叶える事だと信じて邁進してきた。


けれども、いくら頑張っても麻奈の様に謳う事は出来なかった。身が切り裂かれる様な思いで姉の遺した楽曲を、琴乃は姉の様に歌うことが出来る川咲さくらへと託し、彼女は二度とこの楽曲は歌わない決断をしたと思います。


でも、琴乃はこの楽曲を謳った。そう思えた理由は、前述でも触れた様に麻奈の幻影への決着と自立の意味が琴乃にあったからだと思えるのです。

彼女がこの楽曲を歌いきって成立させる事で、完全な決着と姉に依存してきた琴乃の自立の意味を持たせられて、ある意味で琴乃は呪縛から解き放たれ救われる事にもなるし、麻奈が歌う事が出来なかったこの楽曲をステージで間接的に琴乃が歌う事が叶った事で、麻奈も救われた。


 麻奈の声は琴乃には聞こえないが、『まだまだ道は遠い』という激励と麻奈が果たせなかったトップアイドルになる夢を託した意味合いの言葉に、何か吹っ切れたような微笑みで琴乃は応えた。

それは、最期の刻で途切れかけていた、姉妹の誰にも割り込めない絆を再び繋ぎ止める事が叶う事を意味する。

姉への『依存』と『呪縛』から本当の意味で解き放たれた事で、一人の自立を果たしたアイドル・長瀬琴乃としての輝きを掴み取った事実を実感できるのだと思います。

 

 

 

 …と、いう事で、キャラクター独自考察・長瀬琴乃編でした。

取りあえず、こんな感じで各キャラクターに関連する事柄に触れながら、いろいろな考えを巡らし書き殴っていこうかと思っております。

乱筆乱文で読みづらいでしょうが…これからも読んで下さると幸いであります。

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEを斯く語りたいおっさん。【物語編…のほんの一部】

 どうも。今回もまた、『IDOLY PRIDE』に関する記事。

 

 惹かれた経緯、楽曲の事、特定の楽曲への独自考察と書き殴ってきまして、今回はアニメにて紡がれた物語についての独自考察を書き殴っていこうと思う。


当Blogの独自考察の類は、著者の妄想&暴論によって書き殴ったモノになっております。
当然ながら、これから書くモノに関して『コレはこういう結論で正解である』などと言うつもりは一切ありません。

読まれていって『コイツ、アホな妄想してやがるwww』ぐらいのお手軽なノリで捉えてもらえるとありがたい限りであります。

 

 

 

 青春を懸けた10人の成長の軌跡

 

 

 この部分が描かれないのは話にならんし、プロモーションムービー(第一弾)でいろいろ語られた事が嘘になってしまう。あそこで語ったモノは、この作品で描きたい事でもあり、アイデンティティでもあるからだと思っている。

その展開は奇を衒ったモノではなく、オーソドックスかつシンプル。
志望動機や将来どういうアイドルになりたいかもバラバラな子たちが集まっていって、グループを組み、目標達成(NEXT VENUSグランプリ優勝)を目指す。

アイドルとして仕事を通じて成長を描くと言うよりは、一つの成果を勝ち取るという部活・青春もの寄りな描写になっていた。こういった大会があるという設定ならば、部活もののテイストに振り切って描いた方がとっつき易いだろうし、ただ単純に煌びやかなモノだけにフューチャーせず清濁併せ吞む描写もあり、賛否両論あるだろうがラストでのあの結果の演出は、最終的には10人の努力が報われ勝利する姿をきっちりと描いた事は意義があっただろうし、アニメ後のストーリーを実装されているゲームへの橋渡しも成されている。


(ゲームの方は未プレイだが……)


 12話という短い尺で、これらの要素を余す事なく描き切るというのは無謀ではあったのだけれど、全話視聴して率直に感じたのは、短い中でも強烈なインプレッションを残した満足度の高い作品だったというモノで自分は高評価を抱いている。

 

 

 

 姉妹の光と影と絆。

 

 自分の他に、『IDOLY PRIDE』の事を考察されている方のBlog等でも触れられているが、この作品は姉妹の絆についても重要な要の一つとしてある。
姉妹としての設定があるのは、長瀬麻奈と琴乃、白石沙季と千紗の二組。この二組の姉妹に共通しているのは、姉妹の仲は良好で共にアイドルの軌跡を駆けている。


ただ、長瀬姉妹と白石姉妹が辿った軌跡は真逆。


 麻奈がアイドルになる前は、姉妹仲は良好そのもので琴乃は『お姉ちゃん大好き!』的な雰囲気が溢れ出ていた様に見えたが、麻奈がアイドルとなって忙しくなってからは疎通になってしまい、琴乃はアイドルを疎ましく忌み嫌う存在として捉えてしまった……

 白石姉妹の方も姉妹の仲は良好で、アイドルを志した沙季が千紗を誘ってオーディションに応募して(千紗は落選したが最終的には合格している)共に星見プロのアイドルになる。
千紗の方も、ただ姉に促されただけではなく、今の自分を変えたいと願い応募している。


 前述の通り、真逆な要素でこの二組の姉妹は存在しているが、共通している要素もある。

それは、姉離れ・妹離れという要素が二組共に乗り越えるべきテーマだったと思う。


 スペシャルでイレギュラーな存在に昇華した麻奈の替わりを目指してしまった琴乃。
麻奈はそんな妹の姿を見て、届かないが声を掛けたかったはず。でも、それはアイドルが好きになって欲しいと言う事と、形はどうあれ自立しようとしている琴乃を邪魔したくないという想いから彼女に関わろうとはしなかった。琴乃も不器用だが、麻奈も不器用なのだろう。

麻奈が幽霊となっている理由はいくつかあって、その一つに琴乃へのあらゆる想いがあるのは間違いない要素だと思っている。


 星見プロのアイドルとして共に頑張る白石姉妹にも、姉・妹離れする刻が訪れる。
なんやかんやあって、総勢10人となりその10人を二つのグループ(月のテンペストとサニーピース)に分ける事になり、沙季は月のテンペスト。千紗はサニーピースへと別れた。

ただし、全12話という限られた尺の中で一人のキャラクターに割ける時間は多くはない。長瀬姉妹の事は欠く事の出来ない要素だし、その中で白石姉妹の事をどこまで描けるか?

その問いの回答が、サニーピース全体の成長の一端として千紗の成長を描く事だったと思っています。一方で、沙季の方は割りを食ってしまった印象はありましたが……

 千紗の持つ問題は、前述でも触れた姉への依存と変わろうとする目標と現実とのギャップ。
変わりたいという想いは勿論あっただろうが、根本としてあったのはやっぱり姉と一緒にいたいというモノだった。故に、千紗は受かった時点で目的をほぼ果たしてしまったと捉えています。

そこで、千紗の殻を撃ち壊す切っ掛けとなったのが、外部からの刺激である一ノ瀬怜の存在だった。怜の頑張れる魂のエネルギーに触れて、姉ではない存在から変わろうとする想いを叶える軌跡へと本当の意味でのスタートを切った。


そして、7話で描かれた姉妹それぞれの違った面が見れたのも面白い。


 沙季は、高い志を持って頑張るのは良い事だが、アイドルの世界とVENUSプログラムがもたらす現実の過酷さに向き合う事の不安を漏らした。10人のアイドルの中で年長者の部類に入る沙季が、身内の千紗の前という事もあっただろうがこういった弱音を吐露するのは珍しい。だからこそ、沙季の言葉の後の千紗の言葉がより印象深くて彼女の成長の証が見られたシーンでもあったと思う。


 

 私も同じ…怖いけど頑張る。

 
 お姉ちゃんと同じ舞台に立ちたいから。立たないと後悔するから。

 

 

 姉と離れ離れになり、最後にはNEXT VENUSグランプリの決勝のステージに姉妹揃って立つ事が叶った。結果を待つ間姉妹の視線が交わり姉に微笑みを向けた千紗。
彼女の目はもう気弱で姉に依存していた頃の千紗ではなかった。

描写の割合では要の一つとなっている麻奈と琴乃が多いのだけれど、沙季と千紗の絆の物語も立派な成長譚であり楽しめた要素と思っている。

 

 

 

 

 

 死人(長瀬麻奈)に魂を縛られた者達の闘い。

 

 

 突如現れた、長瀬麻奈というイレギュラーでスペシャルなアイドル。そして、彼女が不慮の事故でこの世を去るという悲劇によって、彼女はレジェンドと称された存在にまで昇華させる事になる。『IDOLY PRIDE』に登場する数多のアイドル達は目の前に立ち塞がるアイドル達と鎬を削って競う事と、目の前には居ない長瀬麻奈という幻影(亡霊でもいい)とも競う。


該当するキャラクターを挙げ出すとキリ無いので、本稿では琴乃とさくらについて書いていく。


 それは、麻奈と同じ時代に生き、同じアイドルへの軌跡に進んだ者達に課せられた宿命でもあった。特に、実の妹である琴乃と麻奈の心臓を持つ川咲さくらは麻奈の幻影との闘いは避けられない要素であり、麻奈の存在を越えて自立する事が作品の大きな要になっていたと思う。後半(8話~最終話)はその辺りの葛藤やらをテーマに絡めて物語のインプレッションが重厚になって、さくらの心臓に関わる謎もこの後半にて明らかにされていく。序盤で散りばめられた要素を回収されていく過程がドラマチックで、クライマックスの感動へと繋がっていく。


 そこで、大きな役割を果たしたのが長瀬麻奈の幻の楽曲『song for you』だった。
この楽曲をただ単純にグランプリを勝つためだけの手段にせず、さくらが麻奈からの自立と当たり前に今の刻を生きている事への感謝を謳ったからこそ、物語が盛り上がったし楽曲自体もより深いエモーショナルを作り出して感情が揺さぶられた。


 琴乃の場合はさくらより複雑なモノだった。姉の様なアイドルになる事が目標であり、完全な妄想だが、琴乃が昔短かった髪を伸ばしたのは姿から麻奈の様になろうという意志表示の表れではと勝手に思っている。姉と同じ軌跡を駆ける事を選んだが為に、更には血の繋がりという縁もあり、琴乃に浴びせられる重圧は誰も経験する事のできない特別なモノ。
誰とも苦しみを共有出来ない、それを自分の力のみで乗り越えなければならないどうしようもなく高く険しい壁……けど、琴乃は必死にその壁を壊そうと努力を重ねて彼女は答えに辿り着く。


 最終話、優勝を勝ち取りウイニングステージで琴乃は姉が遺した『song for you』を謳った。
本来なら月のテンペスト全員で楽曲を歌うのが当然な事だろう。だからこの選曲は琴乃が我儘を通したと思っている。

琴乃が麻奈の立つ事が叶わなかったステージであの楽曲を謳う意義は大きいモノ。
さくらが謳ったバージョンの様に、彼女もありったけの感謝と深愛の情を込めて懸命に謳った。姉に残された刻は残り僅かだというのは聞かされていないが、おそらくは感じていたのだろう。琴乃がこの楽曲を謳っている頃、麻奈は牧野に想いを告げて天に召される過程も同時に描写しているのもまた見事に心揺さぶられるモノだった。

 

 

 

 

 

 同点優勝という人の手で付けた決着。

 

 

 NEXT VENUSグランプリの決勝は、琴乃率いる『月のテンペスト』とさくら率いる『サニーピース』が競い合う事になり、その結果は天文学的確率でしか発生しないドロー(引き分け)と判定され、大会の規定により同時優勝となった。

本作で描かれるライブバトルは、VENUSプログラムによるAIがパフォーマンスの質、観客の盛り上がりや数多の要素をリアルタイムで計算して判定を導き出す。その計算は厳密であり一切の情が微塵も入る隙間がない情け無用なジャッジを下す。だからこそ、同点による引き分けが起こる確率は天文学的確率=有り得ない事。


 ただし、人間は軽々と完璧とされる揺るぎようの無い事態を超えることがある。
窮地や限界を超えた時に発揮される予測不能な人間の底力は、どんなに複雑で緻密な計算でもその可能性を明確に出来ない。麻奈に対して激しいライバル意識を滾らせる神崎莉央が、麻奈のパフォーマンスを見て感情や理屈抜きに魅了されたというのも明確な数値とかでは示せない奇跡の一端ではないだろうか。

 散々触れてきたが、アニメ版のテーマの要となってるのは、長瀬麻奈というスペシャルでイレギュラーな存在の幻影を越えてその先の軌跡を拓く事だと自分は思っている。
琴乃とさくらが、麻奈の幻影を越えたアイドルとしての自立もあるけれど、星見プロのアイドル達もまた、麻奈の幻影を越えて自立しなければならなかった。故に、どちらかが負けてしまう形の決着を描くワケにはいかなかったと思えてならない。


 この同時優勝について、言及されているモノをいろいろと見聞したら賛否両論あった。
ちなみに、自分はこの結果の描写は肯定的に捉えている。確かに、都合の良すぎる結果だし、あからさまに過ぎてしらけたというインプレッションを抱いたという声は理解できる。勿論、否定派の人にいちいち噛みつくつもりはない。

ただ『NEXT VENUSグランプリ』という大会は、真のトップアイドルを決めるモノではない。
新人・若手アイドルによる所謂新人戦という限られたカテゴリーの中での大会であるという事を鑑みると、この時点と12話という限られた尺できっちりした決着を描くのはなんか違うのだろうと思えたし、納得出来る落しどころだと感じた。

 

 

 

 

 

 始まりと終わりが集う場所での奇跡。

 

 

 本来交わる事の無い光と影。1話で牧野は麻奈との関係性を麻奈が光で、自身を影と評している。アイドルとマネージャーの立場に、生者と死者(幽霊)。一緒にいる刻はあれど二人の間には越える事が出来ない境界線が存在していた。どれだけ深くて偽りのない真愛の情をもってしても、一線を越える事は叶わない自然の理。


 でも、その理が綻んだ瞬間があった。現世で果たせなかった夢と伝えられなかった想いは未練となって、麻奈の霊魂が現世に留まり、二人にとっての始まりの場である星見高校の教室で邂逅を果たせた。牧野があの場に赴いたのは麻奈に導かれたのかもしれない。

最期の刻、麻奈が消えゆく前に牧野がまたあの場所へと駆け付けたのも、そこでなら麻奈に逢えるという根拠のない自信と確信があったのだろう。何も言わせないままで逝かせるかと。


そして、二人は想いを伝え合い、触れられぬと分かりながらキスを交わす。


生きる者と霊魂が口づけを交わす事は意味の無い事ではある。だが、これまであらゆる理で交わらなかった二人が永遠の別れの間際に願った感謝と真愛と別れに必要な儀式だった様に思える。だからこそ、この儀式がエモーショナルな奇跡としてクライマックスを彩ったのではないだろうか。

 

 俺は…マネージャーだ。だから…だからずっと……

 

 

 どんな物語でも終わりは必ず訪れる。麻奈が成仏した事で一つの物語が終わり、新しい時代が始まる。牧野は麻奈の想いと現実をきっちりと受け入れたからこそ一線を越えない覚悟と矜持を上記の言葉に込めた……彼にとっても、麻奈の幻影を越えてその先の軌跡が拓けたのではと思っている。

 

 


 

 

 終わりに。

 

 

 と、グダグダといろいろ書き殴りましたがこれはほんの一端。まだまだ書き切れていないものがまだ自分の中に渦巻いております。それほどまでに、『IDOLY PRIDE』の物語が自分に与えたインプレッションが大きく、キャパシティオーバーに陥っているのが現状です。

それをどうにかして言語化して文章に残したいと思い、こうやってBlogにいろいろ書き殴っていますが、読んで下さる人には雑な乱文で毎回申し訳ありません。

前の記事でも言いましたが、自分は『IDOLY PRIDE』を知り始めてまだ日が浅いにわか勢というヤツです。アニメをまた観直したり、楽曲聴いたり、配信されているモノを観ていろいろ知ろうとしている最中です。


 自分に出来得る限りで、魂込めて書いたつもりです。
この所感がどなたかの胸に届いてくれる事と、僅かでも興味を持ってくれたらという願いを込めて筆を置かせていただきます。

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEの『song fou you』を斯く語る。

 『song for you』


訳すと、あなたのための歌という意味になる。


そして、アイドルを題材にした作品『IDOLY PRIDE』で登場する楽曲のタイトルでもある。作中にて重要な役割を持つ楽曲でもあり、9話のEDテーマ楽曲や最終話の挿入歌にもなっている。

 

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 作中で『song for you』の存在が初めて語られたのは8話。(だったはず…)
その存在を明かしたのは妹の琴乃の口からだった。麻奈がネクストVENUSグランプリの決勝で歌うはずだった幻の楽曲であり、麻奈の日記に(作中では)作詞をしたのは麻奈本人である事が判明する。

 

 

 

たった一度聴いただけだけど 今もハッキリ憶えてる

その歌は とても素敵で聴いてると胸があったかくなって……

 

 

 決勝前夜に麻奈は、決勝を観に来る気が無い琴乃の部屋の前で歌って聴かせた。
どうしても琴乃にこの歌を聴いて欲しかったからだ。
だが、琴乃は姉の真の想いを知りながらもこの歌を麻奈の様に歌えないと絶望してしまった。

そして、琴乃は姉が最期に遺した幻の楽曲を、麻奈の歌声を持つ川咲さくらに託す。
姉の心臓=魂と歌声を共有するさくらにならこの楽曲に血を流して謳えると。


 麻奈の持ち歌である『First Step』や『星の海の記憶』の明朗な曲調と雰囲気とはまるで違っていてどこか物哀しい重さがある。だが、それだけではなく鼓動を刻むかのように音は穏やかに進み、感情を振り絞って爆ぜさせるような勇ましい力強さも感じさせるのは、一人の人間の死と生命を繋ぎとめた者を描いている作品だからより強く鮮明にイメージ出来るからなのだろう。

それは、詞を紡ぐ言の葉も同様で、刻の中に留めていた思いの丈を解放するかのように言の葉を零さない様に滑らかな清廉さは生き様を謳うかのようでもあったのだ。

 

 

 

 

 

 川咲さくらの『song for you』~生命と当たり前という奇跡への感謝の謳

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 牧野と芽衣を介し麻奈と対話して、麻奈から『私の歌なんか歌わなくていいから自分にしか歌えない歌を歌え』と言われてもさくらは一歩も引かなかった。それは彼女の心臓の鼓動があの楽曲を謳えと訴えていたから。さくらにとってはその理由で充分だった。

さくらにも本当は誰が歌えば良いかなんて理解している。それでも歌う覚悟を決意したのは、鼓動の導きや長瀬麻奈の再来としての生き様を示すのではなく、今の刻を生きる川咲さくらの生き様を証明する為……言い換えればアイドルの自我に目覚めた自立という意味の誓約なのだろう。この楽曲は自立や決別がテーマの一つになっているのではと思えて来る。
だからこそ、さくらはこの楽曲を歌い終わったら麻奈の歌声で謳う事を辞める覚悟を決めた。



 わたしの わたしの 一番近くで

 いつでも いつでも 見ていてくれたね
 
 あなたと過ごした かけがえない日々に

 贈るよ 『ありがとう』

 あなたに あなたに もらった勇気を

 抱きしめて 願う 明日へ

 誰より 眩しい ヒカリになるから
 
 prideを 胸に sing out


 ―サニーピース 『song for you (サニーピースver.)』より引用

 

 自分の生命を救ってくれて、高鳴る鼓動で様々な道へ導いてくれた麻奈へ感謝を伝えたい。だからこそ歌で感謝を伝える。長瀬麻奈はさくらにとって人生そのものを救ってくれた救世主であり、多大な感謝を麻奈の存在そのものに感じているはずだ。


歌でしか感謝を伝えられないから、受け継いだ麻奈の歌声をもって麻奈の為に謳う。


 そして、感謝を告げているのは麻奈一人にだけじゃない。
詞に『あなた』とあるがこれは特定の誰かを指した言葉ではない。勿論麻奈もその括りの一人ではある。でも、さくらにとっての『あなた』の意味は、共に寄り添い軌跡を駆ける星見プロのみんなとの縁、極限まで言ってしまうと、この瞬間に生きている当たり前の刻までその括りにまで含まれている。それはさくらのかけがえない日々も。

 
 多くの人の縁、刻への感謝の謳でもありながらも、生きる事を諦めなかった川咲さくら自身の燃やし続けた生命に向けて……そして、当たり前の奇跡への感謝の謳でもあると思えてならない。

 

 

 

 長瀬琴乃の『song for you』~誓いと決着の謳

 

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 麻奈曰く、この楽曲を最初に聴かせるのは琴乃が最初の一人目だと。
その翌日に彼女が帰らぬ人になるとは微塵も当時の琴乃は思わなかっただろう。最期に聴いた楽曲と詞に込めた姉の親愛の情を魂に留め、琴乃はどんな想いを抱いてこれまでの刻を生きて来たのか……彼女の魂に楔となって穿っていたのは後悔の念だろう。

それを晴らすのは、忌み嫌っていたアイドルの軌跡へと踏み入れて姉の果たせなかった夢を自らの手で叶え、姉が遺した幻の楽曲を琴乃自身が謳う事が贖罪になると信じた。


だが、現実は甘いモノじゃなかった。


どう頑張っても麻奈の様に謳う事は出来なかった。追い打ちをかける様に麻奈の歌声を継ぐさくらが現れた。自分があの楽曲を歌うよりさくらが歌った方が落し所として最もいいと…


 とは言え、身が切り裂かれるほどに悔しく悲しいモノだろう。
琴乃しか知らなかった楽曲を、歌声が似ているとは言え他人が歌うのは。ただ、麻奈と同じ歌声で聴きたいという想いもあり、琴乃が歌うよりはさくらが歌った方が世間的にも、そして、麻奈の為にも最適だと感じたからさくらにこの楽曲を託した。


 何故、琴乃はこの楽曲を思い描いた様に謳えなかったのか?その答えは姉の替わりとして姉の様なアイドルにならなければならないという呪縛に囚われてしまったからだと。神崎莉央が『貴女は麻奈の劣化コピーでしかない』と琴乃を酷評したのがそれを証明する言葉だった。

おそらくは、琴乃自身も薄々感じていたはずだ。でも、麻奈への想いが深すぎて本来の想いを置き去りにして麻奈の幻影の先を見る事が出来なかった……いや、見ようとしなかった。
それは、長瀬麻奈の妹ではなく、一人のアイドル・長瀬琴乃がまだ何者でもない無価値という現実と向き合うのが怖かったのもあったかもしれない。


 でも、弱さを認めて受け入れて、ただ直向きに努力して支えてくれる仲間の想いに応える事で、琴乃は答えに辿り着いた。

 

 

 

 私はもう、お姉ちゃんの後を追いかけない

 お姉ちゃんの代わりにステージに立ちたいとも思わない

 私は、お姉ちゃんと同じ様に、もっともっとアイドルの事を好きになって

 もっともっとたくさんの人に楽しんでもらう

 自分がなりたいアイドルを自分で見つけて自分で歩いていく。

 

 

 麻奈の幻影の先に広がる琴乃自身が選んだ、彼女が駆けるべき遥か先への軌跡が拓けた。上述はそれを証明する琴乃の誓いだ。そして琴乃は姉が果たせなかった『NEXT VENUSグランプリ』優勝を勝ち取りウイニングステージでこの楽曲を謳う。姉の真似ではなく長瀬琴乃として。

麻奈がまだ現世に留まっている事を知り、願わくば麻奈がステージで琴乃の傍で見守っていると信じて……姉が遺してくれた琴乃への想いが詰まった詞を大事に噛みしめる様に涙を流しながら謳う。贖罪の意味。見守ってくれた事への感謝の意味。一人のアイドルとして真に目指す夢を追う誓いの意味。姉の幻影との決着を付けて自立する意味。

麻奈は成仏の間際に『まだまだ道は遠い』と激励の言を琴乃に贈った。琴乃も麻奈の言葉をきっちり受け止めて吹っ切れた様に微笑みながら力強く頷く。最期の刻で途切れかけていた姉妹の誰にも割り込めない絆を再び繋ぎ止める事が叶った。


 川咲さくらの『song for you』と感謝を謳う意味では同じ。でも、琴乃バージョンでは限定的な範囲ではあるがその意味と重さがまた違う深みと純然さを感じられる。勿論、こちらのバージョンも魂を揺さぶられる衝動を抱いた。

 

 

 

 

 長瀬麻奈の『song for you』~純然たる真愛の謳

 

 


 麻奈が作詞の際に想いを込めた『あなた』とは、彼女を応援してくれるファンへの感謝も当然ある。なおかつ、妹である琴乃への親愛の情もあった。そして、完全な妄想の域だが…想いを寄せていた牧野航平への真愛と恋慕の情が込められていた。多くの人への感謝という意味ではさくらが込めた想いと同じだ。

麻奈が成仏出来なかった理由の一つは、牧野の前に出て来たのも彼に伝えられなかった想いがあったからだろう。友人としての感謝、アイドルとマネージャーとして軌跡を駆けて来た戦友への感謝。そして……牧野への恋慕の情。自分の中では牧野へのあらゆる情がより深く詞に込めた様に思えてしまう。


 牧野くんをね、トップアイドルのマネージャーにしてあげたかったの。


 麻奈が三枝さんにスカウトされて、アイドルになる条件は牧野がマネージャーを務める事だった。彼が傍で支えてくれる事で彼女は勇気が湧き強く輝く事が出来たし、それが彼への感謝と恩返しに繋がると信じて突っ走った。

彼女が綴った詞はいたってストレートで純然だ。だが、琴乃の言にもあった様に、麻奈は本当に意識している相手にはワザとそっけない態度や物言いをする傾向がある。どこか不器用で素直じゃないのは姉妹共通なのかもしれない。


だからこそ、歌の力を得て『ありがとう』と伝えたい。


 それは、牧野だけじゃなくて、琴乃にもそうだし、応援してくれる人達も含まれる。
だからこそ、この楽曲は長瀬麻奈の真愛の情を込めた『ラブソング』として成立している。

 

 

 

 

 

 最後に。

 誰にも訊かれないから勝手に言ってしまうが、自分が『IDOLY PRIDE』を象徴する楽曲は?と訊かれたら真っ先にこの楽曲を挙げる。この楽曲が自分にもたらした衝撃は絶大だったし、おそらくは、『IDOLY PRIDE』という物語を知って、アニメを観た人は誰しもが自分と同様の衝撃的なインプレッションを抱いた事だろう。

曲調や歌詞が一つの楽曲として高い水準にあったから響いたというのも要因だけれど、ストーリーやキャラクターを絡めたバックボーンがきっちりされている事も楽曲の違う表情と魅力を見せてくれる。


だからこそ、『song for you』という楽曲に魂が揺さぶられより響いたのだと思えてならない。

 

 

 

 

 

IDOLY PRIDEを斯く語りたいおっさん。【楽曲編】

 前回、いい年のおっさんが熱に当てられてこんな記事を書き殴った。



akatonbo02.hatenablog.jp

 

惹かれた一番の要因は、前回の記事にも書いたが物語と人物の設定と展開。



そして……物語を彩る数多の魅力的で激熱な楽曲。



自分の勝手な持論で恐縮であるが…アイドルを題材とした作品において楽曲との関わり合いは欠かす事の出来ない重要な要素であると思っておる。言わずもがな、この『IDOLY PRIDE』というコンテンツにも同じモノを感じられたのですよ。


簡潔ながら、今回の記事はいくつかの楽曲の魅力を紹介していこうと思います。


怪しさ大爆発な深夜の通販番組やら、健康商品の宣伝CM染みたモノになると思うが……もうホントに素晴らしい楽曲揃いなのよ。

そして、この怪文書を最後まで…いや、さわりだけでも読んで下さったら、『IDOLY PRIDE』の公式チャンネル(一部の楽曲はフル尺で聴ける)で是非とも聴いていただきたいし、出来たらCDや音源を購入してもらえたら幸いであります。

 

 

 

 

 

 Shine Purity〜輝きの純度〜/星見プロダクション

 

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 違っていたら申し訳ないが…おそらく『IDOLY PRIDE』の原初となる楽曲。
作中で歌われる事はなかったが、星見プロからデビューした10人のアイドルの最初の持ち曲となる。

曲調や歌詞は、アイドルものの王道的な明るくキラキラというモノではなく、それぞれが胸に抱く不安と葛藤、そして、それに抗い変わろうとする想いと覚悟を歌った『闘いの謳』。

 

お洒落さ、クールさ、格好良さというインプレッションより、生々しく、垢ぬけていない荒削りな叩き上げの魂というインプレッションが勝っている。それは新人アイドル(一人除く)である10人のキャラクターと、演じるキャストの半数が当時デビュー間もないというのがあるのだろう。

その垢ぬけない叩き上げの魂こそが、この楽曲を印象深い楽曲へと昇華させる重要な要素だと感じている。洗練されていない未完成な存在だからこそ…形振り構わない一生懸命な歌声がリスナーの魂をダイレクトに殴りかかって来る。


 技術云々じゃない。今の私達の本気の謳を聴け!とばかりに訴え掛けて来る。そんな楽曲。

 

 

 

 

 

 月下儚美/月のテンペスト

 

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 『げっかはかなび』と読むらしい。この楽曲は、長瀬琴乃をリーダとし、伊吹渚・白石沙季・成宮すず・早坂芽衣の五人によるグループ『月のテンペスト』による楽曲。アニメの第6話で描かれたデビューライブで歌われた楽曲でもある。

夜を想像した衣装とクールで切れのあるダンスが特徴的。月が持つイメージで一般的に連想される、凛としたクールな感じと儚さをモチーフにした楽曲がこのグループと持ち歌の印象。そして、植物の月下美人が持つ一晩しか咲かないという儚くも美しいイメージを詞に織り込んでいるのが印象的な楽曲だったりする。


この楽曲で驚かされるのは、成宮すずと早坂芽衣が物語で魅せる顔との違い。


 作中ではコメディリリーフ的役割のすずと、天真爛漫なムードメーカーな芽衣。この両者の歌声が特にクールで格好いい方向へと振り切って所謂ギャップの差で魅せ付ける。この楽曲はすずと芽衣のソロパートが要と評してもいいと言う程のインパクトがある。

 

 

 

 SUNNY PEACE HARMONY/サニーピース

 

 

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 こちらは、川咲さくらがリーダーで、一ノ瀬怜・佐伯遙子・白石千紗・兵頭雫の五人によるグループ『サニーピース』の楽曲。こちらもアニメの第6話のデビューライブで歌われた。

サニーという言葉から察するに、このグループが持つイメージは『太陽』。
そのイメージに違わない明朗かつポップで、王道的な『The アイドルソング』テイストに仕上がった楽曲。コール&レスポンスが多く盛り込まれている構成になっているので、おそらくライブで披露したら間違いなく盛り上がれる楽曲だと思える。

 初聴のインパクトも強烈だが、聴けば聴くほど楽曲の深みにハマる中毒性の強い楽曲でもある。

 

 

 

 

 

 Aile to Yell/TRINITYAiLE

 

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 星見プロのライバル(ボス)グループの一角『TRINITYAiLE』の楽曲。
グループ名にある『Aile』はフランス語で『翼』。『Yell』は激励や応援の際に発する和製英語

『TRINITYAiLE』による応援ソング・アンセムソングという位置付けになる楽曲で、何の奇も衒わない純然で真っ直ぐな『The アイドルソング』でありつつ、星見プロの楽曲とはまた違うお洒落なインプレッションでハッキリと区別化されているのはボスグループの楽曲ならではといったところだろうか。

 自分達(瑠依たち)を鼓舞して更なる高みへと目指そうという気概を謳ってもいるし、応援するファンに感謝を示し、最高の景色を見せようという気概も感じる想いの相互循環を謳う楽曲だとも感じられる。

 

 

 

 

 

 GIRI-GIRI borderless world/LizNoir

 

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 こちらも星見プロのライバル(ボス)グループの一角である『LizNoir』の楽曲。
『LizNoir』の楽曲全体の特徴は、攻撃的でビートが激しい楽曲揃いというインプレッションである。

この激しく滾る様な熱量を感じさせるのは、この楽曲が神崎莉央の生き様と、彼女の最大のライバルである長瀬麻奈への執着と想いが溢れている。麻奈が亡くなっても莉央の眼前に在るのは彼女の前を駆けている麻奈の背が在るのだろう……と妄想してしまう。

狂気にも似た激情を歌い上げたハードテイストな楽曲は『IDOLY PRIDE』楽曲の中では異彩を放つ。

 

 

 

 

 

 First Step/長瀬麻奈(CV:神田沙也加)

 

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 作中最強のアイドルである長瀬麻奈の楽曲。一言で評するなら…一部の隙もない強い楽曲であると言うしかない。鍵と鍵穴がガッチリと嵌ったとも言える。

速過ぎず、遅すぎないテンポにすっと聴き心地の良いボーカルが絶妙なバランスを醸し出して、桜舞う春風の中にいる様な錯覚を抱き、更に大袈裟な表現してしまうと、現世との境界が曖昧な感覚に陥る……というのは妄想が過ぎるか。

 中毒性とはまた違った、魂が惹き込まれる様な深みを感じる楽曲だったりする。

 

 

 

 

 

 song for you(サニーピースver./琴乃ver.)

 

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 最後に紹介するのは、この『song for you』。
この楽曲を巡る物語がアニメでのストーリーの『要』となると言っても過言ではないと思っている。長瀬麻奈が『NEXT VENUSグランプリ』の決勝戦で歌う予定だった楽曲であり、彼女の死によって幻の楽曲となったいわく付きな楽曲。

こういったいわく付きや未発表になった楽曲にまつわるエピソードも、アイドルアニメでは重要な見せ所だと個人的に思っている。


この楽曲については今、多くは語らない。
 

 気になったという人は、是非ともアニメを観ていただきたい。自分は観た時にこの楽曲を初めて聴いた後に魂が鷲掴みされた感覚に陥りました……

 

 

 

 

 

 と、まあ……駆け足かつ雑な紹介になってしまいましたが、いかがでしたか?
『IDOLY PRIDE』楽曲について、少しなりとも興味を抱いていただけたのなら嬉しく思います。

ここで紹介したのはほんの一部の楽曲で、ここで紹介しきれなかった楽曲も本当に素晴らしく魅力的な楽曲が揃っています。

アニメを観てから楽曲に触れるのも全然アリですし、その逆も然り。で、現在配信されているゲームからでもいいと思います。


この『IDOLY PRIDE』というコンテンツは歴史がまだ浅い。


(1年以上経っておるが…)


でも、そこに望みとまだ伸びる可能性を秘めているコンテンツだと思うのです。
勿論、いい方向に全て行くとは限らないという危うさとハラハラ感も同時に感じている。


そんな『IDOLY PRIDE』というコンテンツが紡ぐ物語に熱をあてられてしまった。
その本気の炎が何処まで遠くを照らし、更なる熱を広げられるのかというのを見てみたいし、色々触れてみて感じたインプレッションを文章として残したいと思わされたのです。


自分の乏しく拙い文章力でどこまで魅力を伝えられるか分かりませんが、チャレンジしていきたいという決意をもって筆を置きたいと思います。