巡礼者のかく語りき

自由気ままに書き綴る雑記帳

アイプラ楽曲ライナーノーツ #37 裏と表

 

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 裏と表 /月のテンペスト


 『恋と花火』の初出から、約一年の刻を経て発表された月のテンペストの新曲。
この楽曲の存在が初めて発表&披露されたのは、2022年7月2日に開催されたLIVE『IDOLY PRIDE VENUS STAGE 2022"約束"』夜の部。当時、まだゲームの方でも実装はされておらず、MVも音源そのものも披露されていなかった為、このまさかの展開に驚き会場がどよめきに包まれたのは今でも鮮明に思い出される。

 音源は、3rdアルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [未来]』に収録のほか、MV(フルサイズ)に、2022年7月に開催されたLIVEの模様を収録したアルバム『Live at IDOLY PRIDE VENUS STAGE 2022"約束"』に収録されている。

 ストリングスとピアノが奏でるそこはかとない翳りの雰囲気を持つミステリアスなスタイリッシュ感、それに相反する様な月ストの五人のハングリーな剥き出しの感情が爆ぜる様を思わせるアップテンポ感。さしずめ、翳りの要素が『裏』で、五人の剥き出しな感情が『表』なのかと思わせる。それは、作中において月ストが停滞し、そこから反撃に転じようとする模様に通じているのではないだろうか。本曲では、足掻きながらも、希望を見出し抗う少女達の姿を描き出している。

 そして、これまでの月スト楽曲とは明らかに違っているのは、レベルアップを遂げて底上げされた月ストのパフォーマンスの質。特に、歌声の質はこれまでとは圧倒的に違っている。その本質にあるのが、前述でも触れた剥き出しの感情…リミッターを解放してダダ洩れする激情。キャスト陣の歌声がこの楽曲に血を流せた賜物。

 メンバーの歌声で特筆すべきなのが、夏目ここな、宮沢小春、日向もかの三人。
本曲の要になっているのは、表にハッキリと出ているスタイリッシュな格好良さ。そこにガッチリとハマったのが、夏目さんの柔和だけれどもハスキーなテイストの低音の歌声が見事なギャップとなり楽曲にメリハリを持たせていく。

宮沢さんの歌声は、本曲が持つ曝け出した情感と艶やかさを加速させている。その情感と艶やかさがこの楽曲における宮沢さんの歌声の魅力へと至る。2番Bメロで彼女が歌うソロパート。ここでは、歌声のうねり…所謂、こぶしを利かせる事により情感の強さを醸し出している。艶やかさの部分だが、彼女が歌声で出していたのは、魅了するという類のヤツではなく、妖しげなミステリアスさだと感じている。Cメロでのソロパート『もっと見てよね』に纏っていた粘度のある色香はその真骨頂。

日向さんの歌声は、魅惑的かつキュートな艶やかさに力強さのある低音域の格好良さを見事に両立させている歌声に聴こえる。このバランスを保っている絶妙な匙加減は彼女にしか出せないモノだと思い知らされる。

夏目さん、宮沢さん、日向さんの歌声がこの楽曲で最も映えて目立つのがCメロ。2番サビから間奏への勢いそのままに、一旦落ち着いてラスサビへ渡していく箇所。おそらくここが楽曲の要…決め所と言っても過言では無い。その難易度の高いパートを三人は見事に決めている。

ここまで、橘美來と相川奏多の歌声には触れていなかったが、その理由は彼女達の歌声の存在が三人と比較して希薄だという事では無い。寧ろ、橘さんと相川さんの道筋を創っていく様な安定感抜群の歌声があるからこそ、夏目さん、宮沢さん、日向さんの歌声がより魅力的に聴こえるのだ。橘美來と相川奏多の歌声は月ストの屋台骨でありボーカル部門のツートップである事を強烈に印象付けさせた。

 あくまでも個人的主観だが…アイプラ楽曲の中には、どこかキャラクターとキャストがオーバーラップして、双方の境界が曖昧になって強くリンクしていく楽曲がいくつか存在している。この楽曲はその中の一つだと感じている。

月ストの楽曲で挙げると『The One and Only』がそれに当てはまる。ただし、この楽曲は『The One and Only』と全く違う方向性の楽曲。何か縛られているモノから解放された様な清々しい要素は一切無い。

月ストのメンバー達も、作中にて逆境と真っ向から抗おうと戦っている。そして…キャラクターに魂を宿していくキャスト陣であるミュージックレイン3期生の五人も、ままならない状況に見舞われる事が多かった様に思える……もっと強く!もっと輝きたいと渇望する叩き上げの反骨の魂をキャラクターとキャストは謳に込めた。何度も出て来る『君』という詞は双方の関係性でもあるのかもしれない。

 それは、五人…いや、十人の剥き出しな叩き上げの魂によって謳われる決戦仕様な『戦いの謳』であり、『裏』から『表』へ覆そうとする膨大なエネルギーを滾らせる月のテンペストの新たな『アンセムであると自分は断言している。その説得力は、楽曲が持つ力と月ストの生き様が宿ったパフォーマンスによって限界を超えて昇華した何よりの証なのだから。