Precious/長瀬麻奈(CV:神田沙也加)
アルバム『IDOLY PRIDE Collection Album [奇跡]』に収録された長瀬麻奈の楽曲。
ゲームアプリ版のイベントストーリー『愛歌う星の継承者』では、長瀬麻奈のトリビュートLIVEに出演する事になった成宮すず(CV:相川奏多)がこの楽曲を歌う過程が描かれる。すず曰く、麻奈の楽曲の中でこの楽曲が一番好きな楽曲との事。(ただ……現時点ですずverは音源化されていない)*1
リアルでは麻奈の新曲という扱いであるが、作中では、すずがアイドルになる前から知っている事から麻奈の生前にリリースされた楽曲という事になる。
作中において明確な描写は無く、憶測と妄想の域だが……おそらく、麻奈がこの楽曲の詞を書いたのではないだろうか。その根拠だが、アプリゲーム内で読める麻奈の日記に、持ち曲のいくつかは彼女が作詞をしている記述があって、この楽曲はその内の一つだと考えられる。本稿では、麻奈が作詞を担当していたという説で書き進めていく。
タイトルの訳は、貴重。もしくは、大切なという意味で、物や人に当てはめる事が出来る言葉。
詞を読み進めていくと、特定の人物への想いと取り巻いている刻を表現した感謝の謳だと思える。『そこにいてくれるだけで』『一緒に描く世界は』『私たち』といったごく近い存在との繋がりを示す言葉から、麻奈が大切に想っていて感謝を歌でもって伝えたいのは、マネージャーである牧野航平だろう。
麻奈にとって牧野は『唯一無二の存在』であり、自分と同じ道を歩める人だと直感で感じた。秘めた恋愛感情、最も信頼できて背中を預けられる戦友的存在…etc二人を取り巻くあらゆる要素全部含めて『唯一無二』の掛け替え無い大切な人なんだと。
アイドル・長瀬麻奈としての想いよりも、人間・長瀬麻奈の自我と性(さが)みたいなモノを綴っているのが本質なのだろうが、アイドルからファンへの想いを伝える楽曲として捉える事も出来る。どちらにも共通しているのは、大切な存在(=特定の人)へ送る、純然で繊細な想いを込めた大切な楽曲という強いメッセージ性のある楽曲。
で、楽曲全体のインプレッションだが、曲調のジャンル特定は色々あって難しく、個人の主観ではあるが……爽快でお洒落なジャズフュージョンチックな曲調という印象。
シンプルに総評してしまえば、奇を衒わないオーソドックスなThe アイドルソングの様に感じた。コレは、『First Step』や『星の海の記憶』から受け継がれた麻奈の楽曲の系譜なのだろう。小細工は要らない。この直球一本のスタイルで戦うという麻奈の強いPRIDEを感じさせる様に思えて来る。
ただし、楽曲の構成は前の二曲と一線を画している様に思われる。それは違和感と言い換えても良い。あくまでもこの感覚は個人のモノでしかないのだけども…その違和感の正体は、全体のメロディ進行なのかと思っている。
『First Step』と『星の海の記憶』で共通していたのは、楽曲の起承転結…抑揚みたいなモノが分かり易くて、聴き心地が良くスッと入って来るといったインプレッションだった。なおかつ、インパクトも強い。
しかし、この『Precious』は適度に速いリズミカルな楽曲ではあるけれど、楽曲の抑揚が少なく淡々としていて締まらない印象を受ける。スペシャルワンのアイドルである長瀬麻奈には、もっとインパクトのある楽曲でも良いのでは?と。だが、そこに神田沙也加の歌声が入る事によって絶妙な調和となって響いていく。それは協和音となり楽曲に深みをもたらしている。
彼女の歌声は、抑揚を抑え淡々とした曲調と反してメリハリをかなり利かせている様に感じる。特に、サビでの歌唱は快活でありながら包容力に溢れている。これは、必要以上に力強く歌い上げないで、優しく語りかける方向で歌っている。そう聴こえるのはこの楽曲が大切な存在へ送る謳だから。麻奈ならそうするだろう。一つ一つの言葉を確実に音に乗せたいから。聴いてくれる人に全部届けたいから……自分はその様に解釈している。
*1:2023年5月時点