限界に挑み続け、闘う者の新境地がそこに在った……
誇張でも何でもなく、この楽曲を初めて聴いた後に抱いたファーストインプレッションがコレだった。狭い範囲でしかないが、彼女……青山吉能が持っていて普段見せていた領域というか『貌』(かお)はほんの一部分でしかなかった事を思い知らされた瞬間でもあった。
そんなインプレッションを抱いて思い知らされた、青山吉能3rdデジタルシングル『My Tale』についてこれから斯く語ってみようと思う。
My Tale/青山吉能
青山さん曰く、この楽曲はデビュー楽曲のコンペに寄せられたうちの一曲だと言う。
様々なテイストの楽曲が寄せられたらしく、中には結構攻めたテイストの楽曲があって、そんな中の一曲がこの楽曲だったと。
曲調の方は、R&B色とEDM的な要素がミックスされた様な、ミステリアスさとスタイリッシュ感を醸し出し格好良さに全振りした、サイバーチックなダンスチューンに仕上がっていると感じられた。夜の都会を全力疾走しながら彷徨う的な画が浮かんで来る。
ミステリアスと評した様に歌う青山さんの歌唱も、彼女のストロングポイントとされる感情を全部歌声に乗せて爆ぜさせていく歌い方ではなく、あえて抑え気味でアンニュイ(物憂げ、愁い)さのある歌い方。この楽曲のジャケット写真の青山さんの表情もどこか愁いを帯びた表情が印象的。
ソロシンガー・青山吉能の門出となるデビュー楽曲『Page』や、彼女の抱く夏の日の記憶とノスタルジー感を描写した2ndシングル『あやめ色の空』とは趣きがガラッと変わっていて、上手くいかない、ままならない現状に戸惑っているが、なんとか抗って前に進んでいこうとする心情を彼女は歌声に乗せていっている。だから、この楽曲で青山さんは感情を爆ぜさせる歌い方ではなく抑え気味に聴こえる様な歌い方にしたのだろうと思える。
専門的なモノは全然分からないが……全体的にこの楽曲のキー(音域)は、青山さんにとっては低い。もっと高いキーで張り上げて伸ばす歌い方……自分は血の流れる魂の絶唱と勝手に称してしまっているが……前述でも触れたが、この楽曲ではそういった絶唱を響かせていない。サビでは、感情がいくらかは乗って上がっていくものの、全体通して感情を抑えて囁く感じの歌声になっている。
サビの歌声の件になるが、抑え気味とは言っても青山さんの歌声のストロングポイントでもある澄み切った高音域での歌声の伸びは失われていない。イメージとして感じられたのは、極細な糸なんだけどもちゃんと張りがあって遠くに伸ばす様な感じ。全方位に解放させていくのでなく限られた範囲に凝縮させた感じでもいい。何か感情をどこかに置き忘れた様な歌声に聴こえたのはその影響なのかもしれない。
メロディを忠実になぞった歌い方ではなく、ただ単純にメロディに身を委ねたいい意味での無機質的な歌い方に彼女は挑んだのだろう。ボーカルを主張させ過ぎないのがこの楽曲で設けたテーマだと、青山さんはインタビューにて語っている。いい意味での無機質的な彼女の歌声は、そうした彼女の挑戦が実を結んだ成果だと思える。
それは、青山吉能がこれまでの軌跡で限界と闘った末に得られた成果でもある。今を戦えない者に未来は無いという事は、彼女が実感している事だろうからこそ攻めた楽曲を持って世に戦いを挑んだとも言える。
で、詞の方だが、1st・2ndシングルに共通している青山吉能の心情描写とは違っていて、曲調の世界観に合うモノを自由に書いて欲しいと作詞されたタイラヨオ氏にオーダーされたと。そのテーマを汲み取って、曲調に合わせてビターでクールに仕上げた印象。青山さんの言によると、この詞の解釈については明確なモノを定めていなくて、リスナーそれぞれの解釈に委ねると。
詞で特に印象深かったのは、『遠く近く』『喧騒と静寂』『明確と曖昧』といった対義する言葉を多く使っている所。自分の解釈だが、これらの対義する言葉はポジティブとネガティブな感情を指している言葉で、前述した青山さんのアンニュイでどっちつかずな歌声が合わせていく事で、変わろうという想いは抱きつつもその一歩先へ踏み出せずに悶々としている。
しかし、各サビの締めのフレーズである『形の無い多面性の~』『決まりの無い無限大の~』『未来へ続く未完成の~』は、彼女自身やリスナーをも鼓舞していく風にも捉えられる。そしてサビのラストフレーズとなる、『My One And Only Tale』(私の唯一無二の物語)というフレーズで締めていく。
迷って彷徨いながらも……そんなままならない世界を受け入れ抗う反骨の物語。この楽曲はそんな謳なのだろうと感じ入る。最終的には、苦悩や葛藤を断ち切って進む覚悟を括ったと捉えている。
誰もが、ずっとその良くない状況を続けたいワケではない。何とか好転していく事を望んで前に進もうとしていく。そういった意味では、メッセージソングという枠を越えてリスナーの魂の火を燃え滾らせる“何か”をもたらしてくれる様な気持ちにさせられる。
派手さは無いけども丁寧に織り込まれたメロディ。洗練された大人な世界観のダンシングチューン。苦悩と葛藤しているビター感が沁みて来る歌詞。一曲の中に悲哀や希望が入り混じった人間臭さに満ちたドラマチックな楽曲。
初聴時のインプレッションも強烈なモノだったが、聴き込んでいく事でもっと深みが出て来るタイプの楽曲だと思うので、そういった意味も含んで今後も長く付き合えそうな楽曲だと感じられた。