巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDEのキャラクターを斯く語る #13 長瀬麻奈編

 『IDOLY PRIDE』キャラクターの独自考察記事も、今回で感動の最終回となります。

 

作品に登場するアイドルの中で、イレギュラーであり、スペシャル・ワンのアイコン(象徴)という存在で、数多の登場人物に様々な影響を及ぼした長瀬麻奈編をお届け致します。彼女について取り扱わない事には、『IDOLY PRIDE』のキャラクターを斯く語る事は出来ないだろうと思う。

麻奈との巡り逢いによって、憧れを抱く者、または負けたくないと対抗意識を抱き超えたいと闘志を滾らす者…彼女の様になりたいと願う者。そして、人生の往く軌跡を決めた者や…更には、生命を救われた者……とその影響は計り知れないモノ。彼女を考察していく事で、『IDOLY PRIDE』の物語そのものを考察する事にも繋がっていく。

それ故に自分は長瀬麻奈を、イレギュラーかつスペシャル・ワンのアイコン(象徴)と称したのであります。


 と…まあ、大風呂敷を広げてみましたが、どう転んでいくかが未知数でありきっちりした落し所は見当が付いておりませんが……暖かい目で読んで下されば幸いであります。

 

 

 

 

 『持つ者』として……スペシャル・ワンというアイコン(象徴)


 まあ、散々言ってはいますが…麻奈をスペシャル・ワン』と称しているのは自分だけですwww


訳すると、特別な存在という意味であり特別な才能を有した存在。最強の存在と称しても差し支えない。長瀬麻奈とはそういう存在であるというインプレッションを彼女に抱いております。

何故、麻奈が最強のアイドルと称され、彼女が死してもなお語り継がれて意識させられる絶対的存在までに至ったのか?最大の要因としては、グループが主流となるアイドル界においてソロアイドルとしての名声と地位を勝ち取ったという点。そして……彼女の突然の訃報がその年の最大のニュースとなったというのはアイドル・長瀬麻奈という存在の大きさを証明している様に思えます。

 
 ソロで活躍する事の難しさは、麻奈とほぼ同じ時期にデビューして不遇の刻を過ごす事になってしまった遙子の境遇や、姉と同じくソロ活動を希望していた琴乃を諭す為に牧野がその難しさを語るシーン(3話)、実力はあっても莉央をソロでデビューさせなかったバンプロ時代の三枝さんだったりと、この作品ではとにかくソロアイドルで活躍……即ち、アイドル業界を仕切る(≒支配でもいい)『VENUSプログラム』では勝てないという要素はキャラクターのバックグラウンドだけでなく視聴者にも強烈に印象付けさせた。


 そんな中、世に出て突然変異的に龍の雲を得る如き勢いで活躍する麻奈は、異質=イレギュラーな存在。世間で既に確立されたVENUSプログラムというシステムが打ち出したソロでの活躍は難しいという概念を、麻奈が活躍する事でことごとくぶち壊していく。

まごう事無きホンモノのアイコン(象徴)が現れたというムーブメントが巻き起こす熱狂と興奮、更には唯一無二の特別性を長瀬麻奈の存在そのもので描写し、そして……不慮の事故による早逝による悲劇により伝説の域まで昇華した。


 前述の通り、自分はこれらの要素から長瀬麻奈に対してスペシャル・ワン』もしくは、最強のアイドルというインプレッションを抱いたという事なのであります。

 

 

 

 

 光から陰へ


 1話で牧野はモノローグにて、人気者である麻奈を光と称し、自らをいたって普通で目立たない存在である事から陰であると称して、決して交わる事のない存在であると言う。

何やかんやあった末に……彼は、アイドルの軌跡を駆けようとする麻奈のマネージャーになる事に。アイドルとして輝きを放つ麻奈が光で、彼女を支える彼が陰という構図は、麻奈の死で二人の縁を分つまでは不変の理だったワケです。


 そして……麻奈は幽霊として再び牧野の前に現れる。でも、今度はその立場は逆転している。彼は現実の刻を生きている生者という光。一方の麻奈は死者という陰の存在。勿論、幽霊である麻奈が現実に生きる人間に干渉する事は出来ない。今度は麻奈が奮闘する牧野の背中を叩いて押して支える立場になっていく。

 

 

 牧野くん。もっと自分の直感を信じなさい。

 貴方はこの長瀬麻奈のマネージャーだったんだから。

 

 

 麻奈が全速力で駆け続けられたのは、牧野が背中を押してくれて支えていてくれたから。その事実を最も理解しているのは他ならない麻奈自身でもある。彼にとってこの麻奈の激励は何よりも嬉しかっただろうし、彼女が成仏して去った今の刻においても、彼の魂に深く刻まれた言葉だと思えるのです。

本編(2話以降)での二人のやり取りは、麻奈が在りし日と何ら変わらなく他愛無いやり取りをしていた日常の延長線上だったのでしょう。もしかすると、麻奈はアイドル時代よりも生き生きとしていた様にも見える。その辺りは死を経た事で全てのしがらみから解放されたという事かもしれない。

そして、牧野以外で自分の魂を認識出来る芽衣が現れて友達になってくれた事も、麻奈にとっては本当に嬉しい事だった。普通の少女として刻を過ごすというのは、アイドルとなった麻奈が失ってしまったモノでもあったのだと。


 しがらみから解放された麻奈だけれども、妹の琴乃がアイドルを目指していた事は全く知らなかった。11話で琴乃が言っていた様に妹が心配なら琴乃の所にまずは現れるはずだと。実際、琴乃は麻奈が幽霊となって現世にいる事は牧野から告げられるまで分からなかった。結論として琴乃が言う様に他人=牧野の為という理由が現世に留まっている理由の一つなのだろう。

だからこそ、幽霊だからと言って好き勝手にどこでもふらふらと現れる事は出来なくて、牧野や認識できる芽衣の近辺という限定された範囲にしか出現出来ないのでしょう。


  では、麻奈はどうして隣の席にいる単なるクラスメイトでしかない牧野に、自分のマネージャーになって欲しいと頼んだのか。牧野をマネージャーにしなければスカウトは絶対に承諾しないという条件まで付き付けても。

彼女にもたらされたアイドルへのスカウトはそれこそ長瀬麻奈の将来と人生を懸けた軌跡への扉。牧野を引き込むという事は彼の人生も一緒に巻き込むのと同義であり、麻奈のエゴでしかない。

当然ながら、麻奈も彼にマネージャーになって欲しいという申し出は我儘(エゴ)であるのは承知の上。でも牧野航平という唯一無二の存在じゃなきゃダメだった……それが、成仏の間際で告白した『好き』という言の葉に込めた恋慕の情に結びつくのでしょうし、無心で彼になら自分の背中を預けられる信頼もあった。

立場や状況に流されないニュートラルな感性を保てるという信念……それが牧野にとっての『普通』。麻奈が彼に惚れた部分でもあった。更には、彼の返答(告白)も麻奈にとっては想定通りで納得のいく答えだったのでしょう。

 
 そして、麻奈は光となって天に逝く。陰としての役割を全うし、真の夢を継ぐ者達に願いを託して……

 

 

 

 

 すれ違う想いと絆が繋がる刻


 麻奈が琴乃の前に現れる事が出来なかったのは、琴乃の事を蔑ろにしていたワケではない。
それはアイドルとして多忙だった頃、僅かに空いた時間でも琴乃と関わる時間を作ろうとしていたし、何よりも、自分が歌う楽曲の詞に彼女への深愛の情を綴った事から、琴乃への想いと愛情は変わらないモノとして在り続けた。いつの日か、琴乃にも認めてもらえる日を願って。

そんな妹が、麻奈が亡くなった事が切っ掛けで忌み嫌うアイドルの軌跡を駆ける事になった。
自分が死んだ事で妹が自立の一歩を踏み出せた。更には、果たせなかったトップアイドルの夢を継いでくれたのが何よりも嬉しかったのは間違いのない事だった。


 ただし、幽霊である麻奈の方からは琴乃にアプローチする事は出来ない。むしろ、敢えて距離を置く様な素振りを見せていたし、麻奈を認識できる牧野や芽衣を介していても積極的に関わろうともしなかった。更には麻奈の幽霊がいる事を知ったさくらにも琴乃に存在を明かすなと口止めさせる。

自分がいないという事実があるからこそ琴乃は直向きに頑張って来れたし、麻奈もアイドルになってからの琴乃の成長を見守って来た。本当なら牧野を介していろいろと口出したかっただろうが、そこは彼を信じて妹を託した。彼なら間違った方向へは導かないだろうという無心の信頼があるから。

でも、幽霊とは言え麻奈がいる事が琴乃に分かってしまったら、彼女は真の意味で自立が出来なくなってしまう事を恐れた。琴乃の方も、麻奈との対話に臨んだら何かが跡形なく崩れてしまう危機感を抱いたから対話出来ると聞いても頑なに拒んだと思える。


 でも、今の琴乃は麻奈が生きていた頃の琴乃ではない。悩んで迷いながらも抗って懸命にアイドルの軌跡を駆けて来た。ちゃんと自分の意志と魂があればこそだ。麻奈の方も、現世に留まれる刻が残り僅かである事を痛感していたから『最後の宿題』と評して琴乃と対話する覚悟を決意する。

琴乃は麻奈の幻影の先が見えていた。だから、牧野や芽衣の通訳という形ではない独白という一方的な形で琴乃は麻奈の魂に、麻奈の替わりという立場では叶える事が出来ない琴乃だけの夢を追う事を誓った。独白にしたもう一つの理由は、麻奈がどう思おうがもう関係はない。自分の生き方はこれなんだという決別の証明でもあったのでしょう。
麻奈もそんな琴乃の決意を汲み取ったから誰も介さない事を受け入れたと。

 

 

 それでいいんだよ。

 

 

 例え幽霊であっても麻奈が存在している事を知っても…琴乃はアイドルとしては勿論、一人の人間としてもちゃんと自立=姉離れが出来た。それを証明する誓いの言葉が妹の口から出た事が麻奈は何よりも嬉しかった。だからこその『それでいい』という言葉で、琴乃に触れあえる事は出来ないけれども抱きしめた事にも繋がって、すれ違って拗れてしまった姉妹の刻が再び交わって繋ぎ止める事が叶った。


 妹とすれ違ったままではちゃんと逝く事は出来なかった。どんなカタチであれ、琴乃と関わり合うという要素は麻奈が成仏する為には必要な自然の理だった気がするのです。

 

 

 

 

 感謝と誓い。そして……PRIDEの謳


 本編のキモとなったのが、麻奈が歌詞を紡ぎ『NEXT VENUSグランプリ』の決勝で歌う予定だったが、彼女の死によって歌う事が叶わなかった楽曲『song for you』にまつわる物語。麻奈はこの楽曲を歌う事が出来なかった事が心残りとなって、それが成仏できなかった要因の一つだと考えられる。

麻奈が綴った詞に込めた想いは単純なモノじゃない。応援してくれるファン、巡り逢いの縁や歌える事への感謝、最愛の妹・琴乃への想い、そして……牧野への想い。だからこそ、『私の歌は私だけのモノだから!』と感情を剥き出しにしてさくらがこの楽曲を歌う事を頑なに拒んだのは当たり前の話である。

……にしてもだ。そこまでの重い楽曲を新人枠という限定された中での頂点を決める大会でしかない『NEXT VENUSグランプリ』の決勝で歌う事に彼女は決めていたのか?それは『song for you』の詞の文脈に紐解くポイントが存在している。


 コレ(NEXT VENUSグランプリ)に優勝出来れば、一気にトップアイドルの仲間入りと麻奈自身も言っていたので、彼女もこの大会は一つの通過点として捉えていて『遠く果てしない夢のまだ途中』という詞で歌い出す事からそれは窺えるのではないだろうか。

あくまでも、個人の所感でしかありませんが……この楽曲が持つ一つの顔として、麻奈を取り巻くあらゆる縁への感謝の念が詞に込められている事を挙げている。

アイドルへの想い、目指すもの、応援してくれる人や支えてくれる人への想い。それらを総じて、麻奈は1話で『私はいろいろ背負っている』と言い、自覚していく事で負けられない自分が出来上がっていった。そんな想いに応えて感謝を謳に乗せて伝えたいと願う。独りのアイドルではあるけれど、独りじゃない。独りじゃないから歌えるという信念……というか執念とも言える。

だからこそ『歌』で『感謝』を決勝という晴れのステージにて伝えたかった。言い換えると『歌』でしか彼女は感謝を伝えられない事なのかもしれない。妹の琴乃も不器用だが麻奈も相当不器用…というか素直じゃない……


 そして、琴乃やさくらの『song for you』に関わる項でも書いたが、この楽曲は理想の姿で輝く事を目指す誓いの謳という意味もある。この事も加えて、一つの到達点という場にて歌うのも麻奈にとっては重要な意味であった。



 あなたに あなたに もらった勇気を

 今度は わたしが 返して ゆきたい

 誰より 眩しい ヒカリになること

 誓うよ 強く sing out


―長瀬麻奈(CV:神田沙也加) 『song for you』より引用



 前述の通り、この楽曲で言う『あなた』とは複数の意味を持つ。牧野や琴乃を指す事でもあり、麻奈を繋いでいる縁そのものでもある。

そんな数多の『縁』からもらった勇気を『返礼』の意味を含ませ、未来の刻で麻奈がアイドルとしてもっと輝く事を誓う。それが麻奈に勇気を与えてくれた数多の縁と人に応える事……礼に対して礼を尽くすという麻奈の想いなのだろう。

ただ歌う事が好きで、それを聴いて欲しいではアイドルとして成り立たない。長瀬麻奈の歌が誰かの人生に何らかの影響を及ぼしたのなら、その全ても背負う覚悟で挑まないとアイドルとしての本質を疑われる。そこに全身全霊を懸ける事が長瀬麻奈が貫き通すPRIDEなんだと。


 結果として、麻奈がこの楽曲を歌う事は叶わなかった。
でも、琴乃にどうしてもどんなカタチでも聴いて欲しいという願いから麻奈はステージからではなく琴乃の部屋の前で歌った。たった一度聴いただけだが、麻奈の歌に込めた想いはちゃんと琴乃の魂に刻まれた。

姿を継承(似せた)者である琴乃が、魂(心臓)を継承して生命を繋いだ者であるさくらが、詞の意味や想いを汲み取って謳った事でこの楽曲に血を流せた。

 琴乃やさくらが歌うのは麻奈の本意ではなかった。しかし、この二人がいなかったら、大観衆が見るステージで歌われる事も、『NEXT VENUSグランプリ』優勝を勝ち取ったウイニングステージで歌われる事はなかったのも事実としてある。その事実も、麻奈にとっては『救い』だった様に思えてならない。

 

 

 

 

 真に描いていた夢~決着は“人”の想いで

 
 作中のアイドル達は、アイドルの実力をAIで判定しランキング化したVENUSプログラムというモノに支配されていると言っても過言ではない。それは数値化され集客数、パフォーマンスの質、オーディエンスの反応もそこに含まれ、緻密かつどんな些細な差でも無機質で容赦ないジャッジが下されて、このシステム下では100点が最高であり、完璧に勝者と敗者が分けられる仕組み。

 

 

 私……長瀬麻奈は100点満点なんかじゃ評価出来ないアイドルを目指すの。

 

 

 1話で麻奈が言ったこの言葉に、彼女が本当に叶えたかった夢の真髄があったと思える。


琴乃とさくらが駅前でレッスンと称して歌った時に、多くの人達が二人の歌声に耳を傾けて聴き惚れていた事、さくらが『LizNoir』の莉央と葵のダンスに理屈抜きで魅了されたり、芽衣が怜のダンスに輝きを見出して憧れを抱き、優とすみれが『サニーピース』のパフォーマンスに心揺さぶられたり、莉央が麻奈に真のアイドルが放つ輝きを感じたり……

これらの事象は、何点以上でそういう(魅せられた)状態になったのか?を証明する具体的な数値では計る事の出来ないモノ。これはVENUSプログラムに対してのアンチテーゼとなる描写でもあった。

その極めつけとなったのが、『月のテンペスト』と『サニーピース』による『NEXT VENUSグランプリ』同時優勝という前代未聞の結果だ。このあらゆる要素を数値化する絶対的な理を壊す事こそ、麻奈が真に抱いていた壮大な夢だった様に思えてならない。大袈裟に言い換えると、麻奈は神に真っ向勝負を挑んでいたのかもしれない。『song for you』の詞にある『冷たい世界』はVENUSプログラムの比喩なのだろう。

 麻奈が勝ち続けていく事で、いずれはもう数値では判別できない領域に達する事。それはVENUSプログラムというシステムが存在する意味を失うに等しい。存在するという事はシステムであってもいずれは崩壊する未来が待っているという事。もしかすると…そのシステムには収まりきらない規格外で絶対的な象徴となるアイドルの出現を望むシステムでもあったのかとも思わされる。


 と、まあ…書いておいてアレだが…VENUSプログラムが無くなる論は妄想と暴論に過ぎない。
もし、麻奈があのまま生きていたり、琴乃やさくら達が未来の刻でシステムの概念の意味を失う領域へ上り詰めたとしてもVENUSプログラム自体が無くなるという事は無いのでしょう。

完璧である事がVENUSプログラムにおいて勝つ為の最良の方法とすると、それは人間ではなくアイドルとしての役割を全うする事。でも、麻奈は100点満点では評価出来ない…即ち、計算では計れない人間の持つ限界を超えた人の可能性を信じていて、アイドルではあるけれど人間であるというプライドをどこまでも貫いた麻奈だから抱けた夢なのかもしれない。

 

 

 

 

 と、いう事で…長瀬麻奈編でした。

 

取りあえずは、アニメ版におけるキャラクター独自考察編はこれにてひと段落となります。
手前勝手な妄想&暴論で勢いのまま書き殴っただけでしかない駄文に長々とお付き合いして下さって本当にありがとうございました。


今後は、おそらく『IDOLY PRIDE』楽曲の事について書き殴っていく私的ライナーノーツ的なモノを、今年の7月に開催されるゲームリリース一周年LIVEに向けて書く事になるでしょう。


まあ、自分の遅筆具合で、7月までに全部の楽曲については書ききれないでしょうが……一つでも多くの楽曲の魅力を書ければなんて思っていたりします。