巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEを斯く語りたいおっさん。

 今更な話ではあるが、自分の中で『IDOLY PRIDE』が熱い。
最近では気温の方も落ち着き過ごしやすくなったが、とにかく熱いのだ。

 

 

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何かのモノに段階を一切無視して突然惹き込まれてしまうというのは、割とありがちな様に勝手ながら思ってしまう。魂が鷲掴みされると言い換えてもいいのかもしれない。

鉄は熱いうちに打てという言葉がある様に、今、自分の中に滾っているモノを何とか言語化して残そうとこうしてPCを起動させ、こうしてキーボードをひたすらに叩いておる。

とはいえ、自分がこの『IDOLY PRIDE』で抱いている現時点でのインプレッションは、ポケットに入っている僅かな小銭程度のモノしかない。物語の世界観の考察やらコンテンツ全体の総評などという深い話がしたいワケでは無い。

本当に浅く安直に、『IDOLY PRIDE』の物語のコレに惹かれたとか、ここが激熱だったみたいな話がただしたいだけなのである。


と言うワケで、『IDOLY PRIDE』の話をしていこうと思う。

 

 

 

 

 おっさんが『IDOLY PRIDE』に惹かれた理由

 

 

 『IDOLY PRIDE』はサイバーエージェントグループとミュージックレイン、ストレートエッジの3社が展開するアイドルを題材としたメディアミックスプロジェクト。
2021年1月にテレビアニメが放送され、同年の6月にスマートフォン向けゲームアプリのサービスが開始された。これ自体に目新しい要素はなく近年ではよくある事だ。


 まず、自分が触れる切っ掛けになったのはアニメの方である。(ゲームの方は触れてない)
と、言ってもきちんと観たのは本放送ではなく、7月ぐらいから月曜の夕刻に再放送しているやつだったりする。

アイドルアニメの作品数は年を重ねていく毎に増えており、物語の描写についてはあらゆる手法が使い尽くされ、新鮮なインプレッションを与える作品を作り出すのは難しくなっていっている。作品の数が増えればそれは避けられない事ではありそれとどう向き合って新しい物語を紡げるのかを見る側は楽しみにしている部分であり求めている。


 アニメで描かれていた物語は、大雑把に言ってしまうと一部の要素を除いては数多あるアイドルアニメとの大きな違いはない。登場するアイドル達の苦悩と成長、共にある楽曲との縁と関わりとエモーション、ライバル達(ボスキャラ)との競い合い、変わりたいという想いと覚悟、アイドル達を陰で支えるOTONA達……etc

これは、あくまでも個人的な偏見かつ主観だが、上記に列挙したモノは、所謂アイドルを題材とした作品の描写においての鉄板・王道的な要素だと思っていて、数多存在するアイドルアニメにはこれらの要素を軸として物語が紡がれて、この『IDOLY PRIDE』という作品も、前述に列挙したいくつかの要素を盛り込んであり奇を衒わない(一部除く)物語が展開されていく。

一部の要素を除いて目新しさや奇を衒わないモノで、飛び抜けてめっちゃ面白い作品だと言われると微妙な所ではある……

だが、自分は『IDOLY PRIDE』を観て率直に感じたインプレッションは、同じアイドルを扱った作品である『Wake Up, Girls!』を観た時のインプレッションに近い魅力を感じたのだ。

で、この項目にて度々出ている『一部』という言葉。その一部の要素と前述に列挙した数多の要素がいい具合に絡み合い『IDOLY PRIDE』の物語が面白く魅力的な作品になっているのだと。

 


*以下の項目より、作中の盛大なネタバレが含まれております。

 

 

 

 

 

 VENUSプログラムがもたらすモノ

 

 『IDOLY PRIDE』の物語を語るにあたって避けられない用語。
どんなモノなのか?とざっくり言うと、作中でのアイドルにランクを付けるシステムとプログラムの名称で、パフォーマンスであったり、ライブでの集客数や観客の反応、ファンの総数やらの様々なデータを集計してAIがリアルタイムで判定して数値を出してランキングを決定する。

要は、トップアイドルになるならばこのシステムで1位もしくは最高ランクになれば叶う。
作中に登場するアイドルはデビュー後にこのシステムに登録されてトップを目指し日々闘っていくのである。

このプログラムによって、ライブで直に競い合う対バン形式のライブも存在する。

この辺りのデータの数値化設定やらは、ゲーム作品との繋がりもあるし、大会を勝ち抜いて栄冠を目指す『ラブライブ!』シリーズや、『Wake Up, Girls!』で描かれた『アイドルの祭典』に通じるモノでもある。そして、物語の要となっているのが新人アイドルの頂点を決める『NEXT VENUSグランプリ』と呼ばれる大会。登場アイドル達はコレに優勝する事が共通の目標。
 

平等かつ公平に評価される一方で、勝者と敗者が容赦なく決まる。AIが絶対的決定権を持つこのVENUSプログラムにおいて点数は良くなくても心揺さぶられる要素を出したアイドルを評価する事は有り得ないシビアなモノ。

表現の世界に満点と正解がないとよく言われるし自分も共感している。だが『IDOLY PRIDE』ではこの言葉に真っ向から喧嘩を吹っかける潔さ。アイドルを取り巻く状況はこのシステムによって過酷で残酷な現実がある。単にキラキラとしたモノだけを描かないで真逆の負の要素もきっちり描こうとしている様に感じられた。

 

 

 



 『IDOLY PRIDE』のアイコン(象徴)・長瀬麻奈

 

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 アニメのキービジュアルのセンターにいる人物が、長瀬麻奈。
この人物を取り巻く人間模様が、この作品の要となる要素でもある。


グループが主流となったアイドル界に、 彗星の如く現れたソロアイドル。
デビュー後瞬く間に人気を集め、「星降る奇跡」と呼ばれるようになった少女。
歌唱力・パフォーマンス力ともに優れたアイドルで、特にライブにかける情熱には目を見張るものがある。


ざっくり言ってしまえば、作中に登場する最強のアイドルでありメインヒロイン。


キービジュアルのセンターに描かれている事から、麻奈がこの作品の主人公なのかと思わせるし、1話も彼女がアイドルデビューして、VENUSプログラムのランキングを着々とアップしていって、ライブバトルでは負け知らずであり『NEXT VENUSグランプリ』も勝ち上がっていった。そんな最中、衝撃的な展開で物語は展開する。


ごく狭い自分の見解ではあるが、他のアイドルもの作品にはない展開。



メインヒロイン=麻奈が死ぬという展開である。



1話の後半で『NEXT VENUSグランプリ』の決勝に向かう途中に交通事故に遭い亡くなってしまう。

他のアイドル作品でも、人が亡くなるというのは描かれないワケじゃない。だが、その対象になるのはアイドル本人ではなく身内だったり縁のある人物だ。このシーンは非常に重たく悲劇的でアイドルアニメらしからぬ要素をぶち込んでショッキングである。

こういう表現は不謹慎ではあるが……麻奈の死を描くことによって彼女が伝説のアイドルの域にまで昇華して、マネージャーの牧野や様々な人物の生き様に影響を及ぼしていく。


 で、更に驚かせるのは……1話ラストで、麻奈が幽霊となって牧野の前に現れる事だ。
化けて出るという事は、現世に未練があるという事でもあり、生前に伝えられなかった想いがあるという事。麻奈の死と未練(伝えたかった想い)がこの作品の要の一つとなり、物語の後半で更なるエモーションへと繋がっていく。

 

 

 

 

 

 死人(長瀬麻奈)に魂を引っ張られた者達とその先の軌跡


  
 先の項でも触れたが、『IDOLY PRIDE』の物語の要の一つとなるのが長瀬麻奈の存在。
そして、彼女の死を切っ掛けにして生き様が変化した者達がいる。自分が最も惹かれた要素が麻奈の幻影を追い求める者達の存在と生き様だったりするのである。



特に、この四人のアイドルにその要素が色濃く出ている。



 

 

 

 長瀬琴乃

 

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 麻奈の妹で、麻奈の後を追ってアイドルを志す。VENUSプログラムの頂点を目指すという意識が強く、自他ともに厳しい。人付き合いがあまり得意ではなく友人も多くはない。
数年前のある出来事(麻奈の死)を切っ掛けに更に人との関わりを断つようになり、以降、一心不乱にアイドルを目指し、ひとりで練習に励むようになった。見た目の冷たさとは裏腹に、情熱を秘めている。

物語本編は彼女が姉・麻奈が所属していた『星見プロダクション』の新人アイドルオーディションに挑む所から始まる。

この人物の特徴は、不器用かつ面倒くさく扱いづらい。麻奈がアイドルになる前は仲のいい姉妹関係だったが、麻奈のアイドル活動が忙しくなると、接する機会が減ってしまった事によってストレスを感じ、心の底から麻奈を応援する事が出来なくなった。

『NEXT VENUSグランプリ』の決勝前夜(麻奈が亡くなる前夜)、決勝で琴乃を想う歌を歌うから観に来て欲しいと言う麻奈に彼女は心無い酷い言葉をぶつけてしまい、それが姉妹最期の交わした言葉になってしまう。

故に、アイドルは姉を奪った象徴と存在であり、最も忌むべきモノであったが……琴乃は姉の果たせなかった夢を叶えるべく意志を受け継いでアイドルへの軌跡を歩む。


天才の姉と比較される事は覚悟の上で。


 順風満帆ではないが、日々の努力に共に夢の軌跡を駆ける仲間達との繋がりと交流を経て、彼女は変わっていく。姉の幻影をただ追うのではなく、長瀬琴乃という個を認めさせ夢を叶えようと懸命にひた走る。それは琴乃が自分で切り拓いて選んだ琴乃だけにしか歩めない軌跡。不器用ながらも直向きな生き様を見せる琴乃に胸が熱くなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 川咲さくら

 

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 胸の高鳴り(直感)に導かれる様にして『星見プロ』の門を叩いた天真爛漫な少女。元々はオーディションには応募してなくて飛び入りでオーディションを受ける。そこで彼女が聴かせた歌声は長瀬麻奈にそっくりだった。これには彼女が抱えるある秘密に起因している。


さくらは心臓に病を抱えていた。(これも重たい設定である…)


心臓移植しないと生命に関わる程のモノで、彼女は心臓移植手術を受けて以降は元気に生活が出来るまでに回復できた。更に、術後以降歌が上手くなったという。彼女の心臓にまつわる話についてもこの作品の重要な要の一つである。

物語の前半にて、彼女が何故アイドルを目指したのか?と問われるとさくらは『胸がドキドキしたから』と何とも捉えどころない不思議系な天然キャラだと思った。心臓に重い病を抱えたバックボーンの対比として、天然で朗らかな性質という両極端な人物像にしたのかと思ったら、心臓の鼓動=直感が、川咲さくらという人物の深みを描写している事になる。


さくらは、本編の三年前に心臓移植手術を受けている。


そして、その心臓のドナー(提供者)は……当時、事故死した長瀬麻奈だった。


臓器移植手術を受けた際、臓器提供者(ドナー)の記憶の一部が受け継がれる現象があると言われる事がある。(科学的根拠は無いらしい)さくらの歌声が麻奈の歌声に似ているというのはそれを織り込んだのだろう。麻奈の魂はさくらを依り代にして今もなお生きているのだと。そして、さくらは麻奈によって生命を繋ぎ留められた者。


 デビューして、『NEXT VENUSグランプリ』を勝ち抜くに連れて、さくらは『長瀬麻奈の歌声を継承した者』や『長瀬麻奈の再来』と持て囃されるようになる。それが原因で琴乃との関係が悪化してしまう。しかし、彼女は麻奈の魂で歌うのではなく川咲さくらの魂と歌声で歌っていく事を決意して闘いに挑んでいく。9話のEDは涙腺決壊必至である。

麻奈の心臓がさくらの胸に在るのは奇跡なのかもしれない。死の淵に立っていた者が生きる事を諦めなかったから掴めたチャンス。だからこそさくらは今自分が生きているこの刻を大事にしようとしている。『太陽』は彼女のイメージだという。さくらの生命を滾らせる様な生き様も自分の胸を熱くさせるモノだった。

 

 



 

 天動瑠依

 

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 ライバル(ボス)グループの一角である『TRINITYAiLE』の絶対的センター。
ダンス・歌・パフォーマンスの全てにおいて秀でており「百年に一人の天才」と言わしめる。

『TRINITYAiLE』は完全無欠なパフォーマンスで、すでに新人では異例の知名度を誇っている。ライブバトルでも連戦連勝を重ねて、長瀬麻奈の連勝記録に並ぼうとする勢いを見せる。

瑠依がひたすらに追い込んで努力を重ねるのは、彼女と母親を見捨てた父親を認めさせようとするモノから来ている。

で、その父親とは……彼女が所属している事務所『バンプロダクション』社長である
朝倉恭一。だが、朝倉は長瀬麻奈という伝説を超えるアイドルをプロデュースすることに心血を注いでいて、瑠依には興味を示さない。

瑠依がトップアイドルへと昇りつめ、なおかつ、長瀬麻奈を超えて父に自身の存在を認めてもらう事が彼女のアイドルとしてのアイデンティティであり弛まぬ努力の原動力になっている。
アイドルに憧れを抱いていたというのもあるだろうが、現在は朝倉に認められる事と麻奈を超えようとする想いの方が勝っているのだろう。


瑠依も朝倉もまた、長瀬麻奈の幻影に憑りつかれ、追う者である。

 

 

 

 

 

 神崎莉央

 

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 ライバル(ボス)グループの一角『LizNoir』のリーダー。長瀬麻奈の最大のライバル。
三年前の『NEXT VENUSグランプリ』決勝で麻奈が戦う予定だった相手でもある。
麻奈の事故によって決勝戦は不開催となり決着は付けられなかった。大会自体もそれ以降開催はされなかった模様。

勝つ事に貪欲であり、立ち塞がる者に対しては攻撃的な姿勢で接する。彼女のハングリー精神剝き出しなパーソナリティの背景にあったのは、母親に楽をさせたい一心で多く稼げるであろう手段としてアイドルの門を叩いたとされている。

ライバルへの対抗心でハングリーさのベクトルが向いたキャラは結構いるが、単に金を稼ぐ手段でアイドルを目指したキャラクターは、スポーツ系の作品に多く見られるモノで、アイドルものの作品では稀だと思うし異質である。だからこそ彼女の生き様に惹かれるモノがある。

しかし、麻奈のパフォーマンスをステージ袖で見て、圧倒され、認めたくないと感じながらも魅了されたと彼女は語り、アイドルとは何なのか?を考え自分なりのアイドル像を模索したという。圧倒的な差を痛感し負けを潔く認めて更なる高みへと挑んでいく。


 決着を付ける相手を失い、一時期活動を休止していたが、『NEXT VENUSグランプリ』が再び開催される事となり、麻奈が勝ち取れなかった優勝を目指し、麻奈を超えようと闘いに再び挑む。莉央が認めた唯一無二の宿敵の麻奈はもういない。だが、莉央の眼前には麻奈の背中が今もまだ見えるのだ。彼女にとって姿が現世に無くても麻奈との闘いは神聖で不可侵なモノ。


長瀬麻奈への執念は誰よりも強く激しく滾っている。そして、麻奈も莉央が存在していたからこそ頑張れたと言う。理屈では表現し切れないこの二人の物語も魅力を感じる要素だった。

 

 

 

 

 

 最後に……


 
 一話でいきなり主要人物が死ぬというショッキングな描写で面喰い、ラストまでそれが重要な要になりそれに関わる人物達のドラマになっている。長瀬麻奈自身の物語、星見プロのアイドル達の成長譚、ライバルたちの物語、楽曲との縁……タイトル通りアイドル達の生き様=プライドを描いていた様に思う。

冒頭でも触れたが、一部の驚きがあったものの、概ね、王道的な展開を逸脱せず真新しさはないがいい作品だったと素直に称賛を贈れる作品だった。

 

ここまでざっくりと、自分が『IDOLY PRIDE』に惹かれた要素について書き殴ったが、他にも書きたい要素や楽曲とかいろいろ掘り下げていきたい要素はまだある。

 

そんな想いを抱きつつ……この辺りで筆を置きたいと思う。