巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #16 EVERYDAY! SUNNYDAY!

 

youtu.be

 

 

 

 EVERYDAY ! SUNNYDAY !/サニーピース


 TVアニメ第10話挿入歌。この回で描かれた『NEXT VENUSグランプリ』セミファイナルにて、サニーピースが歌った楽曲。



 完全な私見の域ではあるが……この楽曲は、楽曲単体だけではその魅力は完全には伝わらない。50%程だと思っている。(勿論、楽曲のみでも素晴らしい楽曲ではある)作中でサニピが紡いできた物語とこの楽曲のMVが組み合わさっていく事によって、サニーピースにしか謳えないサニーピースだけの『アンセムの域へ昇華する楽曲なのである。

この楽曲は、サニピの物語とMVで描かれるモノを考慮せずに聴いてみると、『SUNNY PEACE HARMONY』の系譜に連なるスタンダードなアイドルソング。言うなれば、アイドルがファンに向けて歌い、元気付ける太陽の様な輝きを持った楽曲。当然、そういった面があるとは思うしその解釈でも何ら問題はない。

しかし、前述の通り、サニピが作中で紡いできた物語と、国宝指定されたMVで描かれる世界観が加わるとこの楽曲はまた違った表情を見せてくれる。



 アニメ9話において、さくら達サニーピースは長瀬麻奈が遺した幻の楽曲『song for you』を歌った。その際にさくらは、受け継いだ麻奈の歌声で歌うのは『song for you』をもって最後にすると決めた。そこには、麻奈への感謝の念と、麻奈の歌声からの決別が含まれていた。

そんなこんなで、さくらは『長瀬麻奈』という幻影の先に広がる未知の軌跡への一歩を踏み出す事が出来た。そして、サニピの他の四人(怜、遙子、千紗、雫)も、さくらの変わろうとする想いと覚悟を知って、ここから先は、これまでみたいにさくらの歌声に依存していくのではなく、サニーピースのメンバーとして、これまで以上にきっちり輝かなくてはという想いと覚悟が芽生える。

変化の刻を迎えたサニーピースは、彼女達の新たな門出としてそれを証明するために、五人が作詞と振付を担当したこの楽曲を携えて、『NEXT VENUSグランプリ』のセミファイナルのステージに臨む。
そして、さくらにとってもこの楽曲は、麻奈の歌声ではなく川咲さくらの歌声で歌う初めての楽曲でもある。自分の想いと魂をさくらにしか出せない歌声で歌う。


 さくら、怜、遙子、千紗、雫は、この楽曲の詞にどんな想いと魂を込めたのか。
それを紐解いていくキーワードとなるのが、詞にある『みんな』と『君』という言の葉だと考えている。

この楽曲のMVは、五人の過去を主軸として描かれていく内容となっている。
ソロアイドルとしてデビューを果たしたが、チャンスに恵まれず不遇と雌伏の刻を過ごしていた遙子。ダンスの全国大会で優勝という成果を出しても、父親に本気を認めてもらえない怜。遙子と怜はそんな中でも独りで闘って来た。1番の歌詞は、この二人の心情描写に沿ったモノになっている。

アイドルに憧れを抱くけれど、根暗かつ無口で笑顔が苦手な自分にアイドルは務まらないと諦観の念に苛まれていた雫。内気な自分の殻を破りたいという想いを抱いてアイドルを志すが……同じ軌跡を共に行く最愛の姉・沙季と一緒にいられる方のウエイトに傾いていて、その姉と違うグループに組み込まれることとなり、真に行くべき軌跡を見失ってしまった千紗。

千紗と雫は、アイドルとして自分の力では立ち上がって歩く事も出来なかった者として描かれる。彼女達の人物考察の記事でも書いたが、千紗と雫は互いを思いやって支え合いながらアイドルの軌跡を駆けて来た。2番サビの『出逢えてよかった そう思えるかな』の節は、アイドルとしての彼女達の関係性を示すのに相応しいと思えてしまう。



 そして、その巡り逢いの縁という環の中心にいるのが川咲さくら。
ここまでは、怜、遙子、千紗、雫が過去に抱いていた葛藤、不安、挫折といった『負』の感情を盛り込んで来た。他の四人と同様にさくらも例外ではなかった。

川咲さくらという少女は、天真爛漫で天性的とも言える明るさを持って人を惹き付けていく。まさしく太陽の様な輝きを持つさくらではあるけれど、彼女も内に抱えている負の感情があった。

幼い頃から心臓に病を抱えて、普通に生きるという事も困難だったさくら。そのせいで、立ち上がって歩く事も、闘うステージに立つ事すら出来なかった。でも、生きる事は諦めなかった。

そんなさくらの生きようとする強い想いは奇跡を呼ぶ事になった。長瀬麻奈の心臓を移植されて彼女は生命を繋ぎ止める事が叶い、過酷なリハビリを経て普通の生活が送れるようになって……アイドルへの軌跡を踏み出し、サニピのメンバーと巡り逢った。



 始まりのあの夜に 見つけた小さい花

 空の青さに似てた 君にも見せたいな

 いつかは (1,2,3 GO!)


 ―サニーピース 『EVERYDAY! SUNNYDAY!』より引用

 


 ここの節で言う小さい花は、アニメ5話や10話で着ていた衣裳のアクセサリーとなっていたネモフィラの花という解釈で良いと思う。自分は、このネモフィラの花はサニーピースの絆のシンボルだと思っている。また、夜というのは彼女達が過去に囚われていた負の感情の比喩。

事の詳細は割愛させていただくが、事務所の近所で咲き誇っているネモフィラの花畑で結束を深めたサニピ。これは完全な妄想になるが……円陣でさくら達がやっているピースサインを寄せて星型を作るのは単に輝く星を目指す意味もありつつ、星に形が似ているネモフィラの花という意味もあるのかもしれない。



 『みんな』というのは、今の刻にいるサニーピースのメンバー全員を示していて、『君』というのは、今の刻にいるサニピのメンバーが、負の感情に囚われていた過去の彼女達自身を示していると解釈させてもらった。その解釈に至った要因は、語りかけていく様な詞の構成になっている事だと思っている。

さくら、怜、遙子、千紗、雫の過去、今、そして未来の刻へ……彼女達を取り巻く全ての時間軸と縁と絆。それら全てに意味がある。負の感情に囚われている過去の彼女達を、今の刻を生きる彼女達が手を差し伸べて輝く未来へ導く様に……

そんな過去があったから、今の彼女達が強く輝ける事にも繋がる。MVで描かれるサビ前のパートのカットで、瞑っていた瞼を開くと五人の双眸がそれぞれのイメージカラーで眸が彩られていく所は、彼女達の決起の魂が輝いていく様に思えてならない。この箇所はMVで最も好きな場面だったりする。

さくら、怜、遙子、千紗、雫。誰一人欠けても駄目だし、この五人の組み合わせでなければ『サニーピース』として成り立たない。他の誰でもない、この五人でしか響かせられないHARMONYとアイドルとしての生き様とも呼べるPRIDEがあった。



 この楽曲は、五人が辿り着いた一つの到達点。だからこそ……彼女達が謳う『今』には力が漲っていて、サニーピースにしか謳えないサニーピースだけの『アンセムとして段違いな説得力を持って我々に訴え掛けて来ているのかもしれない。