『IDOLY PRIDE』を愛する皆様、ご機嫌いかがでしょうか?あかとんぼ弐号でございます。
アプリゲーム版『IDOLY PRIDE』において、3/28~4/7までの期間限定イベントストーリー『音色の輝石が紡ぐ未来』が開催された。このストーリーは、二月に開催された『IDOLY PRIDE VENUS STAGE 2023“未来”』にて初披露された楽曲『Gemstones』にまつわるエピソードが展開された。
エピソードのあらすじは……『NEXT VENUSグランプリ』の歴代優勝者が集う祭典に出演する事となったサニーピースと月のテンペスト。そこで歌う楽曲として、長瀬麻奈が生前『いつか後輩が出来たら一緒に歌いたい』と語っていたある楽曲を10人全員で歌う事に。
その祭典に向けて合同レッスンに励むサニピと月ストの面々だったが、どうにも琴乃の様子がおかしい……平然を装う琴乃の葛藤と、彼女を気遣いいろいろ動くさくら……琴乃がさくらに対して抱く感情の正体、さくらが琴乃に抱く本当の想い、そして、イベント告知画像&報酬カードに描かれている、佐伯遙子と長瀬麻奈とのある関係性……
こういった流れで、今回のストーリーは展開されていく。今回の記事ではその所感と考察めいたモノをいろいろ書き殴っていこうと思う。ちなみにこの怪文書は長くなる事が確定しましたので、前編(遙子&麻奈)と後編(琴乃&さくら)の二部構成に分けました。
※本記事では、イベントストーリー『音色の輝石が紡ぐ未来』や関連カードのストーリーのネタバレを大いに含んだモノとなっておりますのでご注意下さい。
で、所感と考察につきましては、個人の思考や所感から導き出した一つの考えになっています。当然ながらここから書いたモノが絶対に正しいとは言えませんので、あくまでも個人の所感や考察の一つとして捉えていただけたらと嬉しく思います。
持つ者、持たざる者による刻の連鎖
まず、このストーリーのキモになっていたのは、自分が抱いている『IDOLY PRIDE』の物語のキモにもなっている重要なテーマの一つである『持つ者』と『持たざる者』の心情描写が巧みに描写され、なおかつ、過去から現在の刻も絡めながら…メインストーリーである『BIG4』編にもきっちり繋がる構成に仕上げていったのはただ見事だったと唸るしかなかった。
前述した様に、このストーリーの重要人物は、長瀬琴乃、川咲さくら、佐伯遙子、そして…長瀬麻奈の四人。現在の刻を象徴する琴乃とさくら。過去の刻を象徴しているのは、麻奈と遙子。この組み合わせは『持つ者』=さくら、麻奈になり、『持たざる者』=琴乃、遙子という組み合わせになる。琴乃と遙子が当時共に抱いていたのは『悔しさ』と『嫉妬』といった負の感情であると。
この『悔しさ』と『嫉妬』がストーリーの根幹を成していたテーマでもあった。これらの負の感情は現実の我々にも存在しているモノ。ただし、ネガティブなだけの感情でもない。それを前向きで健全な燃料に変換も出来る。遙子はそれがちゃんと出来たし、琴乃もシナリオの締めではそうあろうと前を向けた。
そして、『持つ者』の位置にいるさくらと麻奈。彼女達は負の感情に苛まれた当時の遙子と琴乃を強引な力業で踏み込んで対話へこぎ着ける役目を担っていた。見下す事や見捨てる事無く、ただ本当に心配して何とかしたいという純然な想いを持って動く事を止めなかった。
麻奈とさくらに通じているのは、とにかく諦めないで絶えず動き続けられる事ではないだろうか。それは『持つ者』に必須な要素でもあると。で……琴乃と腹割って話す事となったさくらの背を押したのが、持たざる者だった遙子の経験談からというのも胸熱だった。
近くて遠きものたち……
先の項でも言った様に、このイベントストーリーの重要な役割を担っていた一人である佐伯遙子。
自分がこのシナリオを高く評価している最大の要因と言っても過言じゃないのが、これまでは断片的にしか描かれなかった遙子のソロ時代と当時の彼女が抱いていた心情描写。
彼女のソロ時代、つまりは遙子の過去だが……自身でも言っていた様に、実力も人気もなく自信が持てなかった雌伏の刻を過ごす日々だった。対称的に、デビューしてから順調にVENUSプログラムの順位を上げて快進撃を続ける麻奈。
自分の近くに、とんでもなく凄い子(麻奈)がいる。必死の全速力で駆けても背中が見えない程に速くその子は駆け続けている……単に凄いと素直に思っていたのと同じく、あからさまに態度や言動には出なかっただろうが、悔しいというのは間違いなく遙子の感情に湧いて来たモノだろう。
遙子は、アイドルとして自分に無いモノを全部持っている麻奈が羨ましかったのだろう。多分、何をしても勝てなかったのだと思う。なぜ、あの子は全部持っているのに私は何も無いのかって…もの凄く悔しかったのだろう。でも、長瀬麻奈という存在を、アイドルとしても友達としても大好きだった。大好きだからこそ、比べるし、一緒に走りたい、負けたくなかった。遙子が負けた壁の向こうに麻奈はいた。
当初は、仲が良く会話も多かったが、二人との間の境遇との差が開いていく度遙子は引け目を感じてしまい段々と会話が減っていた。ただ、そこでネガティブな感情に苛まれて腐らず攻撃的にならずに、直向きな努力を積み重ねる為の燃料へと遙子はきちんと変換出来た様に思える。自分の中にどれだけの力(才能)があるかなんて、本人にだってよく分かっちゃいないモノ。遙子は勿論の事、麻奈だってそうだし、琴乃やさくらも。
麻奈の方もまた、遙子と距離が離れていく事を実感していて気にしていた。ゲーム内にて実装されている麻奈の日記の中に、遙子を慮る記述がいくつかあった様に麻奈はずっと遙子の事を出逢ってから変わらずに思いやっていた。(麻奈から遙子への想いは後述する)
ずっと近くにいるからこそ、かえって言えないことってあると思うの
コレは、今までの様に琴乃と会話が交わせない事を悩んでいた事を打ち明けたさくらに遙子がかけた言葉。それを聞いて、今の琴乃がさくらに抱く感情を星見の10人の中で最も分かっているのが遙子だから。刻を経て繰り返された因果……遙子と麻奈が体験した事を、今度はさくらと琴乃が体験する。
遙子と麻奈の絆を繋ぎ止めた起因となった出来事を、当時の彼女達と同じ悩みを持つさくらに遙子は伝える。それはもの凄い力技だったが、さくらならきっと出来るだろうという信頼と期待が遙子の中にあったのだと思いさくらに伝えた。何よりも彼女が琴乃をこのまま放っておくワケが無いと……
ずっと一番近くで見ていた。だから信じられる
マネージャー(牧野)君の次に、アイドル・長瀬麻奈を見ていたのは私だから
―『私、決めたよ』佐伯遙子 アイドルストーリー第2話『遙子の決断』より引用
今回のイベントストーリーと、引用したアイドルストーリーとの関連は無いが…遙子と麻奈との縁の繋がりを想起させるのに相応しい台詞。なおかつ、このイベントストーリーのキモの一つであると考えられる。前述の様に遙子はずっと麻奈を近くから見ていた。それは、麻奈の方も同じで、彼女の事をこう評していた。
歌やダンスのスキルへの称賛もありながら、巡り合わせに恵まれなくてなかなか芽が出なくても、懸命に努力を重ねていく姿に…何よりも、彼女の本質である他者へ向ける優しさや心遣いに心打たれた。麻奈がこれまでに出逢ったどのアイドルよりも、遙子が一番尊敬出来るアイドルであり、おそらく、一人の少女、友達…人間としても尊敬していたのだろう。
遙子が麻奈を近くからずっと見ていた様に、麻奈も遙子を近くからずっと見ていた。遙子の方からしたら、麻奈は遠くに行ってしまった様に感じていたけど……彼女が思うよりも、麻奈はずっと近くで見ていて誰よりも遙子がアイドルに懸けるPRIDEを信じていた。今は差があるけれど、いつかきっと自分と並ぶ日が来るって願っていた。
二人共に、どうにかしなきゃいけない、話さなきゃいけないという想いはあれど…動けなかった。互いの想いがすれ違って衝突を起こして二人の絆が壊れるのが怖かったのだと。理屈ではそう思ってしまっているが……麻奈の本能はそうじゃなかった。理屈じゃない。遙子の魂に触れる為に踏み込む。
そう決意して真っ直ぐ動いた時の麻奈はもう止める事は出来ない。恐れていた想いが届けたい想いへ変わったから。何の駆け引きとかも無く、腹割って遙子と何が何でも話すと。ただし、絶対に上手くいく確証は無い。遙子が誘いに応じる可能性は未知数だし、応じても今の関係性がより悪化するリスクの方が高い……麻奈にとってもコレは賭けだったに違いない。
実際にもあるけど、単に話がしたいと誘っても素直に応じて話すとは限らない。その辺は麻奈も承知の上で動いていた。茶でも飲みながらとか、何か美味いモノでも一緒にとか、OTONAなら一杯呑みながらとか……相手の心の壁(ATフィールド)の高さを少しでも低くさせようとするいくつかの手段が古来から脈々と継承されてきている。
で、麻奈が取ったのが…美味いモノ(カレー=麻奈の好物)を一緒に食べに行こうと。まあ、単に麻奈がカレーを食べたかったってのもあるだろうがwwそれ以上に、自分の好きなモノを大好きな人と共有したかったのだろう。誘う時の麻奈の勢いは凄いモノだったと遙子は回述していた。まさしく力業。
『美味しい物を食べたらなんとかなるかなって』とは麻奈の言。その店で出されたカレーは麻奈が言う通り本当に美味しかったと。それに心ほだされて二人は言葉を交わしていった。イベント告知画像&報酬カードに描かれた遙子と麻奈の笑顔は蟠りの無い晴れやかなモノ。遙子がここで抱える悩みを打ち明けなければ意味がなかったかもしれないが…麻奈にとってそれはどうでも良かった。ただ、出逢った頃の様に何の気兼ねなく思いっきり話をしたかった。
そして、この画像で一番グッと来たのは、遙子の右目尻に一滴の涙が浮かんでいる所。
この遙子の表情は笑顔なので、悲しみによって涙が浮かんでいるという事ではないのだろう。いろいろと鬱積した負の感情を曝け出せた事の安堵からか、麻奈の他愛のない話(多分、牧野関連の話かもしれないww)があまりにも可笑しくて涙が出たのかと思われる。
いずれにせよ、遙子と麻奈は理屈抜きで対話し二人で乗り越えなきゃいけなかった。その刻は遙子と麻奈にとって誰にも割り込む余地のない掛け替えの無い刻だった。
訪れた誓いの刻と輝石の謳~
このイベントストーリーのテーマとなる楽曲である『Gemstones』。
現実の名義は、星見プロ(月スト&サニピ)10人による全体曲だが、作中では長瀬麻奈の楽曲という扱いになっている。
『NEXT VENUSグランプリ』の歴代優勝者による祭典出演のオファーを受けた月ストとサニピは、あの刻から成長した10人のパフォーマンスを魅せたいと。そこで歌う楽曲を遙子が提案したのが麻奈の楽曲である『Gemstones』だった。冒頭の四方山話でも触れたが、この楽曲は、麻奈がいつか後輩が出来たら一緒にみんなで謳いたい楽曲と言っていた。
過去に遙子も一緒に謳おうと何度も麻奈に誘われたが…当時の遙子は首を縦に振らなかった。その理由は、まだ人気も実力も麻奈に遠く及ばなくて自信が持てなかった時期でもあった。
勿論、こんな自分を誘ってくれた事が嬉しかったってのはあっただろう……でも、遙子自身が至らない自分が許せなくて悔しかったし、麻奈が世間から何言われるか分からず、彼女の迷惑になってしまう事の方が怖かったのもあったかもしれない。おそらく、麻奈への気遣いの方にウエイトが寄ってそうな感じはする。遙子にとっても麻奈は最も尊敬出来るアイドルだろうし、それは遙子の譲れないPRIDEなのだと。
何やかんや色々とあって……麻奈が不慮の事故でこの世を去り、それでも遙子は直向きに努力を重ねつつ雌伏の刻を過ごしていた。いつの日かきっと訪れる雄飛の刻を信じ、そして……麻奈が遺した『Gemstones』を後輩達と謳える刻を。遙子がずっと戦い続ける為に燃やし続けた燃料の源は、アイドルに懸ける想いと、この楽曲を歌うに値するアイドルになる事を麻奈の魂に誓ったと思えてならない(後付け感あるが…)
刻が経ち…星見プロに9人の後輩達が入って来て、遙子は『サニーピース』のメンバーになった。
麻奈が果たす事の叶わなかった『NEXT VENUSグランプリ』の優勝に、BIG4入りを勝ち取るまでに至った。遙子だけの力ではないが、遙子がいなければ叶わなかった。成果を出せた事で遙子は自信を持つことが出来たのだろう。そして、巡って来た絶好の機。
今なら、一緒に歌えるかな、私も。
遙子の言う一緒にという言葉……これには二つの意味を持つと自分は解釈した。
一つは、月スト(琴乃、渚、沙季、すず、芽衣)とサニピ(さくら、怜、千紗、雫)の9人の後輩達。そして…もう一つは、当時の自分の至らなさから誘いを断り続けてしまった長瀬麻奈に向けて。今となっては、麻奈の魂に捧げるという意味合いだろうか……そう思えたのはこのイベントストーリーの報酬カードとなる『巡る季節と色褪せない日々』に記載されたこの文面だ。
いつか私達に後輩が出来たらその時は、私と麻奈ちゃんと、後輩達と、みんなで一緒に歌いましょう?
成仏を果たした麻奈が遙子の言葉を聞く事は叶わない事ではあるのだが…それをようやく聞けてメチャクチャ喜んだと思えるのです。そして…『でも、私の方が上手く歌えるけどね』と対抗意識をバリバリに燃やして共に謳う場と刻を存分に楽しみ尽くすだろうなって。結果として、麻奈が後輩達や遙子と一緒に歌う事は叶わなかったけど、その意志を誓いとして抱き続けた遙子によって後輩達が謳い継いでくれた。
それは、遙子が勝手に抱え込んだ『誓い』だったのかもしれない。完全な妄想の域だが……でも、その誓いがあったから遙子は諦めきれずにここまで仲間と共に戦ってこられたのだろう。麻奈を超える成果を出した遙子とサニピだが、さくらがストーリー内で言っていた様に麻奈を超えたとは微塵も思っていないだろう。それは遙子もそう思っている。
今もなお、遙子の双眸には全速力で軌跡を駆けている麻奈の背が見えているのでしょう。
生と死という抗えない自然の理によって二人の間は離されたが…それまでに培った絆までは大きな力でも何人も剥がす事は出来ない。もう、遙子と麻奈にある縁の絆はガッチリと強く結ばれて普通の関係に戻れないのだ。
そんな遙子と麻奈の関係性を新たに掘り下げて描写してくれたこのストーリーへ感謝と称賛をもって筆を下ろし前編の締めとさせていただく。