巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #19 The One and Only

 

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 The One and Only/月のテンペスト


 TVアニメ第11話挿入歌。この回で描かれた『NEXT VENUSグランプリ』セミファイナルにて、月のテンペストが歌った楽曲。音源は、各種ダウンロード・ストリーミングサイトでの配信及び、2ndアルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [約束]』に収録。

 幻想的で煌びやかな風情があり、なおかつ、月ストの物語の集大成を思わせる様な壮大さを醸し出している曲調。まるで、あらゆるしがらみやら迷いから解脱した五人の魂が嵐が過ぎ去った後の夜空を翔けている様な清々しさを感じさせる。そこに、月ストの五人の歌声が楽曲に血を流す。

この楽曲において、彼女達が意識しているのか、もしくは歌う際に受けたディレクションなのかは分からないけれども彼女達の歌い方として印象深いのは、歌詞を紡いでいる言葉を、優し気に寄り添い大切に語りかける様に歌っている事だと思える。

その語りかける対象として真っ先にイメージされるのは、月ストのリーダーである長瀬琴乃だと考える。TVアニメ版の全体的なストーリー展開の主軸を担っていた要素は、麻奈、琴乃、さくらに関わっている縁(因縁・因果)。

その中で琴乃は、長瀬麻奈の幻影という因縁と呪縛からの解放(=自立)という成長のテーマが存在している。曲題に銘打たれた『The One and Only』の和訳である唯一無二とは、琴乃が悩んで必死に抗いながらも、麻奈の幻影の先が見えて踏み出せた末に掴んだ答えであり、アイドル・長瀬琴乃としての未来への誓いの言葉でもある。それを象徴していると思えるのが以下の節だと思っている。
  

 誰かの真似じゃない自分の場所探せ

 『追いかける』じゃなくて自分の道歩め

 
 ―月のテンペスト『The One and Only』より一部引用


 長瀬麻奈の替わりではなく、長瀬琴乃としてきちんと輝くという事。
その答えを掴み取れたのは同じグループを組んでいる、渚、沙季、すず、芽衣という巡り逢いの縁がもたらした要素。それと、月のテンペストでトップアイドルを目指すという月ストの五人にしか描けない物語であり彼女達だけの夢という捉え方も出来ると思う。

ただ、彼女達は最初から強かったワケでは無かった。詞にある様に何度もつまずいて立ち止まっていくつかの傷を負う……でも、刻を経て、その傷跡も意味のある愛おしいモノとして彼女達は受け入れる程に強くなった。

そんな琴乃達の生き様を宿したキャスト側五人のボーカルは、優し気で寄り添うかの様な『静』の極致から、一転してサビで澄み切った夜空を翔ける解放的な『動』の極致へと抑揚を聴かせ、彼女達の歌声の力強さに感服させられる。

 冒頭でも言及したが、この楽曲は月ストの物語の集大成を思わせる楽曲。
アイドルとしての居場所を見つけ、輝く事の意味を知り邁進する叩き上げの魂を謳う『月下儚美』。仲間との絆と違う輝きも許容する深愛の情を謳う『Daytime Moon』。そして……自分らしく自分の道を切り拓いていく意思を謳う『The One and Only』。月スト楽曲の系譜にあるこの三曲の詞を読んでいくと、作中での月ストメンバーの境遇や心情に寄り添ったモノになっている。

それぞれが『唯一無二の輝き』を見出して、仮に彼女達の軌跡を遮るモノがあったとしても、信念をもって駆け出し、強靭な意思で天を駆け上がろうとする様が劇的に描かれている。

 コレは、自分の暴論&妄想の域でしかないのだが……どこかこの楽曲は、キャラクターの魂とキャストの魂がリンクしていく印象が強い。長瀬琴乃、伊吹渚、白石沙季、成宮すず、早坂芽衣によるキャラクターソングであるものの、彼女達を演じる、橘美來、夏目ここな、宮沢小春、相川奏多、日向もかの視点や現状とも多分に重なり合っている様な……双方の境界が混ざり合って曖昧になる様な感覚に魅力を感じる。以下の節は双方の繋がりの強さを謳っているのではないだろうか。

 

 一番側にいた 君がいてくれた
 
 迷いない笑顔の理由 月の光


 ―月のテンペスト『The One and Only』より引用


 『君』とは様々な解釈が成り立つが、キャラクター達からキャスト側へ、そして、キャスト側からキャラクター達へ……双方への掛け替えない巡り逢いの奇跡への感謝を謳っている様に感じさせるエモーショナルな感情を揺さぶられる素晴らしい楽曲。

ただし、この楽曲にきっちりと血を流せるのは、長瀬琴乃、伊吹渚、白石沙季、成宮すず、早坂芽衣であり、橘美來、夏目ここな、宮沢小春、相川奏多、日向もかにしか出来ない。単なる技術だけではなく、そこから的確な感情表現や感情描写へ結実して歌声の昇華へと至る。

 セミファイナルにて、サニーピースが歌った楽曲『EVERYDAY! SUNNYDAY!』が、サニピを取り巻く全ての縁と時間軸に意味を持たせるサニピにしか謳えないサニピだけの『アンセム』であった様に、月ストが歌う『The One and Only』も、月ストにしか謳えない月ストだけの『アンセムであり、または“生命の謳”と称して過言ではないと思っている。


 だからこそ、この楽曲は、誰のモノではない、月ストの為の月ストの『唯一無二』な楽曲であると納得出来る事実がここにあって、聴く人の魂を揺り動かすのだと。