巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

新訳・song for youを斯く語る。

 ―あの刻と場にて……ある楽曲を歌い終えた彼女達の貌は笑顔だった。

 

 彼女達の笑顔にどういう意味があったのか?様々な重圧と責任を感じながらもきっちりと見事に歌い終えた事への安心なのか。全身全霊懸けて全てを出し尽くせた事への満足感か。あるいは、彼女達に託された誓いと成長の証を境界を超えた存在へ見せられたからか。

 

 しかし、その明確な答えは当の彼女達にしか分からない。

 

 でも、一つ分かった事もあった。2024812パシフィコ横浜の地で謳われたある楽曲……song for you』に新しい血が流れ、新生して深化を遂げた奇跡の刻だったのだと。勿論、コレは自分が勝手に感じてほざいている妄言でしかないのだろう。それでも言いたいんだ。

 

 

長瀬琴乃と橘美來の『今』川咲さくらと菅野真衣の『今』が楽曲に新しい血を流して……この楽曲の『新訳』へ至った。

 

 

 そして、この『新訳』に至るための決定打となったのが……先日リリースされたIDOLY PRIDE初のLIVE映像作品となる『IDOLY PRIDE VENUS PARTY The Second』 のDISC2に収録されている本曲のアクト。

LIVE映像作品のいい所の一つは、現地参戦では席の場所によって見えずらい演者の表情がアップで観られるところではないだろうか。それが観れた事で本曲の『新訳』に至ったのだと。

 

 と、まあ……前置きの四方山話はこれ位にして、新訳・『song for you』の物語を語っていこうと思う。ただし、コレは自分の勝手な考察と解釈が含まれているのでその辺りについてはご了承願います。

 

 

 

 

Chapter1/渇望して叶った奇跡の刻

 

 刻は遡り……20219月末頃。ゲーム内のイベントストーリー「煌めく奇跡をもう一度」が開催 された。ストーリーをざっくり紹介すると……時系列的にはメインストーリー東京編でLizNoirが星見プロへ移籍直後の頃と見ていいと思う。

丁度その頃、麻奈の誕生日を迎える事になって、麻奈の誕生日パーティーを星見プロ総出で開こうとする。で、なんやかんやあって急遽、麻奈と月スト&サニピがデビューLIVEをした星見市のステージでLIVEをする流れへ。そしてLIVEは進み、琴乃とさくらがステージに立ってあの楽曲をこれから歌う事を告げた。

 

 

 次は私と琴乃ちゃんの二人でお送りします

 

 聴いて下さい……『song for you

 

 

 

 自分は当時コレを観た時、いつの日か開催されるアイプラLIVEで琴乃とさくらが謳う『song for you』が披露される機に立ち会いたいと願った。

そこから刻が経って何度かLIVEが開催されたが、単独公演で本曲が謳われたのは、20237月に開催された『IDOLY PRIDE VENUS PARTY The FirstDAY2にて橘美來さんによる琴乃ver.。勿論、このアクトも本当に素晴らしいモノだった。何より魂を揺さぶってくれたのは『song for you』を単独公演にて謳われたという真実が嬉しかったのだ。

でも……人という生き物はつくづく業の深い生き物だ。次に願うのは、菅野真衣さんによって謳われるサニーピースver.を求めてしまった。しかもそれを渇望した怪文書まで自分は書き殴ってしまったんだ。

 長瀬麻奈の楽曲は軽々しく謳われるべきじゃない。(そんなつもりは無いでしょうが……)謳う人は勿論、聴く側にも覚悟が求められると思う。しかも本曲はただでさえ重い意味を持った楽曲。だからこそ、彼女達が心の底から謳いたいと決意して披露が叶う刻が訪れる事を信じて待とうと決めた。

 

 そうやって待ち望んた刻と機が訪れたのだ……もう、平静を保てるワケが無かった。

 

 

Chapter2/過去と境界を超える者達

 

 『IDOLY PRIDE VENUS PARTY The Second』 のラストソングとして披露された『song for you』。イントロが流れて登場して来たのは橘さんのみ。彼女が一番を歌い終えた瞬間、ステージ下手側の階段上に橙の照明が灯る。その光の下に立っていたのが菅野真衣。彼女の存在と歌声を認識した瞬間、前述した様に平静を失った……

ラスサビでこれまでステージ中央で歌っていた橘さんは上手側に移動し、菅野さんは階段から降りてそのまま下手側で歌っていた。その時ステージ中央は誰もいない空白地帯になっていた。あくまでも勝手な解釈だが、敢えて中央に広大なスペースを作ったのは、この楽曲本来の歌い手である長瀬麻奈と神田沙也加の存在を各々で感じろというメッセージが込められていたんじゃないだろうか。

 当然だが、今となっては麻奈と神田さんはもういない存在になってしまった……その事実と橘さんと菅野さんの間に空いた広大な間隔をどういう形でもって解釈しアクトを楽しむかが真髄になっている。

このアクトで称賛したいのは、琴乃と橘さんの『今』さくらと菅野さんの『今』でしか謳えない歌は勿論だが、麻奈と神田さんをあからさまに認識させる要素を一切挟まず解釈の自由という余白を与えてくれた事。敢えて言うなら、麻奈を感じさせる要素は客席に灯った彼女のイメージカラーであるピンクの光か。

おそらく、やろうとおもったらそれほど難しいモノじゃないのだろう。彼女達の歌声に麻奈ver.の音源を被せる形をとったり。実際、このLIVEにてサニピが披露した楽曲では体調不良で出演できなかった一ノ瀬怜役の結城萌子さんのパートは音源から差し込まれていた。

なおかつ、モニターに麻奈が本曲を歌う3DLIVE映像を流して、琴乃・さくら・麻奈が揃ったバージョンとして演出も出来ただろう。

でも、それをしなかった。麻奈と神田さんの要素を入れる事へ踏み込まなかったのは麻奈と神田さんを慮って尊んだからだろう。彼女達を超えなければ、琴乃と橘さん、さくらと菅野さんは未来の刻へ進んでいけない。

 前にも書いたが、この『IDOLY PRIDE』というコンテンツは星見の10人が中心になって輝いていかなきゃいけないと。そして10人の先頭に立って引っ張っていく存在が琴乃と橘さん、さくらと菅野さんなのだ。そんな命運を背負って戦っている彼女達が謳う本曲が弱いワケがない。

 

 

 

Chapter3/絶唱、魂とPRIDE重ねて……

 

 このアクトに臨んだ橘さんと菅野さんの決意と覚悟はどれほどのモノだったかを推し量る事は見る側の人間には到底及ばないだろう。特に、菅野さんが麻奈の楽曲をLIVEで実際に謳うのはこれが初めてだった。いろいろな想いやプレッシャーは当然あったのは想像に難くない。勿論、橘さんも同様だっただろう。

でも、ステージに出たらもう止まる事は許されない。チープな物言いになるが彼女達は肚括った。ストーリーで琴乃とさくらがいろいろな困難を乗り越えて来た様に、橘さんや菅野さんもいろいろあったから成長した『今』の姿がある。

 しかし、前述した様に本曲はあらゆる意味で重い楽曲。謳うには想像を絶する覚悟と胆力が求められると言っても過言じゃない。 それでも……橘さんと菅野さんは答えを胸に抱いてステージに立った。答えを導き出すまでにどれほどの苦悩と葛藤があったのかは何も言えない。これは橘さんや菅野さんにしか分からないだろうから。

さくらは言った。『song for you』という楽曲は、それぞれによって違う意味のある楽曲だと。

 

大切な人を想う歌、決意と自立を誓う歌、数多の縁に感謝を伝える歌、親愛の情を示す歌……いろいろな解釈が出来る楽曲だが根本にあるのは、ありとあらゆるモノに対して想いを贈る歌なのだろう。それがあって繋げられるし未来を照らしていける。

 そういう過程を乗り越えたからなのか、徐々に彼女達の歌声があらゆるしがらみから解き放たれ力強く清廉なモノになっていった。技量云々じゃなく捨て身な剥き出しの情念で伝えたい想いがあった。貫き通したPRIDEと生き様があった。『今』この刻の瞬間の姿を麻奈と神田さんに見て欲しい願い。四人の歌声、想いと魂が螺旋の様に交差していき、ラスサビでの長瀬琴乃と橘美來、川咲さくらと菅野真衣の歌声は……

 

 血の流れる魂の絶唱の域へと昇華していった。

 

 琴乃と橘さん、さくらと菅野さんがここまで来るのに変わっていった事は数え切れないほどあっただろう。でも、変わらなかった事もある。前述で触れた様に本曲は様々な想いが重なっていって重厚な楽曲に仕上がっている。ただ、その中でもキャラクターとキャストを繋いでいる絆は特に固い結び付きの様に思えてならない。

 間奏が終わる直前、二人の表情がアップになって映された。二人共に微笑んでクライマックスへと臨む。その笑顔が本当にいい貌をされていた。全ての雑念を振り払ってただ本能のままに謳う。所謂『ゾーン』の扉の先へと踏み出せたのだろう。この四人なら何も怖くない。遙か遠くまで歌声を届ける事が出来る……みたいな事を思っていたのか?『顔で歌う』という喩えがあるが、彼女達のラスサビでの魂の絶唱はまさに『顔で歌っていた』そうじゃないとあの絶唱にはならない。本当に圧巻で魂が囚われた……

 

 異論反論は承知の上だが言わせて欲しい。四人の魂の絶唱が折り重なった瞬間……『song for you』という楽曲は、麻奈の手から巣立って真の意味で四人の楽曲になった。

とは言え、四人の楽曲へ新生は果たせたが本家である長瀬麻奈が謳う本物の『song for you』にはならない。それは、長瀬麻奈と神田沙也加にしか謳えないOnly oneでありSpecial oneの楽曲なのだ。コレは誰が謳っても超えられないモノだ。

 ただ…その真実を踏まえても、長瀬琴乃と橘美來、川咲さくらと菅野真衣があの刻と場で謳われた『song for you』も、この四人にしか謳えない四人だけの楽曲であるという説得力に満ち溢れていたのだ。

 

 

 

Last Chapter/夢の終わりに

 

 アンコールでのMCにて、橘さんと菅野さんが『song for you』を歌った時の心情を語る言葉が、新訳・『song for you』の真髄になっていると自分は思えてならない。

 

菅野さんはいろんなモノを超えてきた『今』のさくらとしての歌声で歌わせていただきました」そして……「アイプラは今までいろんな事がありましたが…」と語る彼女の言は本当に重い言葉だと思い知らされた。

 

「私も今日、真衣ちゃんとさくらと琴乃と一緒に歌えて凄く心強かった」と橘さんは語った。さくらのみの歌声、琴乃のみの歌声だけでは、それぞれのバージョンをなぞっていたに過ぎなかった。勿論、それはそれでエモーショナルな感動を揺り動かされただろうが、新訳の域までは辿り着けなかった。あれから刻が経ち……改めて映像で見返して心の底から思うのだ。

 

 川咲さくらと菅野真衣長瀬琴乃と橘美來による新訳・『song for you』が聴けて本当に良かったと。 

 

 麻奈の手から離れて、新訳として新生されたことによって本曲の物語は終焉を迎えた。でも、ここまでに書き殴ったモノが完全に正しいというつもりは無いし、そもそも楽曲の解釈ってのは正解や満点は無いモノだと思っている。あくまでもコレは自分の当時の記憶による記録とリリースされたLIVE映像を観て照らし合わせて導かれたインプレッションを解釈として落とし込んだに過ぎない。

本曲に限った話じゃないが、楽曲の解釈は奥深いモノ。でも、本曲は他のアイプラ楽曲よりも様々な側面からの解釈が出来る懐の深さを持ちその深さもかなり深い。数多の解釈を受け入れるだけの下地がメチャクチャきっちりと考えて作られた楽曲だと思い知らされた。

 

 これから先の未来の刻にて……四人によって歌い継がれる新訳・『song for you』が深化を遂げて、また新たなインプレッションが我々の魂に刻まれるかもしれない。その刻と機がまた来る事を願いつつ……この支離滅裂な怪文書の締めとさせていただく。