プロトノイズ/DayRe:
1stEP『ReFraction』のリードトラック。なお、EPリリースに先駆ける形で本曲のみがデジタルリリースされ、MVも公開されている。(動画のサムネイルの橘美來さんが非常に美しい……)
本曲のテーマは『未完成のままでも』と公式発表されている。
まだ何者にもなれていない自分、世界の誰とも違う“歪さ”を『プロトノイズ』という造語で表現。葛藤する想いを抱きつつ…それらを肯定して轟かせていくんだという想いを込めた楽曲になっていると。
楽曲タイトルの独自解釈になるが……『プロト』は『最初』や『試作品』の英訳『プロトタイプ』とかで知っている人は多い言葉。『ノイズ』は『雑音』や『騒音』の意味。
『ノイズ』の意味である『雑音』を、多種多様な要素が混じり合っているという意味の『雑多』として(無理矢理だが……)として捉えてみた。
この雑多ってのは言わずもがなDayRe:の5人の歌声でもあるし、雑多な音という意味では本曲のみならずEPに収録されている楽曲全てに当てはまる。そんな楽曲陣が収録されたEPのリードトラックという意味も込められている……のかもしれない。(※個人の勝手な解釈)
楽曲のインプレッションだが、これまでリリースされているDayRe:楽曲とは明らかに路線が違う物哀しい方向の暗さを持つ挑戦的で攻めた作風だと感じた。(暗いと評したがあくまでもこれまでのDayRe:楽曲と比較しての話で、本曲がもの凄く暗いというワケでは無い)
イントロ~A・Bメロの曲調と歌詞にその暗い要素が強く感じられる。周りの人とどこか違う歪さと、まだ何者にもなれていない未熟さを痛感している心情が窺える。
そして、その暗さは刻の流れとリンクしている様にも思える。一番しっくり来た時間帯は、日が昇らない夜明け前。本曲の物語に登場する『僕』は未だ暗闇=明けていない夜の中にいる。でも、明けない夜はないと渇望していろんな負の感情に抗いつつ進んでいく。
ちなみに、この『僕』はどこの誰かって話になるが……自分はDayRe:の5人だと解釈した。歌詞の内容と曲調が、彼女達のこれまでの軌跡と様々なモノに抗おうとする魂の叫びとのシンクロ具合が実に絶妙だなと思わず膝を叩いた。
その真骨頂になっているのがサビで響かせる5人の歌声。先が見通せない真っ暗な状況だったからこそ……そこから抜け出したい、殻を破りたいという強い意志と覚悟が生まれ、朝日を浴びて全ての感情が解放されたような爆ぜる歌声に変化する。
そこには、吹っ切った潔さも漲っていて未完成で未熟な存在にしか出せない彼女達の強さと決意。コレは良い方向に振り切った者達にしか出せないもので、時に凄まじい熱と勢いを発生させて、彼女達を想いと生き様を歌に乗せるユニットでありアーティストだということをリスナーへ知らしめるのに十分な説得力がある。
本曲において自分が最も印象深かったのは、5人全員で歌声を重ねる斉唱(ユニゾン)パートが無い事。コレは本当に挑戦的だなと思う。パートの構成は、それぞれのソロを歌い継いでいく形式になっている。あえて全員の歌声を重ねない構成にしているのは個人の歌声(=雑多な歌声)を引き立させていく狙いなのかなと。
歌声が重なるのが完成形ならば、重ねずにそれぞれの歌声を独立させることで、本曲のテーマになる未完成・未熟さを表現しているのかもしれない。ソロだからこそ際立って聴こえてくる5人の剥き出しの感情が乗っている飾らない雑多だけれど力強い歌声。
洗練され整っている美しい歌声ではないかもしれないが……必ずしも魂を撃って感動に至るとは限らない。未熟で未完成な者にしか出せない雑味や叩き上げの魂に魅了されることもある。本曲はそんな剥き出しの荒削りな野性味……本能の叫びで魂を撃ち抜いて滾らせる楽曲なのだと思い知らされる。
自分の中に秘められている無限の可能性は自分自身では気付きずらいなんて言われる。それは楽曲というモノにも当てはまる。
だからと言って、自分自身や楽曲の限界領域を超えるためのチャレンジを諦めたら何の進展はない。DayRe:の5人はこれまで戦い続ける事を諦めなかったから、遠い夢だったユニット結成が叶って現在に至る。
何者でもなく、何も出来なかった者達にしか謳えないこの楽曲。
言うなればこの5人…橘美來、相川奏多、宮沢小春、夏目ここな、日向もかにしか謳えない反骨の魂が宿る『生命の謳』であり『アンセム』なのだ。
ただ、水を差す様で申し訳ないが……この楽曲は真の完成には至っていない。あくまでもカタチだけ。そこからは、彼女達がどれだけこの楽曲に血を流して強くさせる事が出来るかだ。そうなるにはどれだけの刻と披露の機が必要なのかは分からない。ただ、その過程を追っていける事は本当に楽しみで仕方がない。
これからいろんな過程を経ていって…真の完成に至ったその刻こそ『プロトノイズ』が、数多のリスナーの魂へ届く刻なのかもしれない。