巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #43 未来模様

 

 

 ※画像はイメージです

 


 未来模様/長瀬琴乃

 

 『IDOLY PRIDE Collection Album [未来]』に収録された長瀬琴乃待望のソロ楽曲。

楽曲タイトルのみで捉えて見ると、琴乃自身が抱く未来への希望を謳うポジティブな楽曲だと捉える事が出来て、なおかつ、琴乃役である橘美來さんの名の読みである『みらい』にかかっているのも実にエモーショナル。これらの要素を踏まえて、前述したポジティブな楽曲だろうと勝手に思い込んで、実際に聴くまでそう信じて疑わなかった自分がいた。

 だが、その予想はイントロ聴いた瞬間、見事裏切られて木っ端微塵に打ち砕かれたが…コイツはいい意味での裏切り。琴乃にとって失礼な物言いになるが……やっぱり、彼女にはこういう影のある楽曲が似合う気もする。

完全に暗いとまではいかないが、決して明るいとも断言できないどっちつかずな曖昧さがあるメロディ。それと、1番Aメロ~Bメロの歌詞の内容もメインシナリオ『BIG4』編における琴乃が陥った負の心情をなぞらえたモノになっていて、橘さんによる歌声も切ない要素を纏って拗らせた時の琴乃を想起させてしまう雰囲気の重たい楽曲なのかと思わせ、早めのテンポもまた琴乃の焦燥感を煽る様に感じられる。

しかし、纏わりついていた重い雰囲気はサビに入ると一変する。辛い現実を乗り越えるべく自身を奮い立たせる決意と覚悟が爆ぜた様な歌声を響かせていく。この溢れ出て来る激情を抑制しきれないまさに解き放たれた様な橘美來の歌声は、クソ真面目だけど強情で不器用で危なっかしい……でも、思い込んだら一途な強さを持つ長瀬琴乃の過去と今……そして未来へ向かう決意とリンクする。

 結局の所は前を向くポジティブな楽曲だけれど、それだけではなく、琴乃のネガティブな部分にもきっと魅力はあるのだと感じさせるし、それらを前に進む力を謳へと込めた。ただ、楽曲の雰囲気と流れ、音楽的と感情的の『静』と『動』のメリハリを適切に把握して謳わないとこの楽曲にきっちりと血が流れない。

それを成すのに必要なのは、長瀬琴乃のアイドルとしての生き様とPRIDE、そして、橘さんと琴乃による対話の記憶。ここでカギになるのは歌詞に度々出て来る『君』という言葉だと思える。様々な解釈が成り立つ『君』だが、特に縁としての繋がりの強さを感じさせるのは、琴乃からもう一人の琴乃、琴乃から橘さんを指している存在だと自分は強く感じられた。

 今の刻を最高のモノにするには、過去を受け入れられてこそ。いくら否定しても無かった事には出来ない。もし、彼女がこれまでを否定するのなら今の刻に生きている琴乃自身まで否定してしまう事に繋がる。そんな琴乃に未来への希望が生まれるワケが無いだろう。

 ポジティブな想いとネガティブな想いが混在した複雑な楽曲になっているのは、琴乃の葛藤と希望が表れたモノなのだろう。忌むべき過去を決して忘れない。過去があったから、今があって未来への希望を謳う長瀬琴乃の『決起の謳』という表現が似合う楽曲。