巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

再生と破壊の向こう側ーBIG4編・36話~45話を斯く語る

 ―彼女達も『呪縛』に囚われた子達だった。

 


 この物語……それは、先日追加された『IDOLY PRIDE』メインストーリー・BIG4編の36話~45話を観終わって真っ先に浮かんで来たインプレッションがそれだった。

その彼女達とは、BIG4編の主軸となっている月のテンペストの四人。リーダーでありセンターでもあった長瀬琴乃がグループより脱退して、何やかんやの末に(それに至った経緯はこちらの記事で)成宮すずをセンターに据えて、四人体制による新生・月のテンペストとして活動をしていく事に。

大きな傷を負いながらも、それに屈せずに前へ進んでいく事を決断した、渚、沙季、すず、芽衣の魂の再生と戦いの物語を見た所感を書き殴っていこうと思う。

 

 ※本記事では、メインストーリーのネタバレが大いに含んだモノとなっており ますのでご注意下さい。所感と考察につきましては、個人の思考や所感から導き出した一つの考えになっています。当然ながらここから書いたモノが絶対に正しいとは言えませんので、あくまでも個人の所感や考察の一つとして捉えていただけたらと嬉しく思います。
 

 


 アイコン在りきのグループという『呪縛』


 グループでの活動は抑えながら、ソロでの活動や練習に明け暮れる四人。
牧野のバックアップと四人の努力の甲斐あって、持ち歌が一通り四人でこなせる程になった。そんな中、渚はLIVEに出演していく事を提案する。で、どうせLIVEに出るのならライブバトルを仕掛けていかないかと芽衣が問いかける。

沙季が言及していた様に、身内のLIVEでは月ストのファンの多い温かいモノ。それも良いモノだけれど、ライブバトルとなると、相手側のファンや中立的なファンもいて、月ストを見る目は当然厳しいモノになる。しかも今の彼女達はアイドル業界での注目が集まっている状態。

勿論、簡単な道じゃない。どりきゅんに惨敗した時の様にまた深い傷を負うかもしれない。でも、リスクを負ってでも戦う刻だと四人は共通認識を抱いていた。ベクトルを前の方向へ変換させた芽衣の直感から導き出された提案は、そっちの方が何か楽しいんじゃないか的なモノかもしれないが、いつかは踏み込まなきゃいけない領域。

ここでのすずの発言もまた良い。アイコン(琴乃)脱退という最大の危機を乗り越え、結束をより深めた今の月ストの力を試したい。そんな気概を感じさせる。彼女も、芽衣と同じく月ストを前へと推進させていく役割を担っている。


 そんなこんなで、ライブバトルへと積極的に挑んでいく事にした四人。勝ったり負けたりを繰り返すが、一戦毎に一喜一憂するのでなく、得られたモノや足りないモノと真剣に向き合う。そして、彼女達の本気の戦いは、五人の頃とは違って四人四様の良さがあるという好意的な評価を得る。コレは、四人が必死に本気で頑張って来た証明でもあり、確かな手応えとして自信も得る。

この自信を得るというのが、新生月ストには必要な件だったと思える。過去の失敗(=スリクスとどりきゅんに敗北)と、好調なサニピ、トリエル、リズノワに付けられてしまった差との比較に思い悩んでしまって自分達を見失ってしまった。その影響をモロに受けてしまったのが琴乃だった。

 長瀬琴乃は、良くも悪くも紛れもなく月ストのアイコン(象徴)。
そのアイコン(琴乃)が放つ輝きと熱は途轍も無いモノ。良い状態なら何の問題も無いが、悪い状態になってしまうと、四人もそいつに引っ張られてしまう危うさがある。BIG4編で月ストが苛まれていた絶不調は、琴乃の状態(特に精神状態)が極めて悪かった事と結び付く。


『以前の……五人の月ストは、傍から見ると長瀬さんに頼っている、長瀬さんのワンマンに見えていた』

 コレは、対戦した『Day dream』の上川郁実が対戦して感じた今の月ストへの評価。当然、四人がこれまで何もしていなかったワケじゃないし琴乃への無心の信頼はあった。ただ、それは芽衣が言った様に無意識で琴乃に甘えて依存してしまった事でもある。勝手な解釈だが、四人は、どこか琴乃を特別な存在として線引きして、これまでの四人は無意識に『我』を抑えてしまったとも言える。琴乃の方もまた、クソ真面目で責任感の強さ故に、自分が支えなきゃという強い思いがあった。

 琴乃が抜けたという劇的な変化は彼女達に危機感をもたらし、各々の力で支えなきゃいけない生存本能に火が点いてこれまで以上の『我』の開放へと至った。同時に、長瀬琴乃という『呪縛』から四人が解き放たれる刻の幕開けになった。

 

 

 予期せぬ再戦の刻。そして隠された真意


 月ストがライブバトルに挑みまくっていた頃、どりきゅんが生配信でBIG4チャレンジで次の対戦相手を指名した。その相手は…以前対戦した月スト。まあ、再戦する流れになるってのは予想の範疇だったが、それはもっと先の話で琴乃が月ストに戻ってからなんだろうと。まさか四人の月ストに再戦を持ち掛けるってのは予想出来なかった。

しかもこの再戦は負けイベントってヤツ。琴乃抜きでの月ストが勝つ流れは有り得ないし、そもそもやっちゃいけない展開。(実際ちゃんと月ストは負けた)

そこはまあ置いといて。何故、どりきゅんは四人の月ストに死者に鞭打つ行為でしかない戦いを申し込んだ…と言うかはワザと煽る様に再戦要求したのか?個人的には、二つの理由が考えられる。ただ、コレは自分の勝手な考察になるのでそこら辺は注意して読んでいただきたい。


 まず一つ目は、来夢とれもんが『ライブバトルで潰し過ぎた』と言っていた様に、挑んで来たアイドル達を徹底的に打ち負かした挙句、挑んで来る相手が激減してしまった事。単純な話、彼女達が言う通り、本当に挑んで来る相手がもういなくなったのも分かる。しかし……ここで疑問が湧いて来る。

作品には、月スト以外にも当然アイドルはいる。どりきゅんと同じBIG4のサニピ、BIG4に近いランクのトリエル、更にはリズノワやスリクスもいる。何も月ストに再戦を持ち掛け無くても相手はいるワケだ。彼女達の苛烈な闘争心から来る誰とでもバトル上等という気質から、サニピ、トリエル、リズノワ、スリクスに怖れを抱くのは考えられない。ただ、指名してもフラれまくったと言っていた事から察すると、そもそも受けてもらえなかった線が濃厚なのだろう。

それと、ここでは月ストを主軸にしていくというテーマが骨格になっている。他のグループまで介入した展開まで描いてしまうと物語の尺がクソ長くなるからその件までは触れないのだろう。それは、ここまでの物語で、サニピがちょいと出て来る程度で、トリエル、リズノワ、スリクスは全く介入して来なかったのがその証明かもしれない。

 挑んで来る相手もいない。こっちから指名しても受けてもらえない。そんな時に、琴乃が抜けても直向きに戦っている月ストの敗れてもなお戦い続ける気迫に興味が湧いて来た。そんな相手と純粋に戦いたいという闘争本能に火が点いたのかもしれない。

 
 二つ目は、現在どりきゅんにくっついている琴乃の為。
月ストから脱退して、更なる個のチカラを求めどりきゅんの懐へ飛び込んで、共にレッスンをしてLIVEにもくっついている琴乃。しかし、傍で見れば見るほど彼女達の凄みに圧倒されて魅了されてしまってもいた。

おそらく、それは琴乃にとって衝撃的なインプレッションだったのだろう。純然な憧れと言い換えても良い。二人のあらゆるモノを吸収したいと思って近づいたが、想像以上のインプレッションを受けて、二人へのリスペクトへ変換されてしまったとも言える。それが良いか悪いかは問題ではない。いつかは打ち負かさなきゃいけない存在だが、圧倒的なチカラと存在感に魅せられて惹かれていってる感情が釣り合っていない状態。

 そんな琴乃を見て、来夢とれもんはいろいろ思う所があった。二人は事ある度に琴乃に意見を求めた。でも、琴乃は即座に意見を言えなかったし、二人に言われる前に琴乃が意見を言う事も無かった。確かに、技術や体力が向上はしたが、根本が変わっていない以上、コイツ(琴乃)はここにいても意味が無い。来た頃の闘争心や向上心は抜け落ちていた…いわば全てを捨てる覚悟が琴乃から感じられなくなったのだろう。

 そんな折、四人でも戦い続けている月ストの事を知る。彼女達がちょうどいいと言ってたのは、琴乃が抱いてる月ストへの未練を打ち砕いて肚を括らせる事。そして…もう一つ。個人的にはこちらの要素が強かったと見終わった段階で感じられたのが、琴乃を月ストへと追い出す(戻す)事。コレは後述で触れる要素と繋がっていくのでここで詳細は語らない。

 

 

 怒りと悲しみ。そして…決別の一撃


 訪れた月ストとどりきゅんとの再戦の刻と機。どりきゅんに言われて琴乃もその場に来ていた。
琴乃にとっては望んでなかった月ストとの再会の刻……彼女は言う。『今のままじゃ……四人の月ストじゃ、勝てない』と。まあ、全体の展開的に四人で勝っちゃマズいし、そもそもコイツは負けイベントだと思ったのは内緒。

当たり前だが、琴乃の言い草に対して『はい、そうですね』とは言えないし納得出来ない。四人からしたら、勝手に抜けたオマエに好き勝手言われる筋合いは無いって所だろう。すずと沙季は怒りを露わにし、すずをなだめた芽衣も本心では彼女達と同じ心情だっただろう。で、渚だが……琴乃に対して想定外なアクションを起こしこの物語を見た全ての者を驚愕させたと言っても過言では無かった。

 

 

 渚は、琴乃の頬を引っ叩いた。琴乃に対していろんな感情が一気に滾って噴出したのだろう。(引っ叩く前に拳を握る描写があったのでそのまま拳で殴るんぢゃねぇかと思ってしまったが…)言葉を以て対話に臨もうとした。でも、琴乃は聞く耳を持たなかった。彼女が脱退していろいろと悩んでもがいて、抗う四人の決意を軽いモノとして扱われた事にキレたってのもあっただろう…そして、琴乃の信念がブレまくってまともに四人と目を合わせられない情けなさが悲しかった。もう、渚の理性で抑え込める範疇を超えてしまった。あと、ウジウジ甘ったれるのもいい加減にしろという心情もあったかもしれない。

 

 

 琴乃ちゃんが抜けて四人になった私達が ただ弱くなっただけだと思った?

 
 ……ふざけないで


 私達は……私達だって、もう……琴乃ちゃんがいた頃の四人じゃない


 私達は、四人でどりきゅんに勝ってみせる


 そして私は ―長瀬琴乃を超えてみせる

 

 

 勝ちたいのは琴乃だけじゃない。自分達も同じ想いだと。いくら言っても分からないのなら、確固たる結果で示すしかない。頑固な琴乃に一番伝わるのがその方法しか無いってのも渚は熟知している。超えてみせると言い切ったのは、強くなった意志表示でもあるのと同時に、琴乃に囚われていた呪縛から解放されて背中の先が見えた事でもあったのだろう。そんな想いとPRIDEがここでの渚の言に凝縮されていると思える。ここでの夏目さんの声色が絶妙過ぎて鳥肌が治まらんかった。


 そして…いざ決戦の刻。どりきゅんはある提案を持ち掛ける。それは敗者のグループ解散を賭けるモノだった。無茶苦茶な提案だが退くワケにはいかない。負けたら終わりという極限状態で挑む戦いで、月ストは全身全霊をパフォーマンスに乗っけた。この戦いを観ている琴乃へ本気の想いとPRIDEが届けと……それは琴乃が驚愕するほどの成長の証として魅せ付け、五人の頃でも出したことが無い高得点を叩き出した。

 散々触れたが…この戦い、月ストは負ける。五人でも出した事が無い高得点ってのがいい敗北フラグとして効きまくっていた。どりきゅんのパフォーマンスはまさに圧巻の一言。彼女達も、これまで以上の限界を超えた領域でのパフォーマンスになっていて終わった後はかなり消耗していた。来夢曰くいつも以上に熱くなったと。もしかすると、限界領域の先を引き出してくれる期待を抱いて四人の月ストへ戦いを挑んだのかもしれない。

 個人的妄想という事を言っておくが……このバトルに負けた方がグループ解散という提案。
バトル前での琴乃と渚のいざこざで閃いた様な描写になっていたが、おそらくは月ストにバトルを申し込んだ段階で目論んでいたのではないだろうか。それと、覚悟が揺らいでブレてる琴乃への最後通告の意味もあった。

一線を超えて修羅の道へと踏み込む覚悟はあるのか?もしくは、徹底的に壊された(解散した)月ストへどうにかして戻って戦う道へ踏み込むのか?選ぶのは琴乃自身だという事を分からせる為に彼女を戦いの場に連れ出した様に思えてしまう。それは、身を切り裂かれる様な苦痛に等しいが、琴乃が自分で決断して踏み込まなきゃいけない事なのだ。

 

 

 最後に。


 この物語が、どうやってちゃんとした落し所に至るかは、この時点では全く想像が出来ない。目前に迫っている追加分の46話~50話の間で決着とはならないだろう。

これまで以上に打ち負かされ、どん底へと突き落とされた月ストの四人と、繋ぎ止めていた最後の望みまで失ってしまった琴乃。これを彼女達の宿命と呼ぶなら残酷な話。それでも……琴乃、渚、沙季、すず、芽衣の魂とPRIDEという焔は燃え尽きていないのか。敗れて尚、あきらめられないもの。もしかすると、月のテンペストが真に再生する物語はこれから幕が上がるのだろう。

 そして…この五人でしか謳えない歌がある。それは、彼女達にとっての最強の切り札。あえてその楽曲の名はここでは出さないが……自分はそいつを見てみたい。コレは完全に自分のエゴという望みでしかない。でも、あの楽曲の歌詞がここまでの状況をひっくり返す反抗のシンボルでもあり、本編に出すのならここが一番最適だろうなと思うから。