巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

IDOLY PRIDE BIG4編・1章完結に寄せて。

 ゲームリリース一周年後から、三周年を迎える直前まで約二年の歳月に渡って紡がれた、『IDOLY PRIDE』メインシナリオBIG4編・1章が完結を迎えた。今回はその所感や様々な考察なんぞをして、物語を振り返っていこうと思う。

 

 

 当たり前の破壊と再生の物語


 コレは別記事でも触れていたが、この破壊と再生という要素は、BIG4編における月ストの物語の大きなキモだと思っている。

まず、破壊の要素は、東京編でスリクスに敗れてからの絶不調。それに囚われる様に月ストのアイコン(象徴)である琴乃まで絶不調に陥った事は、破壊と称しても過言では無いと思っておる。更に、破壊の衝動は琴乃だけには留まらなかった。頑張ってもどうにも好転していかない。そんな自分達の横で、好調に軌跡を駆けていく、サニピ、トリエル、リズノワに、サニピに負けてBIG4の座から陥落したスリクスも前に向かってひた走っている姿を見せつけられるワケだ。

こんなにも悩んで頑張っているのに何故ああも違っているのかって……尚更、劣等感や疎外感ってのを月ストは感じていただろう。不安や劣等感に苛まれる事は大小関わらず隣合わせなモノ。上手くいってる時は大きな問題にならないけど、そうじゃない場合はより大きくて深いモノになっていく。彼女達の様な思春期真っただ中の若者ならなおさらだ。単純に解決出来る範疇を超えてしまっていた。

 そんな時に、BIG4チャレンジと称したBIG4の一角である『どりきゅん』とバトルする流れへ。
彼女達とのバトルが破壊の第二段階だった。このバトル後に、今の月ストに足りないモノ、ちょっと頑張った程度の努力では届かないモノ、枠を壊す為に今まで踏み込まなかった領域へ踏み出す勇気……そんな考えを抱き琴乃は月ストを脱退する。グループから一人抜けるだけでも大問題だし、彼女は月ストのセンターであり、リーダーでもある。これもまた破壊と称して過言ではないモノだ。

 月ストのアイコンである琴乃が徹底的に壊されるという劇的過ぎる変化。ただ……渚、沙季、すず、芽衣はただ茫然と立ち尽くしていただけじゃなかった。四人は、月ストを続ける再生への戦いに踏み出した。各々の力で支えなきゃいけない生存本能に火が点いてこれまで以上の『我』の開放へと至り、同時に、長瀬琴乃という『呪縛』から四人が解き放たれる刻の幕開けになった。

琴乃という呪縛からの解放から、アイドルとしての自我の開放と自立といった再生への戦い。その最重要項目…月ストが真価を発揮する為に避けて通る事の出来ない『儀式』があった。それが、何やかんやの末(詳細はこちらの記事にて触れている)に、月ストに電撃復帰した琴乃との肚を割って本音をぶつけ合う喧嘩だった。月ストが真の意味で一丸になって、何でも言い合えるグループへ進化する事が、BIG4編における重要なくだりの一つ。

 ちゃんと喧嘩出来て、本音を曝け出して、互いへの愛着は深まって、ようやく真の意味で一つにまとまった月ストは互いの壁を越えて再起=再生を果たせた。この件をきっちり描いてくれた事は素直に評価したいと思う。

 

 

 月ストの『WHAT IS “IDOL”?』への答え


 この作品のテーマだと思われる言葉『WHAT IS “IDOL”?』
意訳するとアイドルとは?という意味。更に言い換えればアイドルとしての在り方とは?的な感じだろうか。自分はそういう解釈で捉えている。東京編で、月ストはこの問いに対して明確な答えを出す事が出来なかった。ただし、それは勝敗を決する絶対的なモノじゃないが……おそらく、それを持っているグループとそうじゃないグループとの差は途轍もなく大きなウエイトとしてあるのだろう。

 険しすぎる高い壁に悉く行く手を阻まれ、回り道を行く事を余儀なくされたが、その道のどれもが行き止まりで明かりもない……それでも、五人は藻掻きながらも懸命に抗って戦った。環境を変える劇的な変化を求めた琴乃、月ストを存続させる戦いに踏みこんだ、渚、沙季、すず、芽衣。どうしようもなくなっても絶対に諦めたくないという根底にあった想いとPRIDEが、最終的に探し求めていた答えに辿り着いた。

 

 

 琴乃が、四人を照らして引っ張って来たし、逆に琴乃が、渚、沙季、すず、芽衣の輝きに照らされて来た事にも気付けた。当然ながら、それは彼女達を取り巻く数多の縁ある人達も含まれている。おそらく、それはずっと月ストの中で変わらずに在ったのだろう。でも、身近過ぎてそいつに気が付けなかった……

これまで出会った大事な人達、色んな気持ちをくれた人達、遠くにいても繋がってる人たち、誰かを照らす光になれるなんて、もっと、ずっと先の事だと思ってた。でも、本当はいつだってお互いに照らし合って進んで来た事を琴乃は痛感させられ、ようやく気が付けて答えに辿り着けた。また、その答えを導き出した『場』がエモーショナル。

 このシーンは、琴乃が牧野をとある『場』に連れ出して語っていく。そこは、星見高校で麻奈(と、牧野)のクラスだった教室。そして、麻奈が天に還った場でもあった。ここなら、麻奈に想いが届くだろうという根拠はないけれども、妙な確信を抱いて琴乃はこの場を指定したのだろう。そんな琴乃の純然な想いは麻奈の声を聞く奇跡を起こした……

それは、彼女の空耳という意見もあるだろうし、ただの錯覚と片付けられるかもしれない……でも、長瀬麻奈という存在をちゃんとストーリーに組み込んで琴乃の背を押してくれた事は素晴らしいモノだと俺は思っている。麻奈は、いつの日か琴乃にアイドルとしての自分を見て欲しいと願って照らしていただろうし、琴乃も麻奈の輝きに照らされてアイドルの軌跡に踏み出して、今もその輝きに照らされている。それは、単順に血の繋がりである姉妹という枠を越えた強固な絆として彼女達を照らし合っているのだと。

 

 

 継ぐ者の戦いと身を切る決意


 やっぱり、このBIG4編・1章を振り返った際にこの人について語らないワケにはいかない。その人物は……月のテンペストの成宮すずである。

 どりきゅんに負け、琴乃が脱退して壊滅的な状況まで追い込まれた月ストは、四人での活動へと踏み切った。そんな中、琴乃が抜けたセンターの座に就く事をすずは立候補して、渚、沙季、芽衣は彼女の覚悟を汲んで快諾した。

 当然ながら、単にすず自身が目立ちたいという安易な心情からではない。彼女はそこまで子供じゃない。月ストを守って盛り立てなきゃいけない戦いでもあったし、立場を継いだ者が避けて通れない戦い…長瀬琴乃の幻影と戦う事を意味するからだ。世の目ってヤツはとことん無情で残酷なモノ。過去との比較をしてしまうのは人が避けられない性であり業でもある。しかも、すずは麻奈との幻影とも戦っている。

すずに圧し掛かる重圧と責任はこれまで以上のモノ。同じ時代に生きて共にアイドルの軌跡を歩む事を選択し、同じグループに所属し、暫定的ではあるが、センターへと登り詰めたが為に浴びせられるこの重圧はすず以外誰も経験する事のない特別なモノ…誰とも分かつ事の出来ない苦しみ、そして自分自身で乗り越えなくてはならない途轍もない高き壁と独り闘い続けて来た。

 孤独な闘いを乗り越えたすずの成長が最も濃く表れていたのが、琴乃が復帰したLIVEでセンターを一曲だけ彼女へ譲って名誉挽回のチャンスにした事や、どりきゅんとの最終決戦に勝つ為に琴乃にセンターの座を譲った事。どちらもグループの最善を想うが故の行動だ。どちらの決断も素晴らしい描写だが、特に最終決戦での決断が響いた。

四人体制の月ストを、センターとして盛り立てていった自負は当然すずの中にあったはず。でも、どりきゅんに勝つには琴乃がセンターでいた方が勝つ確率は高いとすずは判断した。まあ、納得はし切れない。認めてしまったら自分の負けを認めてしまう事でもある。それでも、大前提としてあったのは、琴乃の能力を認めてきちんと評価していたし、何よりもこの戦いに懸ける琴乃の想いを汲んでいたから。

 そして、すずは琴乃にセンターを譲った。大袈裟だが、三度目になるこの決戦はグループの生死を懸けた絶対に負けられない戦いと言っても過言じゃないモノ。立場に執着して縋りつくPRIDEは邪魔なだけ。グループにとって何が一番大事で必要なモノかをちゃんと見極めてアクションを起こした彼女の身を切った決断を素直に称賛したい。それと……すずを気遣った芽衣の優しさにも本当に胸打たれた。

四人になった月ストを守り抜く為の戦いをすずが引っ張って来た事、彼女が頑張って戦っていたから皆も一緒に戦い抜いて来れた事への偽り無い芽衣の感謝の言葉。彼女の気遣いもすずは響いただろうし、何よりも……琴乃以外に誰とも分かつ事の出来ない重圧との戦いを見ていてくれて称賛してくれた事は、すずの孤独な戦いが報われた瞬間だった様に思えてならない。

 

 

 ただ勝利の為に……


 互いに譲れない想いを抱いての最終決戦。先攻のどりきゅんは圧巻のパフォーマンスを魅せ付ける。それは自己ベストを更新した限界を超えたモノになった。この描写はボスキャラとしての面目を際立たせるモノ。

それを間近で見た五人は驚愕したものの……呑まれて気後れはしてなかった。もうこれまでの月ストじゃなかった。不遇な雌伏の刻を経て、抗い、戦って来た経験が彼女達の魂を強靭にした。それが最も表れていたのは、琴乃が言い放ったこの言葉じゃないかと思う。

 

 

 よし! どりきゅんを、ぼっこぼこにしよう!

 

 

 長瀬琴乃という子は、クソが付くほどに生真面目な性分。強い言葉で鼓舞する様な事はこれまであっただろうが、ここまで砕けた言葉で言う事は絶対に無かっただろう。どりきゅんのパフォーマンスを魅せ付けられた緊迫した状況でコレが言えたってのが、完全に肚括って吹っ切れた琴乃の魂の強さの証明だと思える。その言葉につられた芽衣がクッソ可愛かったし面白かったがwww

その最終決戦に月ストは新曲『月ノヒカリ』で臨んだ。こういう場(最終決戦)に新曲を引っ提げて来る展開は激熱なモノを感じさせ個人的には好きなモノだったりする。必死に積み重ねてきた刻。どんなに辛くても止めなかった刻は絶対に自分を裏切らない……意地、生き様、PRIDEを懸けて五人はステージに立った。

 楽曲の方は、3DLIVE映像で観た限りの話だが、柔和な感じのする沁み入る様に聴かせていく系統な楽曲だけれど、サビで一気に解き放たれる開放感は、彼女達に取り巻いていた暗雲を吹き飛ばし、一点の曇りもない清廉で澄み切った月明かりが際立つ夜空を彷彿させる。まさに、何かを…誰かを『照らす』月ストの『WHAT IS “IDOL”?』を体現した楽曲。

このインプレッションは、月ストの『生命の謳』と勝手に称している『The One and Only』と同じモノ。負けたら後の無い戦いの最中なのに、あらゆるしがらみから解き放たれた様な清々しさを五人の歌声から感じられた。フルで聴けてないので何とも言い難いが…月ストの『生命の謳』の系譜に連なる楽曲と評しても過言では無い強さと優しさがあった。

 誰にも割り込めない心躍る悔いのない戦いは……月のテンペストが勝利を掴んだ。
彼女達は、月ストへ勝者の権利を行使する様に告げた。そして、琴乃はどりきゅんに未来ではなく解散する権利を奪った。弱者を完全否定し、徹底排除していくやり方は賛同出来ないが、アイドルに懸けている想いとPRIDEは否定出来るモノではないと。自分達に敗れた者や弱者の道を照らしていく事も、月ストが導き出したアイドルの在り方だから。

力を求めて覇道を往く者は、より強い力によって打ちのめされる。コレは自然の理なのかもしれない。そんな決着を、取り乱す事無く潔く受けいれたどりきゅんの二人の姿は、本当に高潔でボスキャラに相応しいPRIDEを示してくれた。そして、ただ立ちはだかる強大な『敵』のみならず、琴乃にとっては超えるべき存在としての役割も担っていた特殊な立ち位置の二人。そんな彼女達がこれから紡ぐ未来の物語を見てみたいものである。(番外編があるだろうと勝手に期待して待っておる)



 
 ようやく追い付き、並び立った刻の到来


 数多の困難と苦悩に抗い、BIG4越えを果たして新たな座に就いた月スト。
クライマックスは、先にBIG4の座に就いたサニーピースと、エキシビション扱いではあるがライブバトルで幕を閉じる。

 身近で思い悩んで戦っている月ストを、彼女達は必ず追い付いて並べる刻が来る事を誰よりも信じて待ち続けてくれた。同じ刻に巡り逢い、共に切磋琢磨して戦って来た戦友でもあり最高で最強の宿敵。ただ、このライブバトルの模様と結末は描かれていない……

この解釈は、視聴者の妄想に委ねる余白として各々で楽しんでくれというメッセージなのかもしれないし、ステージで心底楽しんでパフォーマンスで対話をしている10人に対して、そいつをあれこれ考えて割り込んでいく事は無粋の極みなのかもしれない。

 月ストとサニピの真の決着は、本作のクライマックスできっと描かれるだろうから、その機と刻が来る事を今から待ち侘びようと思う。

 

 終わりに。


 東京編での描き方は、これまで通りに月のテンペスト&サニーピースの物語を主軸に据えつつ…TRINITYAiLEとLizNoirも加わり、そこへ彼女達に立ちはだかる強大な『敵』として、BIG4の一角であるⅢXが登場し、彼女達が織りなす群像劇的要素の強い物語だったと感じられた。で……このBIG4編・1章と銘打たれた物語では、月のテンペストのみにクローズアップされた物語が展開されていった。

 ここで描かれる月ストの物語のテーマになっていったのは、徹底的に打ちのめされた挫折から再起し逆転へのカタルシスを得る事だと思われる。ただ、その物語はすんなりとはいかない茨の道。良く言えば、月ストの揺れ動く心情を丹念に描いていたし、悪く言ってしまうとグダグダと引き延ばしてるだけにも感じられた。

そいつを踏まえた自分の所感としては、それ要らねぇエピソードぢゃねぇの?思うモノはあったし、その描写が足りないんぢゃないの?と感じた部分はあったが……肯定できて納得した部分の方が多かったので、月ストの挫折からの逆転の物語を面白く観させてもらった。個人的な総評としては、不満はあったにせよ満足度の方が勝ったストーリーだったと思う。

 その軌跡で、何度も何度も負けて……今まで五人の中にあった当たり前が壊れた。それでも、彼女達は絶対に諦めずに前だけを見て戦い続けた。壊れたのならまた作り直せばいい。道が見えないなら自分達で照らせばいい。そんなこんなで徐々に這い上がっていく過程は胸が熱くなっていく衝動に震えた。サニピの様に、困難に遭ってもとにかく勝ち続ける物語も良いが、月ストが見せた、這いつくばり、抗い続けて……それらがきっちりと報われる逆転へのカタルシスを描く物語の方が、自分はより面白く刺激的だなと改めて思わせてくれた。