巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

音色の輝石が紡ぐ未来を斯く語る~後編(琴乃&さくら編)

 この怪文書前回の続きなので…このイベントのあらすじ等は省かせてもらいます。

 

前回の怪文書では『音色の輝石が紡ぐ未来』における佐伯遙子と長瀬麻奈の心情と行動にクローズアップした考察という名の妄想を書き殴りました。で、後編になる今回は…いよいよこのイベントストーリーの本丸となる、長瀬琴乃と川咲さくらの心情と行動についての所感と考察を書き殴っていく。(多くの妄想込みww)

 前編同様、所感と考察につきましては、個人の思考や所感から導き出した一つの考えになっています。当然ながらここから書いたモノが絶対に正しいとは言えませんので、あくまでも個人の所感や考察の一つとして捉えていただけたらと嬉しく思います。

 

 

 

 

PRIDEと嫉妬と焦燥…


 まず、シナリオイベントでの琴乃の状況&心情について語っていく前に、メインシナリオである『東京編』のクライマックス(スリクスさんと殴り合って負けた…)~『BIG4編』の10話辺りでの琴乃の状況&心情に触れておきたいと思う。(詳細まで触れるとクソ長くなってしまうのでざっくりと…)

『I-UNITY』のセミファイナルにて、月のテンペストは当時の『BIG4』の一角に座していたⅢXと戦うが……結果、敗北してしまった。この時点で月ストが持っている以上の力…即ち、限界を超えた力で挑んでも勝てなかった。その一方、ファイナルに進出したサニーピースは、見事にスリクスさんに殴り勝ち…入れ替わって新たな『BIG4』の座に就く。

そんな輝きを魅せたサニピに対し、琴乃は仲間として誇らしく喜ばしい事ではあったけれど……同時に、さくらとの明確な『差』というモノを突き付けられてしまった。それが『遠いなぁ…』という琴乃の台詞に集約されている様に自分は感じた。

 そんな琴乃と月ストは新章となる『BIG4編』で大苦戦を強いられていた。絶好調のサニピはもとより、TRINITYAiLEやLizNoirもサニピの勢いに続く様な活躍をしている。対照的に結果が付いて来ない月ストが焦るのは無理もない話。特に、リーダーの琴乃は重症の域まで落ち込んでしまった。誰のせいでもないのだが…琴乃はスリクスに負けた責任が全部琴乃自身の至らなさという感じて背負ってしまったのだろう。

さくら(=サニピ)は、彼女達なりのアイドルとしてのアイデンティティを導き出しスリクスに勝った。琴乃(=月スト)はアイデンティティを導き出せずにスリクスと戦った結果敗れた。さくらとサニピは、琴乃と月ストが負けた壁の向こうへ立って駆け続けている。

真に行くべき道を見失って迷って琴乃は完全に悪い意味で揺らいでいた。それが数多の並みのアイドルに埋もれるという評価になってしまった。ここまでの流れがメインシナリオ(『東京編』のクライマックス~『BIG4編』の10話辺り)にて描かれていたモノ。

 そんな絶不調の状況&心情にある琴乃にはお構いなしに…このイベントストーリーで描かれる歴代の『NEXT VENUSグランプリ』優勝者による祭典の出演が決まり、十人全員でのステージで麻奈の楽曲を歌う流れに。

ただ…琴乃の心中は穏やかじゃない。姉・麻奈の楽曲を歌う事は勿論、サニピと一緒に歌うのは嬉しいと思うのと同時に、今の月ストへの世間の評価から力不足である事を痛感している。琴乃にとって、今一番自分から遠ざけたい存在がさくらとサニピだからだろう。正々堂々とさくらと並び立って競い合う段階にいれない自分に腹立たしく、情けなく、悔しい。琴乃のPRIDEはそれを許してくれない。

それは、琴乃自身が乗り越えないといけない事だと痛感している。でも、どうしていいのか全く道が見えない。そんな時、月ストをバッシングした動画を観てしまい追い打ちを食らう……冷静だったら意に介さなかっただろうが今の琴乃はまともな状態じゃない。あなたに何が分かるのか?!と思っているだろうが、現状の世間の認識では、月ストはサニピより明らかな格下として見られ評価を下されている。


 そんなぐちゃぐちゃな心模様の琴乃を救う為にある人物(さくら)が動く。

 

 

 

 持つ者の宿命と苦悩と真に届けたい謳


 琴乃とは対照的に、勢いそのままで邁進し続けているのがさくらとサニピの面々。
絶好調ではあるのだけどさくらの心中は穏やかじゃなかった。その原因は琴乃の絶不調ではないだろうか。純粋に彼女は琴乃の事を本当に心配しているし、不調を乗り越えて凄い所に立てる事を誰よりも信じている。立場は変わったけども、人に寄り添える優しい魂は何も変わっていなかった。

琴乃の力になってあげたい。でも、琴乃はさくらを近づけたくない。さくらの方からしたら、出逢ってからここまで一緒に頑張って来たのに、琴乃は何も打ち明けてくれない事への悲しみを抱く。

前編でも触れたが、さくらの悩みを聞いた遙子は、身近にいるからこそ話せない事があって、今の琴乃がさくらへ抱いている感情の正体(さくらへの嫉妬と琴乃の悔しさ)をさくらへと告げた。そして、当時拗れていた遙子と麻奈との関係を繋ぎ止めたある力業についても……

 琴乃を救う役割をさくらが担うワケだが…それは一旦置いて、このイベントストーリーと時間軸を同じくする、期間限定ガチャ☆5アイドル『太陽は光耀と共に』川咲さくらで描かれたさくらの心情について勝手に語らせてもらう。このストーリーで描かれたさくらも、琴乃と同様に苦悩を抱えていて、さくらの心情の掘り下げ方がまた見事だったと思える。

光耀とは光輝くという意味の言葉らしい。この場合、さくらにとって光輝くモノの最たる存在は、彼女の生命を繋ぎ止めた恩人であり、アイドルとして偉大な先輩に当たる長瀬麻奈の事だと自分は解釈している。

イベントシナリオでは、月ストと一緒に麻奈の楽曲を歌うといった流れになった。そんな世間の声はこんな事を放っている。長瀬麻奈が成し得なかった『NEXT VENUSグランプリ』優勝とBIG4への昇格を果たしたサニーピースは名実ともに長瀬麻奈を超えたと。

 当のさくら達は、麻奈を超えたとは微塵も感じていないし思ってもいない。ただ、世間の声ってヤツは無慈悲で無責任なモノで常に何かと比較したがるモノ。それは人の性でもあり業の一つなのかもしれない。しかし……さくらの寄り添える優しい魂がネガティブな方へと傾いて揺らいでしまう。

一度は気にしないで自分らしく謳おうと決めたが、膨れ上がる期待の声はその勢いを増していって、後ろめたい気持ちになってしまったさくらは、歌う楽曲の変更を牧野に頼む事態にまで発展してしまう。

稀代のアイドル(麻奈)の歌声と遺志を受け継ぐ格好になったさくら。(麻奈の歌声は封印したが)言い換えれば後継者でもある。誰でも簡単に継げるモノじゃない。そういう宿命の星の下に川咲さくらは生まれて今の刻を生きている。この悩みはさくらにしか分かり得ない特別なモノ。誰とも…実の妹の琴乃でも分かつ事が出来ない。さくらが自身の力で乗り越えるしかない。

揺れて、道を見失いかけたさくらに、牧野は麻奈だったらこう言っただろうという言葉をさくらに贈る。

 


超えたとか超えないとか、周りの人の声に踊らされないで

歌を届けたい人のことを思いながら歌えばいいんだよ

 

 

 どう謳うかじゃない。ただ純粋に届けたい人へ偽りの無い真剣な想いで謳えばいいと。
そもそも、さくらは麻奈と比較する為だけに謳って来たワケじゃなかった。過去の偉大な先人を消し去る事は出来ないが真に競うべき相手はそこじゃなかった。ずっとさくらの近くにいて今は差があるけれど、琴乃と月ストは必ず追いついて真っ向勝負する機と刻が訪れる事を世界中の誰よりもさくらは信じ続けている。


 そして…さくらは謳う。ありったけの想いと魂を込めて……このイラストのさくらが笑顔全開で謳っている姿は、個人の主観の域でしかないが……色んなしがらみを乗り越え完全に吹っ切れた様な…これまでのさくらとはいい意味で違った笑顔の様に思えてならない。

 

 始まりを告げるとんかつ~本音で話すこと、それだけのこと


 遙子から、麻奈との関係を繋ぎ止めた力業について聞き寮に戻ると、月ストのバッシング動画を観てショックを受けてしまった琴乃が自室に閉じこもったという事を聞かされた。

(そのバッシング動画については、さくらもキレていたが…)


そんな琴乃の様子を見に行く役割をさくらは買って出た。今行かなきゃ絶対後悔するという想いを胸に秘めて。麻奈同様、こうなった時のさくらも強い。彼女の諦めの悪さは筋金入りなのだ。(ちなみにこの時、部屋に引きこもっていた琴乃は牧野と電話中だったりする)

最初は、普通に呼びかけていたさくらだが……三回ノックしたら勝手に部屋に押し入ると宣言して強引に踏み込む。(って言うか、ドアに鍵無ぇのかこの寮は?というツッコミは野暮なんだろうなwww)

そして、さくらは琴乃をデート(腹割って話そう)へと誘うが…琴乃は頑として拒む。この辺りの攻防はコミカルな要素も踏まえつつ可笑しな流れになってるが、さくらの一歩も引かない姿勢と何としても琴乃と話す機と刻を勝ち取るという強固な意志を感じさせる。

そんなさくらの気迫と純粋な想い(という事にしておこう)に根負けした形になった琴乃。あくる日、二人はさくらのお気に入りのとんかつが名物になっている喫茶店に向かい、とんかつを食べ、二人だけでゆっくりと対話する久しぶりの刻を満喫する。琴乃は、さくらに心配をかけてしまった事を素直に詫び、なおかつ、あえてさくらと距離を置いていた理由を打ち明けた。

 その理由は、さくらとサニピへの嫉妬から来るモノであり、それは今も持ち続けていると。
そんな事を考えたり目を向けるのが無意味だってのは理屈じゃ分かっている。でも本能はそうはいかなかった。近くにいるからこそどうしたって目に入ったり知ってしまう。だから遠ざけようとした。でも、祭典で共演するからにはそうもいかない。

さくらとの差を意識すればする程、負のスパイラルへと陥ってしまう。ただ、そんな中でも琴乃の振る舞いが素晴らしいと思えるのが、抱いている負の感情がある事を受け入れ、それから逃げずにきっちり向き合えていた点だろう。さくらへの気遣いもあっただろうし。

で、さくらの方も偽らざる想いを打ち明ける。琴乃や月ストがもがきながらも必死に抗って成長している姿に焦りを抱いていると。琴乃がさくらを一番近くで長く見ていた様に、さくらも琴乃を近くで長く見ていた。『月ストは……琴乃ちゃんはずっとライバル』という彼女のストレートな言葉は今の琴乃にもの凄く響いた言葉で、最上級の肯定の言葉でもあった。

 よく、時勢の波に上手く乗れて勢いのある人を『持っている者』と評される。その観点で見るとさくらとサニピは何か『持っている者』なのだろう。
一方で、琴乃と月ストは『持たざる者』というレッテルを世間から貼られてしまった。

でも、そうじゃない。琴乃はさくらに無い何かを、月ストもサニピには無い何かを確実に持っている。琴乃と月ストが何を持っているのかを見極めてちゃんと掴む為に自身と向き合う事。それが日々の努力なり挑戦し続ける事に繋がっていく。

 琴乃とさくらは互いに偽り無い本音をぶちまけた。遙子と麻奈の時と同様で、今の琴乃とさくらに最も必要だったのは、互いを気遣い取り繕った言葉じゃない。偽らざる本気の想いがもたらす言葉だったのだと。

単純な嫉妬と対抗意識だけじゃなく、琴乃はさくらの立場が変わった事によって、彼女の琴乃を見る目までも変わってしまったと思い込んでしまってそれが怖かったのかもしれない。生まれてしまったさくらとの距離感は琴乃が言った『遠いなぁ……』のもう一つの意味でもあったのではないだろうか。

でも、それは琴乃の完全な杞憂だったワケで、さくらの本質は出逢った頃から何も変わってなかった。さくらはただ琴乃と思う存分話す刻と機を望み、本気で手を差し出していた…それだけだった。だからこそ琴乃も手を差し出せた。

 魂の告白を経て、お互いの気持ちが同じ方向に向いて本当の意味で対等になった。
さくらの一歩踏み込んだ勇気と、琴乃のありのままを曝け出した勇気が織りなすとてつもない説得力のある言葉の掛け合いから感じる事が出来た。

 

 

 復活の刻~望んだ空へ……


 さくらの強引な力業(とんかつデート)を経て、復活の刻を迎えられた琴乃。
彼女が諦めずに動いて琴乃ときっちり話せた事によってそれ(琴乃の完全復活)は叶ったのは疑い様の無い真実ではある。

ただ、琴乃も悶々と独りで抱えて立ち止まっていたワケじゃなかった。躓きながらも何とか前のめりになって懸命に進もうと動く事を諦めなかった。期間限定ガチャ『月光惑う光耀の幻影』長瀬琴乃のストーリーでは復活までの軌跡…つまりは、このイベントストーリー『音色の輝石が紡ぐ未来』においての琴乃視点でのストーリーが描かれた。

その内容は、祭典(事の詳細は前編参照)で麻奈の楽曲『Gemstones』を月スト&サニピで謳う事になり、合同レッスンに励んでいる琴乃だがレッスンに身が入らない。そこで彼女は、牧野に相談を持ち掛ける所から始まる。

 前の項でも触れている様に、琴乃はさくらとサニピに対しての嫉妬や琴乃自身が思う様に輝けていない事への悔しさから来る焦燥感と劣等感に苛まれている。琴乃の悩みを一通り聞いた牧野は、『そうやって悔しさを持っているうちは大丈夫』『溜め込んだ気持ちを前に進むための燃料にしてしまえばいい』と諭す。

特定の相手への嫉妬や抱える悔しさというのは確かにネガティブな負の感情。そこから滾るエネルギーはとんでもないモノで、時に人が制御出来るキャパシティを超えて暴走させてしまうが、変換してちゃんと制御出来れば成長の大きな手助けになり得る。

 それを聞いた琴乃は、最初はちょいと戸惑う感じの表情を浮かべていた。おそらく、反骨心を成長へのエネルギーに変換して良いという発想は、琴乃にとって新鮮なインプレッションだったのかもしれない。でも、その気付きは琴乃の復活に必要なプロセスの一つだった様に思える。

 そして、さくらの強引な力業で連れ出されたとんかつデートにて、琴乃は勇気を振り絞って思いの丈(さくらへの嫉妬と現状の悔しさ)を曝け出せたのも、復活への重要なプロセスなのは言うまでもない。

 で……そのとんかつデートの後、牧野は琴乃をⅢXのLIVEに誘った。その会場の規模は想像していたよりも小さいモノだった。琴乃も、その会場に来たファンも、何よりもスリクスの三人も同様に感じていた。コレがBIG4から陥落したⅢXの現在地という事を痛感させられる真実があった。

スリクスのパフォーマンスを直に観た琴乃は圧倒されていた。自分達と戦った時よりも更に磨きがかかっていて、何よりも、この現状から何としても這い上がってサニピに勝つという気迫が漲っていた。反骨心をどうポジティブなエネルギーへ昇華させるのかというのは、琴乃も実践の域までは完全に理解しきれてなかっただろう。

敗北=終焉ではなく、そこから這い上がって掴める輝きがある。スリクスの気迫を直に魅せ付けられて、琴乃は勝ち続ける事も大切だが、負ける事の意味と価値がある事を知ったのだと思える。

 迎えた祭典の日。星見プロの10人のパフォーマンスはこの日一番の盛り上がりを魅せた。琴乃はそのパフォーマンスに確かな手応えと成長を実感できた。何よりも、さくらとの関係が再び繋ぎ止められたのが嬉しいと。

しかし…月ストとサニピの現状と差が劇的に変わったワケでは無い事も痛感している。パフォーマンスの質は悪いモノじゃないが、琴乃自身が心底笑えていなくて、心の底から笑えて謳える為には今のままじゃ足りない。もっと結果を出して状況を変えるしかない…と。不穏なBGMと共に琴乃の独白でもってイベントストーリーは締め括られた。

……しかし、この時の琴乃の心境はイベントシナリオ当初の頃とは全然違っていた様に思う。客観的で冷静に自分の事を見れていたし、サニピとの差に焦燥感や劣等感は払拭しきれてはいないものの、ただその差に打ちのめされていた頃の琴乃じゃなくなっていた。負の感情という燃料の正しい燃やし方を知ったから。

そして……巡り廻って、メインシナリオ最新話のラストで、琴乃が下したあの決断へ繋がった。その詳細はここでの言及は避けさせていただくが……それは琴乃や月ストにとって意味のあるモノだろうし、そうしなければいけないと感じて琴乃は覚悟を決めたと思えてならない。

 

 

 終わりに


 私見の域だが、作劇の王道的なテンプレートの一つと思われるのが、まず、勝ち続ける。その後…徹底的にきっちり負ける。そして、そこから這い上がって勝利するという流れ。

このイベントストーリーでの琴乃は、ストーリーが始まった頃、きっちり負けた段階で足踏みして止まっていた状態だった。で、散々書き殴って来た様に牧野やさくらを初めとした仲間達の協力を得て、再び這い上がる為に歩を進められた。『負けて』から→『這い上がって勝利する』この『間』の過程をこのイベントストーリーで丹念に描いたと思っている。

 ただ、この『間』の過程が人によっては引き延ばし過ぎだと捉えられる。そのインプレッションも分からなくはない。見極めを間違うと興醒めする要因になってしまう。
……繰り返しになるが、自分は前述した通り、この『間』に当たる琴乃の挫折からの復活の刻を丹念に描いてメインストーリーのみならず、月ストのある楽曲にも含みを持たせた構成は見事なモノだと唸らせていただいた。

 ただの暴言&妄想の域でしかないが……そういった想像を膨らませる事が出来るのも『IDOLY PRIDE』という作品の懐の深さだったり面白さの一端ではないだろうかと勝手ながら思っている。