巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #33 それを人は“青春”と呼んだ

 

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 それを人は“青春”と呼んだ/長瀬琴乃×川咲さくら×天動瑠依×神崎莉央


 ゲームリリース一周年を記念してリリースされたアニバーサリーソング。
歌うのは、月のテンペストの長瀬琴乃(CV:橘美來)、サニーピースの川咲さくら(CV:菅野真衣)、TRINITYAiLEの天動瑠依(CV:雨宮天)、LizNoirの神崎莉央(CV:戸松遥)といった、4グループのリーダー(センター)によるスペシャルな楽曲。
 
音源は、1st EP『それを人は“青春”と呼んだ』収録。ゲーム内での3DLIVE実装、2022年7月に立川ステージガーデンで開催された際の音源が収録されたLIVE盤『Live at IDOLY PRIDE VENUS STAGE 2022 “約束”』に収録。

 作詞及び作曲は、クリエーターユニット『HoneyWorks』が手掛けている。
HoneyWorks楽曲の真骨頂とされる『青春』を想起させる様な、明朗快活なロックサウンドを軸にしているが、単純な明るいだけの楽曲にはなっていない。

不安や葛藤といった負の感情に苛まれながらも、抗ってその状況を打破すべく、前を向こうと戦う姿勢もきっちりとメロディと詞に織り込まれている。『東京編』を観て、この1曲を通して絶望・葛藤から希望・執念に変わっていく展開にこだわったと、HoneyWorksは語られている。

実際に歌っている、琴乃、さくら、瑠依、莉央だけではなく、他のアイドル達もそれは同様なモノだろうし、演じているキャスト側もそう。夢の為、自分が信じたモノの為、大切な人への想いへ自らの青春を捧げようとする少女達がいた。そんな熱き思いを抱く彼女達を止める事はきっと出来ない。この瞬間という一度きりの刻をただひたすらに生きているのだと。

そして……コンテンツ全体にとっても、ゲームリリースとなった2021年~2022年という刻は、嬉しい事が色々あったのは勿論、筆舌に尽くし難い深く悲しい出来事があった年。物語だけではなく、関わる全ての縁の記憶を詞とメロディに籠めたと言っても過言ではないだろう。

 この楽曲の注目ポイントを挙げていくと切りがないが…折角なのでとにかく挙げてみる。
まず、1・2番のAメロの詞と歌割。1番は、琴乃→瑠依→さくら→莉央の順になっていて、琴乃と瑠依のネガティブな負の感情を詞と歌声でダイレクトに漏らしているのが印象深い。

琴乃パートの『高い壁』は、限界を超えて挑んだが及ばなかったスリクスであり、サニピとの差なのだろう。瑠依パート『心が折れる音がした』は、陰謀に翻弄されまくったトリエルの心情だと解釈している。

一方で、さくらと莉央のパートは、立ち上がって前に進もうというポジティブな気概に溢れている。さくらパートの『涙は早い 楽しまなきゃ』や、莉央の『輝かない 幸せになんてできない』は、二人の生き様とPRIDEを証明されている様に感じられる。

 2番のAメロでは、莉央→さくら→瑠依→琴乃の順に遡っていく形に変化している。さくらに『心の高鳴り』というワードをあてがった所に物語への共感性の高さを感じざるを得ない。素晴らしき用兵の妙と言った所か。

1番Aメロでは、ネガティブな感情を歌っていた琴乃と瑠依だが、2番では莉央とさくらの『熱』にあてられたかの様に、ポジティブさを纏った力強い歌声になっていく。で……続くBメロでの歌詞がまたエモーショナルな感情を揺さぶって来るのだ。


 陽射し注いでみんなを照らす 月の光は顔上げさせる

 必要不可欠 欠けてはならない

 どんな風でも折れない翼 暗闇の中 凛と咲く花

 歓声が待つ(輝く) ステージへ(行こう!)
 
―長瀬琴乃×川咲さくら×天動瑠依×神崎莉央 『それを人は“青春”と呼んだ』より引用


 ここからの一連のパートは、4グループのシンボルとなるモノが歌詞に織り込まれている。
『陽射し~』はサニピの太陽、『月の光~』は月スト、『翼』はトリエルのシンボル、『凛と咲く花』は、黒百合をシンボルとするリズノワ。勿論、各グループのシンボルとなるワードのパートはそれぞれ該当するグループのリーダーが歌っていて、そこからサビで迎える最高潮にリスナーを導いていく。

 そして……このアニバーサリー楽曲の最大の『キモ』になっているのが、Cメロ~落ちサビへ至る箇所ではないだろうか。


 HEY! 声に出したら

 CLAP! リズム合わせて

 JUMP! 天まで届け

 ねえ? 聞こえていますか?

 伝えさせて この歌に込めて

―長瀬琴乃×川咲さくら×天動瑠依×神崎莉央 『それを人は“青春”と呼んだ』より引用

 
 『ねえ? 聞こえていますか?』の箇所は、是非ともMVをご覧になって欲しい。
この箇所では、琴乃、さくら、瑠依、莉央と因縁深き縁で繋がっている長瀬麻奈が登場して来る。彼女達が麻奈に抱く感情はシンプルなモノではない。それぞれに深い想いがある。

 超えたい唯一無二の最大のライバルでありながらも、理想のアイドルとして麻奈への憧れを抱いていた莉央。彼女の歌声からは、麻奈の魂に正々堂々と胸を張れるトップアイドルになるといった誓いが込められている様に思える。莉央の前には、今もなお全力で駆けている麻奈の背中が見えているのだろう。葵と新たな血(愛とこころ)を加えて、最高の仲間と共にトップへ辿り着くと。

 目が離せない絶対的なアイドルになる。その最短距離を往く為に麻奈の打ち立てたライブバトルでの無敗記録へ挑んだ瑠依。しかし、瑠依はその記録を破る事は叶わなかった。でも、負けて得られた大きなモノがあった。

どんな苦難でも変わらずに、共に寄り添い軌跡を駆ける掛け替えない仲間(優・すみれ)と、ずっと見ていてくれた真に認めて欲しい人(朝倉社長)からの労いの言葉。この二つの宝物は、麻奈を意識して追いかけて負けなければ得られなかったモノではないだろうか。瑠依の歌声は麻奈への感謝と返礼の意が込められている様に聴こえる。

 さくらにとって、麻奈は生命を救われただけではなく、当たり前の刻を過ごせる様になった最大の恩人。アイドルとして初めての事を沢山経験出来て、全身全霊で楽しみ尽くす事。まさしく今この瞬間という刻が、さくらにとっての『青春』の刻なのだろう。

 『伝えさせて この歌に込めて』と謳う琴乃。ここの歌詞は、琴乃にしか謳えないし、琴乃が謳わなければ真に血が流れない最重要箇所。琴乃に関わった全ての人への想いはあるけれど、『もうお姉ちゃんがいなくても大丈夫』といった麻奈へ伝えるメッセージが込められていて、レコーディングで特にこだわった点であり、聴いて欲しい箇所だと橘さんはインタビュー記事にて語られていた。

 何よりも自分の魂と感情を揺さぶってくれたのが、この記念となる楽曲に、長瀬麻奈と…そして、神田沙也加への想いと深愛の情もきちんと込めてくれた事が勝手ながら嬉しかったのだ。

 長瀬麻奈と神田沙也加を除け者…過去の遺物として扱うのではなく、忘れない、忘れたくはないという想いは、『IDOLY PRIDE』に関わりを持つ数多の人々の偽り無き想いではないだろうか。長瀬麻奈と神田沙也加の魂へ……どんな刻も変わらずに寄り添い続けていく。そんな本気の決意と覚悟を改めて証明してくれた楽曲だと思えてならないのだ。