巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEの『song fou you』を斯く語る。

 『song for you』


訳すと、あなたのための歌という意味になる。


そして、アイドルを題材にした作品『IDOLY PRIDE』で登場する楽曲のタイトルでもある。作中にて重要な役割を持つ楽曲でもあり、9話のEDテーマ楽曲や最終話の挿入歌にもなっている。

 

f:id:Akatonbo02:20210920182925j:plain

 


 作中で『song for you』の存在が初めて語られたのは8話。(だったはず…)
その存在を明かしたのは妹の琴乃の口からだった。麻奈がネクストVENUSグランプリの決勝で歌うはずだった幻の楽曲であり、麻奈の日記に(作中では)作詞をしたのは麻奈本人である事が判明する。

 

 

 

たった一度聴いただけだけど 今もハッキリ憶えてる

その歌は とても素敵で聴いてると胸があったかくなって……

 

 

 決勝前夜に麻奈は、決勝を観に来る気が無い琴乃の部屋の前で歌って聴かせた。
どうしても琴乃にこの歌を聴いて欲しかったからだ。
だが、琴乃は姉の真の想いを知りながらもこの歌を麻奈の様に歌えないと絶望してしまった。

そして、琴乃は姉が最期に遺した幻の楽曲を、麻奈の歌声を持つ川咲さくらに託す。
姉の心臓=魂と歌声を共有するさくらにならこの楽曲に血を流して謳えると。


 麻奈の持ち歌である『First Step』や『星の海の記憶』の明朗な曲調と雰囲気とはまるで違っていてどこか物哀しい重さがある。だが、それだけではなく鼓動を刻むかのように音は穏やかに進み、感情を振り絞って爆ぜさせるような勇ましい力強さも感じさせるのは、一人の人間の死と生命を繋ぎとめた者を描いている作品だからより強く鮮明にイメージ出来るからなのだろう。

それは、詞を紡ぐ言の葉も同様で、刻の中に留めていた思いの丈を解放するかのように言の葉を零さない様に滑らかな清廉さは生き様を謳うかのようでもあったのだ。

 

 

 

 

 

 川咲さくらの『song for you』~生命と当たり前という奇跡への感謝の謳

f:id:Akatonbo02:20210920182935j:plain



www.youtube.com

 

 牧野と芽衣を介し麻奈と対話して、麻奈から『私の歌なんか歌わなくていいから自分にしか歌えない歌を歌え』と言われてもさくらは一歩も引かなかった。それは彼女の心臓の鼓動があの楽曲を謳えと訴えていたから。さくらにとってはその理由で充分だった。

さくらにも本当は誰が歌えば良いかなんて理解している。それでも歌う覚悟を決意したのは、鼓動の導きや長瀬麻奈の再来としての生き様を示すのではなく、今の刻を生きる川咲さくらの生き様を証明する為……言い換えればアイドルの自我に目覚めた自立という意味の誓約なのだろう。この楽曲は自立や決別がテーマの一つになっているのではと思えて来る。
だからこそ、さくらはこの楽曲を歌い終わったら麻奈の歌声で謳う事を辞める覚悟を決めた。



 わたしの わたしの 一番近くで

 いつでも いつでも 見ていてくれたね
 
 あなたと過ごした かけがえない日々に

 贈るよ 『ありがとう』

 あなたに あなたに もらった勇気を

 抱きしめて 願う 明日へ

 誰より 眩しい ヒカリになるから
 
 prideを 胸に sing out


 ―サニーピース 『song for you (サニーピースver.)』より引用

 

 自分の生命を救ってくれて、高鳴る鼓動で様々な道へ導いてくれた麻奈へ感謝を伝えたい。だからこそ歌で感謝を伝える。長瀬麻奈はさくらにとって人生そのものを救ってくれた救世主であり、多大な感謝を麻奈の存在そのものに感じているはずだ。


歌でしか感謝を伝えられないから、受け継いだ麻奈の歌声をもって麻奈の為に謳う。


 そして、感謝を告げているのは麻奈一人にだけじゃない。
詞に『あなた』とあるがこれは特定の誰かを指した言葉ではない。勿論麻奈もその括りの一人ではある。でも、さくらにとっての『あなた』の意味は、共に寄り添い軌跡を駆ける星見プロのみんなとの縁、極限まで言ってしまうと、この瞬間に生きている当たり前の刻までその括りにまで含まれている。それはさくらのかけがえない日々も。

 
 多くの人の縁、刻への感謝の謳でもありながらも、生きる事を諦めなかった川咲さくら自身の燃やし続けた生命に向けて……そして、当たり前の奇跡への感謝の謳でもあると思えてならない。

 

 

 

 


 長瀬琴乃の『song for you』~誓いと決着の謳

 

f:id:Akatonbo02:20210920182945j:plain

 

 麻奈曰く、この楽曲を最初に聴かせるのは琴乃が最初の一人目だと。
その翌日に彼女が帰らぬ人になるとは微塵も当時の琴乃は思わなかっただろう。最期に聴いた楽曲と詞に込めた姉の親愛の情を魂に留め、琴乃はどんな想いを抱いてこれまでの刻を生きて来たのか……彼女の魂に楔となって穿っていたのは後悔の念だろう。

それを晴らすのは、忌み嫌っていたアイドルの軌跡へと踏み入れて姉の果たせなかった夢を自らの手で叶え、姉が遺した幻の楽曲を琴乃自身が謳う事が贖罪になると信じた。


だが、現実は甘いモノじゃなかった。


どう頑張っても麻奈の様に謳う事は出来なかった。追い打ちをかける様に麻奈の歌声を継ぐさくらが現れた。自分があの楽曲を歌うよりさくらが歌った方が落し所として最もいいと…


 とは言え、身が切り裂かれるほどに悔しく悲しいモノだろう。
琴乃しか知らなかった楽曲を、歌声が似ているとは言え他人が歌うのは。ただ、麻奈と同じ歌声で聴きたいという想いもあり、琴乃が歌うよりはさくらが歌った方が世間的にも、そして、麻奈の為にも最適だと感じたからさくらにこの楽曲を託した。


 何故、琴乃はこの楽曲を思い描いた様に謳えなかったのか?その答えは姉の替わりとして姉の様なアイドルにならなければならないという呪縛に囚われてしまったからだと。神崎莉央が『貴女は麻奈の劣化コピーでしかない』と琴乃を酷評したのがそれを証明する言葉だった。

おそらくは、琴乃自身も薄々感じていたはずだ。でも、麻奈への想いが深すぎて本来の想いを置き去りにして麻奈の幻影の先を見る事が出来なかった……いや、見ようとしなかった。
それは、長瀬麻奈の妹ではなく、一人のアイドル・長瀬琴乃がまだ何者でもない無価値という現実と向き合うのが怖かったのもあったかもしれない。


 でも、弱さを認めて受け入れて、ただ直向きに努力して支えてくれる仲間の想いに応える事で、琴乃は答えに辿り着いた。

 

 

 

 私はもう、お姉ちゃんの後を追いかけない

 お姉ちゃんの代わりにステージに立ちたいとも思わない

 私は、お姉ちゃんと同じ様に、もっともっとアイドルの事を好きになって

 もっともっとたくさんの人に楽しんでもらう

 自分がなりたいアイドルを自分で見つけて自分で歩いていく。

 

 

 麻奈の幻影の先に広がる琴乃自身が選んだ、彼女が駆けるべき遥か先への軌跡が拓けた。上述はそれを証明する琴乃の誓いだ。そして琴乃は姉が果たせなかった『NEXT VENUSグランプリ』優勝を勝ち取りウイニングステージでこの楽曲を謳う。姉の真似ではなく長瀬琴乃として。

麻奈がまだ現世に留まっている事を知り、願わくば麻奈がステージで琴乃の傍で見守っていると信じて……姉が遺してくれた琴乃への想いが詰まった詞を大事に噛みしめる様に涙を流しながら謳う。贖罪の意味。見守ってくれた事への感謝の意味。一人のアイドルとして真に目指す夢を追う誓いの意味。姉の幻影との決着を付けて自立する意味。

麻奈は成仏の間際に『まだまだ道は遠い』と激励の言を琴乃に贈った。琴乃も麻奈の言葉をきっちり受け止めて吹っ切れた様に微笑みながら力強く頷く。最期の刻で途切れかけていた姉妹の誰にも割り込めない絆を再び繋ぎ止める事が叶った。


 川咲さくらの『song for you』と感謝を謳う意味では同じ。でも、琴乃バージョンでは限定的な範囲ではあるがその意味と重さがまた違う深みと純然さを感じられる。勿論、こちらのバージョンも魂を揺さぶられる衝動を抱いた。

 

 

 

 


 長瀬麻奈の『song for you』~純然たる真愛の謳
 

 


 麻奈が作詞の際に想いを込めた『あなた』とは、彼女を応援してくれるファンへの感謝も当然ある。なおかつ、妹である琴乃への親愛の情もあった。そして、完全な妄想の域だが…想いを寄せていた牧野航平への真愛と恋慕の情が込められていた。多くの人への感謝という意味ではさくらが込めた想いと同じだ。

麻奈が成仏出来なかった理由の一つは、牧野の前に出て来たのも彼に伝えられなかった想いがあったからだろう。友人としての感謝、アイドルとマネージャーとして軌跡を駆けて来た戦友への感謝。そして……牧野への恋慕の情。自分の中では牧野へのあらゆる情がより深く詞に込めた様に思えてしまう。


 牧野くんをね、トップアイドルのマネージャーにしてあげたかったの。


 麻奈が三枝さんにスカウトされて、アイドルになる条件は牧野がマネージャーを務める事だった。彼が傍で支えてくれる事で彼女は勇気が湧き強く輝く事が出来たし、それが彼への感謝と恩返しに繋がると信じて突っ走った。

彼女が綴った詞はいたってストレートで純然だ。だが、琴乃の言にもあった様に、麻奈は本当に意識している相手にはワザとそっけない態度や物言いをする傾向がある。どこか不器用で素直じゃないのは姉妹共通なのかもしれない。


だからこそ、歌の力を得て『ありがとう』と伝えたい。


 それは、牧野だけじゃなくて、琴乃にもそうだし、応援してくれる人達も含まれる。
だからこそ、この楽曲は長瀬麻奈の真愛の情を込めた『ラブソング』として成立している。

 

 

 

 

 

 最後に。
 
 

 誰にも訊かれないから勝手に言ってしまうが、自分が『IDOLY PRIDE』を象徴する楽曲は?と訊かれたら真っ先にこの楽曲を挙げる。この楽曲が自分にもたらした衝撃は絶大だったし、おそらくは、『IDOLY PRIDE』という物語を知って、アニメを観た人は誰しもが自分と同様の衝撃的なインプレッションを抱いた事だろう。

曲調や歌詞が一つの楽曲として高い水準にあったから響いたというのも要因だけれど、ストーリーやキャラクターを絡めたバックボーンがきっちりされている事も楽曲の違う表情と魅力を見せてくれる。


だからこそ、『song for you』という楽曲に魂が揺さぶられより響いたのだと思えてならない。