巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #20 サヨナラから始まる物語

 

www.youtube.com

 

 

 

 

 サヨナラから始まる物語/星見プロダクション


 TVアニメ第12話(最終話)挿入歌。作中では、『NEXT VENUSグランプリ』同時優勝を成し遂げた、月のテンペストとサニーピースが、ウイニングステージにてこの楽曲を歌った。

この楽曲は、2020年8月30日にIDOLY PRIDE公式チャンネルで公開された『IDOLY PRIDE ミュージックプログラム #1』で発表された。作詞と作曲は、大石昌良オーイシマサヨシ)氏が担当。
IDOLY PRIDEという作品は知らないがこの楽曲は知っている。または、聴いた事があるという人は多いのかもしれない。あと、この楽曲を切っ掛けに『IDOLY PRIDE』を知り惹かれた人も多いのではないだろうか。

音源は、各種ダウンロード・ストリーミングサイトでの配信及び、2ndアルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [約束]』に収録。そして、3rdアルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [未来]』のボーナストラックにて、牧野航平(CV:石谷春貴)、三枝真司(CV:小山力也)、朝倉恭一(CV:速水奨)による限定ユニット『spring battler』が歌う『サヨナラから始まる物語(春闘 short ver.) 』が収録されている。


 曲調は、キャッチ―なメロディに小気味いいリズムを奏で爽快感満載なロックテイスト。ただ、曲題に『サヨナラ』と銘打たれている事から、単純に明朗快活なだけではなく、切なげな要素も感じさせるけれども、それを乗り越えて進もうという起伏に富んだドラマチックで、外連味無い王道的なアイドルソングとして仕上がっている印象。それは『IDOLY PRIDE』の特筆すべき物語の核となるモノでもある。

歌詞のテーマに大石氏が掲げたのは『奇跡みたいな出逢い』。それを強烈に実感させられるのは、アニメ(ゲーム星見編)のストーリーが終わって聴くと、登場するキャラクター達との縁の巡り逢いと別れを想起させていく仕掛けが組み込まれていた。


 その巡り逢いと別れを象徴する存在だと自分が解釈しているのが、作品においてスペシャルワンのアイドルである長瀬麻奈。そして、星見プロのアイドルで麻奈と繋がりが深いのが妹の琴乃。彼女の心臓を移植され生命を繋ぎ止めたさくら。幽霊となった麻奈を認識出来て交流を深めた芽衣。間近で麻奈の背を追い続け、彼女が果たせなかった成果を勝ち取った遙子。

自分の手前勝手な一つの解釈でしかないが……この楽曲の詞は、琴乃、さくら、芽衣、遙子の心情に結構寄り添っているインプレッションを抱いた。サビの一節にある『胸の奥に刺さった切なさが痛いけど』や『言えなかった言葉がまだたくさんあるよ』は、麻奈に直接伝えきれなかった想いの丈を代弁しているかの様でもある。このパートを遙子が歌っているのが何とも胸熱で激熱なエモーションを感じさせる。

麻奈と関わり合った過去の刻には絶対に戻れない。当然、麻奈だってそう。人も世界も変わっていくモノ。人は終わらないモノなど無い事を知っていて進み行く刻の流れには抗えない。だからこそ『サヨナラ』(さようなら)という言の葉でもって、一つの終着点として決着を付け、未来の刻が始まり進んでいく意志を示すのだと。そこには、巡り逢いの奇跡に感謝する意味も込められていると。


 その巡り逢いの奇跡に感謝しているのは、琴乃、さくら、芽衣、遙子に限った話じゃない。他のメンバー達も同様で、この10人にしか紡げなかった物語があり乗り越えられた事ばかり。様々な想いが彼女達の心の中に渦巻いていた。そして、この作品のテーマの一つとして掲げられた長瀬麻奈という存在を乗り越える運命を背負った者達でもある。

星見プロの10人で勝ち取った『NEXT VENUSグランプリ』同時優勝は一つの夢の終着点でもあるが、新たな夢への軌跡が始まった瞬間。それは麻奈を乗り越えた先に立つ事が出来た事に繋がり、最終話のクライマックスで謳われた事によって、10人の成長譚は集大成を迎える描写になっている。

その最たるモノが、月のテンペスト&サニーピースの『NEXT VENUSグランプリ』同時優勝という前代未聞とされる奇跡を起こした事へ結びつく。この楽曲が素晴らしいのは言わずもがなだが、1話から最終話までに紡がれて来たストーリーが組み合わさっていって、それを見て知っているとより痺れるカタルシスを得る。


 故に、星見プロの10人が紡いだ物語の軌跡の一つの到達点として『サヨナラから始まる物語』という楽曲があると言っても過言ではない。この楽曲はそんな説得力に満ち溢れた楽曲だと思えてならないのである。